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45.抑えきれない衝動(デューテ視点)




 ──頭が焼けるように熱い。



 何もかもを破壊してやりたい。

 そんな気分になっていた。

 目の前の人間は皆殺しにしたい。

 そして、それを助けるために現れた聖女も皆殺しにする。

 私のことを認めてくれなかった王国の住人は全て敵だ。



 ──殺して、殺して、殺し尽くしてやる!


 視界は真っ赤に染まる。

 逃げ惑う市民をその爪で蹂躙した。

 悲鳴を上げる間もなく倒れゆく人々を見ながら、私はとある感情を抱いた。





 ──ああ、今。メチャクチャ楽しい!


 

「はぁ……聖女、殺さなきゃ……」


 周囲を見回すと、前方から歩いてくる複数の人影があった。

 私はそれを見て、脳の血管がプツリと切れるような感覚に陥った。

 かつて、自分も着ていた装い。

 純白の聖女服。

 どこまでも清く正しく……ということを吹聴し続ける愚かな馬鹿どもが着ていた、あの服。


「ははっ……見つけた」


 聖女たちは、迷うことなくこちらに歩みを進めてきた。

 手には剣や槍を持っている。

 魔法だけでなく、武器を持っているのを見ると、私を止めるためにここへやって来たのだろう。


「……あれが、闇堕ち聖女」


「気を引き締めて! 『リライト』として初めての戦闘だけど、負けることは許されないわ」


「私たちが先に行きます」


「武器持ちで闇堕ち聖女を押さえるので、魔法でトドメをお願いします」


 聖女たちは、それぞれが動きを確認し終えると、聖女たちの半数が更に近付いてくる。

 ……不愉快極まりない。

 聖女のあの格好を見るだけで、過去の出来事がフラッシュバックしてくるかのようだ。




『この出来損ない! 聖女なんて、さっさと辞めろよ』


『はい、お水……気持ちいい? 貴女みたいな子は、冬でも水浴びするんでしょう? 本当に、貧乏臭いわね』


『アンタはご飯とか必要ないわよね? だって、いつまで経っても準二級聖女止まりだものね? あははっ!』



 あの頃の屈辱を私は忘れてない。

 私のことを出来損ない聖女と罵ったヤツらも、この場で私に危害を加えようとしているヤツらも、全部全部破壊してやる!



「ウァァァァァァァッ……!」



 天から赤黒い光が降り注ぐ。

 それが、私に直撃した。

 全身から、力が湧き上がるようだ……何にも負ける気がしない。


 私こそが、この世界で最強の存在。

 誰もが恐れる闇堕ち聖女なんだ!


「行くわよ、みんな!」


「はい!」


「行きます!」


 聖女たちは、私の方へと駆け出した。

 向こうはまだ魔法の準備が終わっていない。

 魔法の発動まで、そこそこの時間差がある。



 ──勝てるわけないでしょ。この私に!



 私は無言で聖女たちの方へと手を伸ばした。


 ──パスンッ!


「えっ……?」


 次の瞬間、こちらに向かってきていた聖女の首が飛んだ。

 切り口からは、噴水のように勢いよく血が噴き出す。

 

「そ、そんな……嘘」


「いや、ダメ……死なないで!」


 顔を青くして、立ち止まる聖女。

 泣き崩れて、動けなくなる聖女。


 やっぱり、聖女なんて大したことない存在だ。

 私の敵じゃない。


 こんなに弱いのに、私に向かってくるから……本当に頭が悪いのね。


「その程度で、私に勝てるわけないじゃないの! あははっ!」


 脳が溶けそうだ。

 こんなに高揚感を覚えるのは、初めてのこと。

 今まで、好き勝手なことができなかった分、この場で思いっきり暴れよう!

 再び魔法を発動させようとし、手を振り上げる。

 しかし、振り下ろそうとした瞬間に、異様な殺意を感じて、その手を止めた。



「────っ⁉︎」




 地面が大きく傾いたような感覚が襲ってくる。

 耳をつん裂くような爆音と共に、目の前にいた瀕死の聖女たちは、バラバラに消し飛んだ。

 赤黒い光が目前に降り注ぎ、そこには、一人の見慣れた人物が立っていた。


「シ、ノン……? なんで、アンタが!」


「なんでって……それはもちろん。デューテちゃんを処分するためだよ?」


 殺意の源は、同じ闇堕ち聖女。

 元一級聖女で、私よりも戦闘の練度が遥かに高いシノンだった。




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