とある悪役令嬢が断罪を逃れるために色々頑張った結果、ちょっと特殊な形で幸せになるお話。
はじめましての人ははじめまして、ちょっと気分転換に短編を書いてみようと思った猫です。変な捻りもなく、乙女ゲームの中に迷い込んでしまった主人公が幸せになる物語ですので、気軽に読んでいただけると幸いです。
私の名前はルチル・グローゼリア、キンバーライト王国でもトップに位置するグローゼリア侯爵家の令嬢であり、次期国王となるリアン・キンバーライト王子の婚約者でもあり……学園最後の卒業パーティーで断罪される悪役令嬢でした。
フフフ、悪役令嬢ですって、可笑しいでしょ?子供のころから自分の顔を「どこかで見た事があるわねー」なんて思っていたのですが、どうやらそれは前世の記憶が影響していたようですね。
紫水晶のような長く艶やかな髪に深い緑色の瞳、どこかで見た事のある生まれつきの悪役顔に何か違和感を覚えていたのですが、お父様もお母様もお兄様も、何故か使用人達も全員きつめの怖い顔をしていましたので、何かそういうものだと漠然と思っていたのですが、まさか悪役令嬢だったとは思いませんでした。
その違和感の正体に気づいたのは、私が5歳の誕生日でした。
両親から「そろそろいいだろう」と初めて魔法を教えて貰った時の違和感と、婚約者として紹介された王子の顔に既視感を覚え、唐突に前世の記憶が噴き出しました。
ルチル・グローゼリアは主人公を虐める悪役令嬢であり、この世界が『再生の花嫁』と呼ばれる乙女ゲームの中である事、そしてルチルには断罪される未来しかないという絶望的な事実に唖然として、数日間寝込んだ事を憶えています。
いきなり倒れた私にグローゼリア家はもう大騒ぎになったのですが、それはまあこの際関係ないのでいいとして、私からすれば今更そんな事を言われてもというのが正直な気持ちでした。
何故なら私にとって前世の記憶は曖昧で、主観的な認識としてはどこまでもルチル・グローゼリアであったからです。
笑い声は「ウフフ」ですし、傍仕えや身分が下の者は本気で私達とは違う生き物だと思い足蹴にしていたのですから、そんな中、いきなり現代日本人的な価値観がスコンと入って来ても戸惑いしかありませんでした。ただ、今の生活を続けていれば待っているのは絶望的な未来ですからね、こうなったら一つずつ生活習慣を見直すしかありません。
とにかく泡のように消えそうになる前世の記憶を手繰り寄せた結果、そのゲームはなんていうか、ちょっと年齢層の高い人を対象とした、所謂『登場人物は全員18歳以上です』という注釈が付くタイプのゲームだったようですね。内容は中々ハードな展開で……というより突拍子もない、言ってしまえばクソゲーでした。
何故前世の私はそんなゲームをしていたのかわかりませんが、とにかくそのゲームでのルチルの未来は断罪エンドか、国家滅亡か、全滅エンドしかないというヤバイ結末しかありませんでした。
主人公を虐めたキャラは断罪、特定キャラの攻略に失敗したら全滅エンド、あまりルチルと関係のないルートでもオマケのように断罪されてと、悪役令嬢のルチルは大体どのルートでも破滅的なエンディングを迎えるという、5歳の子供が受け止めるにはなかなかヘビーな内容でしたね。
こうなったらもういっその事、家に引きこもって主人公に出会わないという選択肢もあったのですが、この国の貴族として認められるためには国立オルヴァルト学園を卒業しない訳にはいきませんし、そもそも貴方に耐えられます?主人公が誰かのルートの攻略に失敗したら国が滅んで諸共断罪エンドなのですよ?そんな理不尽な死がいつ襲ってくるかもしれない日々をただ黙って待つという事は、私にはできませんでした。
困難があるのなら全力で蹴散らしに行くのが私、ルチル・グローゼリアです。むしろ積極的に主人公と関わって友達ポジションを確保し、失敗しないように横から手伝おうと心に決め、子供の頃から魔法に剣にと修業した結果……。
