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37.地下へ続く螺旋階段




『魔神の流刑地』



 そう呼ばれている遺跡には、隠し通路が存在する。

 遺跡の奥には、骸骨のオブジェクトが乱立しており、まさにこの世の終わりと思えてしまうような不気味さがあった。


 魔法で前方を照らしながら、グラズと共に歩く。

 この道も慣れたものだ。

 グラズがいなければ、こうして前方を照らしながら歩くこともない。

 真っ暗な状態であっても、迷ったりはしない。

 



「あれ……?」


 グラズが驚いたような声を上げた。


「ここ、行き止まりみたいですが……?」


 目の前には、埃と蜘蛛の巣まみれの汚い壁があった。

 確かに、行き止まりだ。

『魔神の流刑地』……ここは、その最奥部に当たる。



「まさか、ここで寝泊まりを?」


 不安そうなグラズ。

 カサカサと虫が動く音が聞こえる。

 衛生環境が良いとは思えないのだろう。

 私だって、こんな場所で寝泊まりをするつもりはない。

 雨風を凌げるという利点を除けば、野宿をしている方がマシだと思えるくらいに、ここは不気味だ。


「壁の奥に螺旋階段があるわ……そこの先に、私たちの活動拠点がある」


 壁の下部にある石造りのボタンを押すと、ゴゴゴッという音を立てながら、壁が左右に開いた。

 そして、奥には地下へと続く長く広い螺旋階段が出現した。



 ここまで歩んできた道中よりも更に暗い。

 地下の底は見えない。

 大きな筒状の施設。

 階段は、その壁際に設置された簡易的なものだった。


「ここを……降りるのですか?」


「ええ、そうよ」


「もし、落ちたら……?」


「普通は、死ぬでしょうね」


「…………」


 下は暗闇。

 階段はそこまで広くない。

 手すりなんてものはなく、少しでも踏み外せば、それだけで下へと落下する。

 大きな穴のように、底は深くまで続いていた。


「行きましょう」


「えっ……あっ、ちょっと心の準備が!」


「……貴方は、何をしに来たの?」


「……え?」


「私に付いてくる覚悟をしたのでしょう?」



 死を恐れるのなら、闇堕ち聖女と関わり合わない方がいい。

 私と一緒にいるということは、常に死と隣り合わせになるということ。

 危険なことをするし、他人の命を奪うこともある。

『上級国民』を害することが、私の目的。

 横暴な彼らを野放しにしたくないからこそだ。


 それは同時に、命の危険を背負うということでもある。

 彼らには、ありとあらゆる力が集中している。

 当然ながら、神聖教会からの介入も考慮される。

 闇堕ち聖女は、殺す覚悟をして、殺される覚悟もしている。

 


「貴方が螺旋階段を降り切れず、落ちて死ぬのなら……その程度の存在だったということよ。……まあ、契約を結んだ以上、引きずってても連れていくつもりだけど」


 グラズは、視線を真っ暗な世界が広がる下へと向けた。


「…………分かりました。行きましょう」


「ええ」


 グラズは額に汗を浮かべながらも、階段に足を乗せた。






 ──それでいい。


 私と契約するというのは、そういうことだ。

 これからもっと命の危険を感じる場面が訪れるだろう。

 人の死を目の前で経験して、己の命が明日もあるなんて保証のない世界を生きる。


 彼はもう、こちら側の世界に足を踏み入れた。

 後戻りなんて、できないのだ。





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