5.睡眠薬の罠
ノーマンは、私を自分の住む邸宅に招き入れた。
この村には、まともな家らしい家がない。
あるとするならば、この男の住処くらいだろう。
「ふぉっ!」
その下衆な笑みは絶えずこちらに向けられる。
私の上から下までを舐め回すように見ているのが、本当に不快な気分にさせてくる。
手首を折ってやりたくなる感情を殺し、黙って案内に従った。
「さあ、こちらに座りなさい」
促されるまま、趣味の悪い、いかにも高そうなソファに座る。
そして、自然な形で差し出されたのは、カップに入った紅茶であった。
湯気が立ち暖かい。
一見すれば、親切なおじさん……という風に見えるだろう。
けれども、私には分かってしまった。
この紅茶の中に……大量の睡眠薬が入れられているということが。
紅茶の香りで誤魔化しているつもりだろうが、睡眠薬特有の臭みというものが、微かに漂ってくる。
「さぁさぁ、遠慮せずに飲みたまえ、ふぉっ……!」
……なるほど。
こうやって、人を眠らせて、その間に奴隷の隷属契約を強引に敢行するのだろう。
奴隷としての契約が一度結ばれてしまった場合、契約主がその契約を解くか、契約主が死ぬかしなければ、主従関係は終わらない。
ノーマンの手口がどういうものかを理解することができた。
「さあ、ゆっくりお話でもしようじゃないか。お嬢さんとは、経営関係の話以外にも、色々と話してみたくなったよ、ふぉっ」
「そうですか……では、手始めに雑談でも致しましょうか」
「ああ、そうさ。だから……その紅茶を遠慮せずに飲むといい。心が落ち着いて、疲れも取れるはずさ」
そうやって、最初は優しく接して、何人も騙してきたのだろう。
この村にいる奴隷は、未成年の子供ばかり。
身体中、傷だらけの子もそれなりに多いことから、この男は加虐思想も持ち合わせているのだと思う。
私は、ノーマンの警戒を最大限に低下させるために、渡されたカップを手に取った。
「では、いただきます」
睡眠薬が入っていると知りながらも、私はそのカップに口を付ける。
一瞬だけ見たノーマンの顔は、恍惚に歪んだものだった。
私が睡眠薬を体内に取り込んだことで、喜びが全面的に表れていた。
「どうだ? 美味いだろう?」
言葉遣いがネットリしている。
ノーマンの隠しきれない本性が露わになり始めていた。
「……あれ、なんだか……眠くなって、きて」
「ほう、それはいかんな。ぐふっ……さあ、こちらに来なさい。暖かい布団を用意してある」
朦朧とする意識の中で、手を引かれる。
このまま隷属契約をさせるのだろう。
これこそが、この男が不当に奴隷を増やし続けられている仕組みだ。
最初から奴隷にしたい人間を無理やり連れ帰るということはない。
油断させてから、一気に奴隷へと落とす。
私は自ら、この村に足を踏み入れたが、普段はきっと各地に赴いては、幼い未成年の子供たちを同じ手法で眠らせてから、奴隷にして連れ去っているはずだ。
……はぁ、本当に気持ち悪い。
この世界には醜いものがいくらでもある。
見た目が醜いもの。
名称が醜いもの。
でも、私が考える中で最も醜いものは……内面が醜いものだ。
心の薄汚れた人間というものは、表面上の醜さなどよりもはるかに悍ましい。
そして、目の前の男に関して言えば、ありとあらゆる部分が気に入らないし、醜いと感じる。
「……はぁ」
私は自然に瞳を閉じた。
「……ふぉっ、ふぉっ、おやすみ。お嬢さん」
ノーマンの手が私の肌に触れる感触があった。
けれども、特段抵抗はしない。
この男がやったことと同じことをするため。
耳障りな声音を聞きながら、私は、無防備な状態で眠りに落ちた。
──そういう、フリをした。
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