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ボンヤリ目を覚ました私は、ルチル・グローゼリア、16歳。1年前、無事このゲームの主人公のエリーゼ・ラフィスさんと知り合う事が出来たのですが……どうも前世の記憶と現実の間に色々とズレがあるのですよね。
この国では12歳までが義務教育で、そこから3年間の中等部……魔法の使えない平民はここが最終学年になるのですが、そこから先は貴族だけが使えると言われる魔法などを教える3年間の高等教育がありました。この高等教育で貴族としての価値観や能力を教え込まれる訳なのですが、まあその辺りの事はいいですわね。
とにかく、この学歴差により平民の成人は12歳から15歳、貴族は18歳が成人とされています。そういうこちらの世界の事情に合わせて出会う時期が早まったのかもしれませんが、その辺りの都合は深く考えても仕方がないのかもしれません。
とにかく、無事出会う事が出来た主人公であるエリーゼさんは、特別な存在でした。当然のように魔法は全属性持ち、その上あらゆる癒しの奇跡や魔物特攻ともいえる希少な聖属性持ちという、聖女枠での高等部への特例入学です。
貴族しかいない高等部に転校してきた平民のエリーゼさんは当初、それはもう凄い扱いでした。まるで白鳥の群れの中にアヒルが1匹紛れ込んだというような大騒ぎだったのですが、どんな困難も、エリーゼさんは持ち前のポジティブさですべて乗り越えていきました。
まあ一番の苛め役の私がエリーゼさん側に立ちましたからね、ゲームと比べるとあまり酷いものはなかったのかもしれませんが、入学から一年経過した今では学園のマドンナと言っても差し支えないくらい人望を得て、上級生にも下級生からも人気者なのですが……改めて考えると、一年で貴族社会に馴染んだエリーゼさんが恐ろしいですね。ただそれが変な力とかではなく、誰にでも分け隔てなく優しくて、行動力があって、可愛くて、才能があって、努力家で、本当に良い子なんですよね。
いやーこれは悪役令嬢だったルチルなら目の敵にしただろうなーというくらい、非の打ちどころがない人でした。
光を直視できない方といいますか?エリーゼさんは後ろ暗い人には嫌われるタイプですわね。
とにかく、私には前世の記憶がありますから、そんなエリーゼさんと一定の距離を保ちつつ、この国を崩壊させる大事件とかを解決しながら……って、ただの学生にそんな重荷を背負わさないでください!と誰かを罵りたくなるのですが、ゲームの内容にツッコミを入れてもしかたがないですからね、とにかく一緒に事件を解決していきました。
好感度でいうと私も結構良いところにいっているのではないかしら?と自画自賛できる親友ムーブが出来ていると思ったのですが……あまり妄想を重ねているのもいけませんね、何か懐かしい夢を見ていたような気がするのですが、その事を思い出そうとするとまるで何かが全力で拒否感を示す様にジンジンと頭が痛みました。
ただ何か、フワフワした幸福感に包まれていたというか、達成感と言うか、とにかく何かムズがゆい気持ちで落ち着かなくなりますね。
悪役令嬢である私がニヤけている事に気づいて、慌てて口元を押さえて辺りを見回したのですが……使用人の誰にも見られていなかったようですね。
天蓋付きのベッドと、無駄に広い部屋。この一室だけで現代日本では23区に一軒家が建つくらい豪華な部屋はグローゼリア侯爵家の財力を見せつけているのですが、その侯爵家付きの有能なメイド達が時間になっても起こしに来ないというのは改めて考えると変ですわね。
何故か妙に周囲の世界がキラキラ輝いて見えたのですが……はて、いつの間にか照明を変えたのでしょう?って、本当に朝日が照ってやがりますわよ、今何時ですの!?
