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THE ORION  作者: 黒羽感類
Season One 学院編
16/72

落下と海

アネッテは、みんなとわかれてから一人部屋にこもっていた。

部屋の中で剣を握って素振りをしていたのだ。

(引力の授業、全然結果残せなかったなぁ。やっぱ、引力苦手。コツが掴めればなぁ)

アネッテは考え事をする時、剣の素振りをすると落ち着いて思考を巡らせることができる。

小さい時から、剣の稽古をつけられて育ったため、剣を握ると安心するのだ。

(それにしても、今日の演習の授業はすごかったなぁ。意外と私って実践派だったりして・・・)

そう思いを巡らせていると、アネッテの左足の上に教科書が落ちてくる。

「いでっ!!」

ちょうど教科書の角があたり、目ん玉が飛び出るほど、痛い思いをした。

教科書を拾って「なんだ。教科書か」と言いながら元々置いてあった机の上に教科書を戻す。

そして、また素振りを始めた。

しかし、またもや教科書がアネッテの左足に落ちる。

今度は角にはあたらなかったが、それなりに痛い思いをする。

「なに!? ホントにもう!」

そうして、さっきと同じように教科書を机の上に戻そうとするとアネッテは気付く。

机の上に置いてあった物が全て、床に落ちて散乱していた。

更に、ベッドにあるはずの布団や枕も、掛けてあるはずのランプや上着までも、とにかく部屋にある物の多くが床に落ちていた。

「な、なんで!?」

自分は床に置いた覚えはない。これら全てを不注意で落としたはずもない。

ならば、何故こんな状況に。

アネッテはとりあえず、部屋を片付けたが、不気味に感じたため、部屋から出ることにした。



         ◇◇◇



ガブリエルは、寮の廊下で目を覚ました。

ついさっきまで渦が巻いていた床には何もなかった。

「おえっ」

ガブリエルは、気持ち悪さが残っており、えずく。

渦の中に飲み込まれた後、ガブリエルは体が渦を巻いて回転しながら落下していた。

どこまで落ちても底がなく、いつの間にかガブリエルは気を失っていた。

「ちっっっっくしょう!!!!!」

まだ、誰が仕掛けてきたのかは不明だが、必ず犯人を捕まえる。そう決意した。





ガブリエルは寮を出て、学院の校舎に入り、演習場へ向かった。

見晴らしが良い所ならば、罠を仕掛けにくいと考えたからである。

しかし、学院の廊下を歩いている途中、背後からゴゴゴゴゴゴという低い音がした。

ガブリエルは振り返ると、廊下の十メートル後ろを先ほどの渦の更に三倍の大きさの渦が、床に天井、左右の壁からガブリエルに迫ってきていた。

(やっべぇ!)

渦巻くスピードも速くなっており、渦自体の動きもさっきのより数段速い。

(あんなんに飲み込まれたらただじゃ済まねぇ・・・)

ガブリエルは走り始めた。

(絶対に追いつかれてたまるかぁ!!)





ガブリエルは走りに走った。

しかし、一向に渦からは逃れられない。

どうやって切り抜けるか考えるが走るので精一杯だ。

(渦の魔法を使っている本人を叩けばいい。だけど、そいつの居場所がわかんねぇ!)

