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36.雨の日の記憶





『魔神の流刑地』



 腐敗臭の凄まじい沼沢を抜けた先にある大きな遺跡だ。

 古い石造りの遺跡と推定数十メートルはあるかと思うくらいに巨大な人型の骸骨が目の前に広がる。

 



 ──雲行きが怪しい。


 空が段々と暗くなっていくのを感じた。

 そして、すぐにポツポツと雨が降り出す。


「ノクタリア様、すぐにあの遺跡に」


「……そうね」


 小走りに遺跡に向かうグラズを見ながら、私は雨に打たれながらゆっくりとそちらに向かった。

 雨を肌に感じる度に、この場所に置いて行かれたあの時のことを思い出す。


 一人寂しく、死にそうだったあの時。

 瘴気に侵され、肺は腐った。

 爪も割れて、沼沢に転がっていた腐肉と同じになるはずだった。





 ──どうして、私はまだ立っていられるのかしらね?


 その真っ黒な空を見上げて、私は疑問を浮かべた。

 死ぬかと思っていたのに、意識が戻ると、身体に異常はなくなっていた。

 呼吸は普通に行えたし、割れたはずの爪は、綺麗なまま。

 泥水と吐血によって汚れた服は、流石にそのままだったが、それでも、『死ななかった』という事実が、そこにあった。



「ノクタリア様! 急いでください。濡れちゃいます」


 グラズが呼んでいる。

 考えごとは、後回しにしよう。

 今はただ、私たちが今後活動を続ける拠点を彼に紹介することだけを意識していればいい。


 私は、『魔神の流刑地』へと足を踏み入れた。

 

「急に降り出しましたね。ノクタリア様」


「そうね……」


「あの。これ、どうぞ」


 そう言って、グラズは手荷物の中から真っ白いタオルを差し出してきた。

 


「…………?」


「えっと、髪を拭くために必要かなと……思ったのですが」

 


 一瞬、思考がフリーズしてしまった。

 まさか、私の濡れた髪を拭くためにタオルを用意くれたとは思わなかった。



 グラズは、そのままタオルを手に持ちながらこちらへ近付いてくる。


「その、俺が拭きましょうか?」


「ええ、じゃあ……お願い」


 忘れていたが、彼は私の契約者。

 あの日……私に付き従うと誓った者。

 闇堕ち聖女の従者という立ち位置なのだ。

 だから、こうして多少の世話を焼くのは、普通なのだろう。

 



 ──長いこと、まともに人と関わりを持っていなかったから、分からなかったわ。


 従者を持つなんて、闇堕ち聖女となっては初めてのことだった。

 だからこそ、タオルで髪を剥がれている最中は、何一つとして喋ることも、動くこともできなかった。


「終わりましたよ。ノクタリア様」


「……ありがとう、グラズ」


 感謝の言葉を伝えると、グラズは嬉しそうに「はい」と返事を返してくる。

 なんだろうか。

 普段は感じない気持ちだ。

 胸の辺りが、ポカポカと温かい感じがする。


 ……久しく感じたことのないもの。

 どこか遠くの記憶にあるそれは、深海の奥深くに沈み込んだ鉄塊のようで。

 手を伸ばしても届かない場所にある感情。

 ずっと、そう思っていた。





 ……凍て付いた感情の奥には、まだ残っているのだろうか。

 手に届く位置に、あるのだろうか。




 ──私にも、まともな人の心というものが。






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[一言] なんかほのぼのするね
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