「今日は学校ですのに」と慌てて高級布団を蹴散らし、怒りに任せて枕元にある呼び鈴に手を伸ばしかけたのですが……私はそこで自分が全裸であるという事に気づきました。
「ん……」
何故?と首を傾げていると、私の隣から、鈴の転がるような可愛らしい声が聞こえてきました。
「あら、すみません、起こして……」
時折出てしまう小市民的な感覚に引きずられ、反射的に謝ってしまったのですが……そこで私は固まりました。
私の横には何故か、全裸のエリーゼさんが横たわっていたからです。
フワフワした金髪と、もう私の語彙力では表現できないくらいこれでもかっていうくらい可愛いを詰め込んだ美少女が、気持ちよさそうに寝転がっていました。
美女というより美少女。可愛いに全振りしてステータスがカンストしているどころか飛びぬけている美貌の持ち主で、それでいて大きすぎず小さすぎずのナイスバディーは柔らかく、日の光に照らされている姿はまるで後光がさしているように見えるのですが……流石にこれは太陽の光が反射しているだけの目の錯覚ですね。
とにかく、そんなエリーゼさんが全裸で私の横に横たわっていました。大事な事なので3度言いますが、全裸のエリーゼさんが、一緒のベッドで、横に寝転がっていました!
「うひっ!?」なんていう悪役令嬢には相応しくない悲鳴をあげて跳びあがってしまったのですが、色々と許して欲しいと思います。
その私の奇怪な声に目を覚ましたのか、うっすらと目を開いた先には吸い込まれそうな空色の瞳があって……その瞳が私の姿を見つけると、エリーゼさんはフニャリと笑いました。
「…おはよう、ございます?」
どこかボケたよな反応ですら可愛いって卑怯でしょう。どれだけ笑顔の練習をしても子供に泣かれる私とは大違いで……って、それはいいですわね。
「おはよう、と言うには少し遅い時間ですわよ」
私が出来るだけいつもの調子で指摘すると、エリーゼさんは辺りが明るくなっているのを確認して……。
「そうですね」
照れたように笑う姿がとてつもなく可愛いとかどうしてやりましょうかこん畜生!!本当ーに、どこかとぼけた所があるのですが、見た目は絶世の美少女なんですよね。
そんなとんでもなく可愛いエリーゼさんと私は……一線を越えてしまったのですよね。
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
どういう事!?自問自答したのですが、越えてしまったものはもう越えてしまったというか、流れとか勢いとか、事件が解決してホッと一息ついた時に良い雰囲気になってしまったというか……ゲーム的な強制力が働いたと思う事にしましょう。
そりゃあ、グローゼリア家の優秀なメイド達も起こしに来ないでしょう。そして人払いされているという事は、メイド達にも私達の間に何があったのか知れ渡っているという事で……え、次メイド達と顔を合わせる時に、私はどういう顔をすれば?
私はグルグルと色々な事を考え込んでしまい、恥ずかしさのあまり枕に顔を埋める事になったのですが、もう、どうしてくれましょう!
人畜無害そうな顔でぼんやりしているエリーゼさんなのですが、ベッドの上ではまるで人が変わったようにグイグイくる人だったのですよね。
そりゃあ、ゲームでは王子だろうと次期侯爵だろうと宰相だろうと他国の王子だろうとショタだろうと暗殺者だろうと仲良くなるのは知っていましたよ、ですがこれほど……気持ち良いとは知りませんでした。
反則でしょう、そりゃあどんな殿方でも落ちますわ、悪役令嬢である私が太鼓判を押してあげるレベルでエリーゼさんは床上手でした。
その時の事を反芻すると顔がニヤケるのが止まらないのですが、何とか気合でポーカーフェイスを作っていると、エリーゼさんには不思議そうな顔をされてしまいました。
これはあれですね、「好感度を稼ぎすぎました」これに尽きると思います。
ゲームでは大体2年目の後半くらいに主人公とヒーローは結ばれて、残り1年をラブラブして過ごしながら最後の大事件がみたいな流れで卒業パーティーと言う断罪の日を迎えるのがテンプレートだったのですが、どうやら私は好感度を稼ぎ過ぎてしまい、1年目の終わりで、その……誰よりも早くルートに入ってしまったようですね。
え、こうなるとこれからどうなるのですか?正直ゲームにルチルルートなんてありませんし、これから何が起きるのかまったくわからなくなってしまったのですが、どうしたらいいのでしょう?まだまだ起きていない大事件も多く、これからは攻略を見ずにこのムリゲーをクリアしないと……断罪ルート?そんな馬鹿な。
「大丈夫ですか?」
青い顔をしている私を心配して、エリーゼさんが優しく声をかけてきてくれたのですが、これからの事を考えるのでいっぱいいっぱいで、まともにその顔を見る事ができません。なんたって自分の命がかかっているのですからね!