そう苦悶しているとそこへ、向かいからアネッテが走って来ているのが見えた。

「おい! アネッテ! こっちへ来るな! こっちは危険だ!!」

その声にアネッテはガブリエルとその背後にある渦に気が付く。

アネッテは踵を返して走り出す。

「ガブリエル! なにあれ!!」

「わからん! でも、おそらく誰かがかけた魔法だ! 本人を見つけるしかない!!」

「魔法!? ねぇ! あの渦っていつから?」

「十五分くらい前からだ!」

ガブリエルの返答にアネッテは気が付く。

「もしかしたら私も魔法の攻撃受けてるかも!」

「なんだって!? いったいどんな攻撃だ!」

「なんか、上から物が落ちてくるの!」

アネッテは「ほらっ」と言って、廊下の壁を指さす。

廊下の壁に掛けてあったランプがアネッテが通ると、みな落下していた。

「なんじゃこりゃ!!」

「これだけじゃない! 上から分厚い本や花瓶、果物、ナイフ、人形。私が行くところでいろんな物が落下してくるの!!」

「なあ、俺たちの移動先まで追って来るってことはさあ、俺達犯人に監視されてんじゃねぇの!!」

「確かに!! 私らの近くに犯人がいるのかも!!」

「で、どうする?」

「私に任せて!! 何か長い棒ないかな?」

「長い棒?」

ガブリエルは、アネッテの頭めがけて箒が落下してきているのに気が付く。

「おい! アネッテ! あれ!」

アネッテは頭上の箒を掴み取り、その場に止まった。

「アネッテ! 何をするんだ!?」

アネッテは、箒を握って構えた。まるで剣を握っているかのように。

するとアネッテは次から次へとアネッテの周りに集まってくる落下物を箒で弾き始めた。

弾かれた物たちは周りに壁や教室に飛び込んでいく。

「うお! すげぇ! 無差別攻撃かよ!!」

周囲から物がいろんな物にあたる音がする。

その中で鈍い音と共に「いでっ!!」という声が二つした。

その瞬間、背後の四つの渦は消滅し、物の落下も止んだ。

二人は手分けしてそれぞれ声がした方へ行った。





ガブリエルは、近くの教室で男子生徒が頭を押さえて蹲っているのを見つけた。

「おい! お前か! 俺に攻撃を仕掛けたの!」

すると男子生徒は走り出した。

「あっ! 待てぇ!!」

教室を出て、ガブリエルは追いかけた。

走って逃げる男子生徒の隣には女生徒がいた。

ガブリエルに追いつくアネッテ。

「あの女の子が犯人!!」

「わかった!!」

身体能力が高いガブリエルは走るスピードをいっきに上げた。





女生徒は走って逃げながらもチラチラとアネッテの方を見ている。

アネッテは再び箒を手に取り、自分に向かって落ちてくる物を弾いた。

更に、走って逃げる女生徒の背に向かって物を打ち返す。

打たれた物は女生徒の足にあたり、女生徒は転ぶ。

それをガブリエルが捕まえ、片脇に抱え込んでそのまま逃げる男子生徒を追いかける。

アネッテへの攻撃は止み、ガブリエルは激走もあって男子生徒の背後までたどり着いた。

男子生徒はポケットから水が入った小瓶を出す。

しかし、アネッテはそれを見逃さなかった。

アネッテにはその小瓶がなんなのかはわからない。

それでも不可解な行動であることには変わりはなかった。

アネッテは、落下してきた物を拾って小瓶めがけて打ち抜く。

アネッテが打った物は男子生徒の手に当たり、小瓶は床に落ちる。

ガブリエルは男子生徒が怯んだのを見逃さなかった。

男子生徒を取り押さえ、二人を脇に抱えてアネッテと合流する。





「さて、こいつらどうする」

「とりあえず、なんで私らを狙ってきたのか。教えてもらおうか」

その時だった。

「こういう時のために予備を用意しているのさ」と男子生徒が言って服の下から小瓶を取り出し、床に全ての水を垂らした。

「しまった!!」

ガブリエルとアネッテは間一髪、渦に足を突っ込まずに済んだ。

「俺にその技が効くと思ったか!!」とガブリエルが言うと男子生徒は女生徒を連れて「お前らじゃない」と言って渦の中に入って行った。

「自分が入るのかよ!!」

渦はそのまま素早く移動して、ガブリエル達の視界から消えた。

「追わなくてよかったか?」

「いいよ。これに懲りたでしょ」




         ◇◇◇




学院四年メタリオスの生徒である、スガッチの魔法『水滴の海』の能力は、スガッチが水を垂らした場所に渦を発生させるというものである。

垂らした水が多いと渦のサイズは大きくなり、渦巻くスピードが速くなる。更に、渦の中の奥行が深くなり、より多く吸い込める。

渦には複雑な命令はできず、移動させることくらいしかできない。


学院四年メタリオスの生徒である、ポルミィの魔法『楽しく落とそう』の能力は、ポルミィの視界に入っている物で床に接していない物を床に落とすというもの。

落下させる物には簡単な命令ができる。そのため、必ずしも上から下へ一直線に落ちずに、緩やかに落下する物もあり、真横から飛んでくることがある。

落とせる物の大きさや重さには制限があり、制限を超えた物を落とそうとすると長時間まばたきをせず、その物だけを見つめていなければならない。

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