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52.力の代償




 グラズの去った後、墓石の前ではシノンと二人っきりの状況ができあがった。

 私もそのまま、立ち去ろうとしたが、シノンの視線を感じて立ち止まる。

 

 何を言われるのか。

 そんなことを考えながら、無言で待っていると、シノンは墓石の前に膝をついて、手を合わせた。


「ノクタリア、一緒にご供養しよ?」


「…………」


 言われるがまま、私も墓石に手を合わせた。

 意図が読めない。

 シノンは何かを話したいのだと思うが、それがどういう内容なのかが分からない。だからこそ、私は直接的に尋ねた。


「……それで、何が聞きたいの?」


 待ってましたと言わんばかりに、シノンは明るい表情になる。


「やっぱり鋭いね〜ノクタリア」


「ずっと見られていれば、嫌でも気付くわ」


「あっちゃ〜、そんなに熱烈な視線を送っちゃってたかぁ……」


 本題には入らず、シノンは普段通りにのらりくらりとズレた方向へと話を動かす。

 しかし、私は悠長に待っているのが嫌だった。

 シノンをキッと睨み、それから低い声で話す。


「……結局、何?」


 詰めると、シノンは手をヒラヒラ動かし、観念したかのように息を吐いた。


「ノクタリアはさ、気付いてたんじゃないの?」


「…………」


「ああほら、そこ黙り込まないでよ〜」


「どう答えれば、貴女は満足するのかしら?」


「う〜ん。そうだなぁ……本当のことを言ってくれたら、それで満足するよ」


 ふざけた声音の中には、何かを求めるような気持ちが込められているようだ。

 それは、恐らく……最悪の事態を回避できたのではないかという私への叱責かもしれない。


「……貴女の言う気付いていたが、何かが分からないけれど。デューテがああなってしまったのは、未然に防げたことなのかもしれないわね」


 デューテが私たちの取り決めたルールを破ったこと。

 あれは彼女の中にある焦燥感を私たちが察してあげられなかったことが原因の一つ。

 だから、回避できたかもしれない。


「ノクタリアはそう言うけど、本当にそうだったって思ってる?」


「ええ、思っているわ」


「……そっか……………今は、その説明で納得しとくよ」


 結果的には、彼女の望んだ回答ではなかったようだ。

 シノンが何を考えているのか、やっぱり分からない。


「ああ、これは余談なんだけどさ。私たちの体内に流れている黒い血……これって、なんなんだろうね?」


 余談にしては、かなり踏み込んだ話だ。

 黒血。

 それは、私たちを闇堕ち聖女たらしめている力の源。

 瘴気への強い耐性を授け、人智を超えた強大な能力を発揮させてくれるもの。



 ……しかし、シノンが聞きたいのは、こんな既存の情報じゃないのだろう。


「黒血の正体……貴女はそれが知りたいのね?」


「うん、知りたいね〜」


「これの本質を理解するには、まだまだ時間がかかるわ……恐らくね」


「ああ、じゃあノクタリアでも知らないんだ」


「詳細は私にも分からないわ……でも、一つだけ知ってることがある」


 シノンはこちらに強い眼差しを向けた。





「……黒血には、恩恵だけではなく、弊害もある」



 デューテが力に溺れたのは、彼女の心の問題だけじゃない。

 黒血を取り込んだ日から、闇堕ち聖女は、少しずつ、感情のコントロールが効かなくなっていくのだ。

 自我の崩壊。

 これらは全て、私自身の経験則ではあるものの、ほぼ確実に起こり得ていることだと思う。


「じゃあ、デューテちゃんは、その弊害に対して弱かったってことなのかな?」


「私は、そう思っているわ」


「そっかそっか……弊害ねぇ」


 シノンも何かを察したように俯いた。


「……感情が死んでいく。そんな感覚があるわ。このまま時間が経てば経つほど、何かがズレて、私という人格が崩壊してしまうような気がする」


「ノクタリアも、そうなんだ。私も同じだよ……闇堕ち聖女としたの力を得た日から、人を殺すのが楽しくて楽しくて。でも、それが結構露骨に思えるんだよね〜何かに突き動かされてるみたいな……そんな感じ」



 理性のタガが壊れつつある。

 そう表現するのが最も分かりやすい。




 闇堕ち聖女には、力の代償を払う必要がある。



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