「その、昨日の事は…無かった事に、しない?」
そういう事にして、改めて誰かのルートに入ってもらうのはどうでしょう?それなら軌道修正できない?セーフ?
私は何とか無理やり攻略法をひねり出したのですが、その言葉を聞いたエリーゼさんは悲しそうに眉を寄せました。
「嫌です」
そしてあのエリーゼさんが、ハッキリと私の提案を否定しました。
「何でそんな事を言うのですか?私の事が嫌いになりました?」
腕を搦めてそのまま押し倒してくるエリーゼさんなのですが、地味にこの子、力が強いのですよね。私も鍛えているのですが、主人公補正なのかなすすべなく押し倒されます。
「そうではありません、そうではなく…っん……」
反論する口を無理やり塞がれると、エリーゼさんはそのまま第2ラウンドに突入する構えをみせました。何なんですかこのベッドヤクザ!
「待って、待ちなさいーーッ」
そのままエリーゼさんのペースで交渉は決裂したのですが、こんな事をされてもエリーゼさんの事が嫌いになれないのは、私も十分エリーゼさんに絆されている証なのでしょうね。ただまあ、私の未来の事もありますし、ルートによっては勿論エリーゼさんの未来でもあるわけですからね、その、頑張りましょう。
*****
という決意を固めて早2年、ルチル・グローゼリア、18歳です。いやー本当にエリーゼさんと出会ってからは色々ありました。
下手したら王都が半壊するレベルの魔物のスタンピードを何とかして、国家転覆をたくらむ闇魔法の結社を壊滅させ、他国との軍事衝突を何とかして、王妃殿下によるクーデターを阻止して、エリーゼさんとイチャイちゃしてと、余りにも濃厚な学園生活でした。
そして今日はとうとう卒業パーティーの日という、私の断罪予定日ですね。ゲームでの私はこの卒業パーティーで今までの罪を暴露されたり、リアン王子から婚約を破棄をされたりと色々ある訳ですが、流石にこれだけの功績を打ち立てていますからね、いきなり御家断絶や処刑とかはないと思います。無いですよね?うっすらと嫌な予感がして考え込んでしまったのですが、クスクスという笑い声が、私の意識を現実に引き戻しました。
「どうしたの?君が考え事をしているとまた大事件が起きそうで怖いな」
私の目の前に居るのは、婚約者であり、この国の次期国王であるリアン・キンバーライト王子ですね。学園を卒業すると言う事は私の妃教育が本格的に始まる日でもありますからね、その打ち合わせで王城にいた流れで、一緒の馬車で学園に戻るところでした。
フワフワ甘々の王子様然とした幼馴染も、流石に18ともなれば凛々しくなかなか格好良く成長していますね。
こういうキャラは裏表があったりするものですが、リアンは正真正銘のフワフワという、絶滅危惧種みたいな存在でした。
というより平民がいきなり王子と結婚したり、王子を支える次期侯爵と結婚したり、隣国の王族に嫁いだりを「愛があれば大丈夫だよねー」と送り出すポジションのキャラですからね、かなりお気楽な頭をしています。
唯一、リアン王子ルートだけは主人公を助けるために気高く強い王子に成長するのですが、今回はそのルートに入っていないので、頭はフワフワのままですね。
「いえ、今日で学園を卒業かと思うと感慨深くて」
私は淑女の微笑みを浮かべながらそう言うと、リアンは「そうだねー」と呑気に返事を返しました。
ちょっと頼りの無いところはあるのですが、この国の問題は大体解決していますし、悪役令嬢なりにですが、他の攻略キャラともある程度の距離を詰めているので今更何かあると言う事は無いはずです。
「その割に震えている気がするけど、本当にどうしたの?寒い?」
指摘されて気づいたのですが、指先が微かに震えていますね。そりゃあまあ、今日が運命の日ですからね、99%大丈夫とは言え、ゲーム的な強制力でひっくり返るなんていう事もあるかもしれません。
「本当に大丈夫ですわ」
笑って誤魔化そうとするのですが、流石にその虚勢はリアンにも見破られたようですね。震える私の手を両手で包んで温めてくれるのですが……ただ正直に言いますと、私が求めているのはこの手じゃないのですよね。
「ありがうございます、リアンが励ましてくれると100人力ですわ」
私は空虚な笑みを浮かべると、リアンはホっとしたような顔で笑います。その婚約者の笑顔に、何か悪い事をしているような後ろめたさを感じたのですが、そのままお互いの学園生活やらこれからの事を話しながら、時間をつぶします。
そうして学園につき、私はリアンにエスコートされながらパーティー会場である大広間に向かうのですが……王子は少し硬い顔で、呟きました。
「ごめん」
その謝罪の意味を聞き返す前に私達の名前が呼ばれ、手を引かれるままに、煌びやかなパーティー会場に足を踏み入れました。
そこに居並ぶのは着飾った学友達で、チラホラと、OBというか、主要な貴族の親や親戚達もきているようですね。勿論有力中の有力貴族であるグローゼリア侯爵家からもガイウスお兄様が参加している筈なのですが……人混みに紛れてわかりませんね。
キョロキョロという程ではありませんが、辺りを一瞥するように見回した私を見て、リアンはどこか悲しそうな顔をしたかと思うと、エスコートする手をゆっくりと放し、数歩前に進み出ました。
「殿下?」
勿論キンバーライト王国にこのようなエスコートの作法はないですし、その、ここで……手を離されるという出来事に思い当たるものはあったのですが、「ありえない」と、私の頭はそのイベントを否定しました。
「皆、楽しんでくれているかな?ここで僕は、皆に一つ、伝えなければならない事がある」
リアンがパーティー会場の全員に呼びかけるように声を上げると、辺りは何事かと静まり返り、全員が王子の一挙手一投足を見つめるように、視線をこちらに向けました。
その大量の視線を平然と受けながら、リアンは私の方を振り返り、悲しそうに笑ったかと思うと……こんな事を言いやがりました。
「僕、リアン・キンバーラントは、ルチル・グローゼリアとの婚約を破棄する!」
……………………………………………………。
………………………………………。
……………………………。
……………。
…は?
まったく意味が分かりません。何故?という文字が数十回、いえそれ以上グルグルと回ったのですが、まったくリアンの言っている事が理解できません。
ゲームの強制力?理不尽?ただただ足元が崩れるように全身から力が抜け、その場にへたり込みかけたのですが、私の手を取り、支えてくれる人が居ました。
「どういう事ですか?ルチル様はこの国のために、皆のために、それこそ命を賭けてまで守ってくれていましたのに!!」
一緒に居たら100人力、私の代わりにその疑問をぶつけてくれたのは、エリーゼです。
「だからなのだが……」
騒めく人混みの中から出てきたのは、ちょっと強面のガイウスお兄様ですね。まるで理解していない私達の事を馬鹿にしたような顔でそう言いながら、私の顔を睨みつけます。
「そういう訳だ、残念ながらお前はグローゼリア侯爵家からは出てもらう」
記憶が戻ってからは色々ありましたが、それでもそこそこ仲の良い兄妹だと思っていたガイウスお兄様からのあまりの一言に涙が滲んで、声が出ませんでした。
ただギュッと手を握ってくれるエリーゼのお陰で、私はその場に立っている事ができました。
「どういう事ですか?」
もう一度、冷ややかな声でエリーゼが聞き返すと、ここでガイウスお兄様は初めて意外そうな顔をして、リアン王子の方を振り向きました。
「お前、ちゃんと説明しておくと言っていなかったか?今日はそういう話じゃなかったのか?」
「ん、あれ?僕は言ったよ……言った、かな?」
だんだんと自信がなくなっていくリアンに、ガイウスお兄様は呆れたように肩をすくめながら、口をきつく結びました。
ここが公衆の面前でなければ罵倒が飛び出たかもしれませんが、流石にこんな場所で王子を罵れば何かしらの罰が待っていますからね、我慢したようです。まったく、グローゼリアの狂犬と呼ばれたお兄様がよく成長したものですが、そんな悠長に構えている場合ではありませんね。
周囲の人達もよく理解できないというように騒めき始めていますし、私はこっそりと目じりの涙を拭って辺りを見たのですが……どうやら何か手違いがあったようで、いきなり断罪だとか処刑だとかいう話ではないようですね。
というより流石に13年間頑張って来た結果、理不尽になんちゃって断罪なんかくらったら死んでも死にきれません。もしそうなったら、今度はキンバーライト王国をめちゃくちゃにする悪役令嬢として復活してくる自信がありますね。
「ああ、えっと、そう、これ」
リアン王子は懐から1枚の用紙を取り出し、トコトコと歩いてくると、私に差し出してきました。その口は「ごめんね」の形に動いたのですが、許しません、後でボコります。
とにかくこの場ではその手紙を大人しく受け取るしかなくて、私は促されるままに内容を確認してみます。そしてそこに書かれていた内容は……。
「数々の功績を称え、ルチルには男爵を飛ばした子爵位とし、家名を名乗る権利を与える。あ、本格的な叙爵式は後日ね、家名が決まらない事には叙爵式が出来ないし」
前半はともかく、後半はかなり気さくな様子で簡易な叙爵が行われたようなのですが、意味が分かりません。こんなのゲームのイベントにありませんでしたし、何故?と思わなくもないのですが、説明を求めて辺りを見回すと、ガイウスお兄様が呆れたように肩をすくめました。
「侯爵家の令嬢が平民を囲うのは問題だが、子爵本人が平民を囲うのは問題ない、そういう事だ。なんならもう1人か2人くらいどうだ、それくらいの甲斐性はあるだろう?」
「なっ!?」
ちょっと明け透けすぎな兄の言葉に顔が熱くなるのですが、絶句した私より、隣のエリーゼの方が真っ赤に茹で上がりました。
繋いでいた手も熱くなり、ゆでだこのように顔を真っ赤にしているエリーゼは可愛いなぁ……じゃなくて!色々と可笑しいでしょう!?
「ルチル子爵の誕生と、新しき子爵夫人の誕生に、皆、盛大な拍手を!」
私が口を挟む前に、リアンが音頭をとり、周囲からは万雷の拍手が巻き起こりました。いえ、まあ、王子がそう言っているのならと追従する人も多いですし、そもそもこの場面は悪役令嬢が死罪を申し付けられていようと婚約者をほって新しい妃を迎えようと皆拍手しますからね、そういう場面だとは理解しているのですが……ついていけません。
「でも私達、その、同性…なのですが?」
まあ爵位とか、祝福されるのは今までの功績として受け取っておくとして……エリーゼとも、そりゃあ色々やる事はやっていますが、これ以上どうする事もできませんからね、エリーゼはそれでいいのでしょうか?
「んー?その辺りは大丈夫なんじゃないかな?確か小さな魔道卿と一緒に何かしていたよね?」
拍手と祝福が飛び交う中、耳ざとく私の呟きを拾ったリアンがエリーゼに声をかけると、エリーゼは無言でコクコクと頷いていました。何かとっても、とーっても、嫌な予感がするのですが、リアンは悪戯が成功したような顔をして笑っていますし、ガイウスお兄様は肩をすくめていて、エリーゼは……。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
はにかむようなエリーゼの笑顔に心が蕩けますね、まあいいかと肩の力を抜くと、もうどうにでもなれーという気持ちになってきました。
エリーゼの聖魔法には生命とか治癒の力があるのですが、その事を思い出したのはその日の晩、ベッドの上だったのですが……まあなんにしても私達は幸せになった訳ですし、気持ちよかったですし、めでたしめでたしっていう事で良いのかしら?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。感想や評価などをしていっていただけると猫は小躍りして喜びますし、次作の参考にさせていただきたいと思いますので、ドシドシお便りをお待ちしております。