35.死の土地
『叫びの沼沢』の奥深くにある私の活動拠点。
そこは、それまでの森林とは一線を画した雰囲気が漂っていた。
幾つもの滝から流れる黒い水。
そのビチャビチャという音が周囲に響く。
ここには、魔獣が存在せず、代わりにあるのは、それらの亡骸。
外部を覆い囲むような森林を抜けた先には、真っ黒な沼沢が目の前には大きく広がっていた。
「……ここよ」
踏み出す度に、骨がバキバキと折れる音がする。
地面には、人のものか、動物のものか判別がつかないくらいに様々な骨が落ちていた。
沼沢にプカプカと浮かぶ、動物の頭蓋骨や魚の死骸。
異臭を放つそれらに、グラズは鼻を塞いだ。
「ここ……ヤバくないですか?」
素直な言葉だ。
私は、すぐに頷く。
「そうね……ここまで来ると、瘴気が濃すぎて、野獣とかも少なくなるわ」
「俺たちは、大丈夫なのですか?」
グラズは、心配そうに私を見た。
本来なら、この場所に立っているだけで喉が潰れるように熱く感じる。
人体の腐敗が急速に進行するからだ。
しかし、今の私たちは、少しだけ気分を害するような空気感ではあるものの、それ以上の苦しみを感じていない。
それだけで、私たちがこの場所とどのような関係にあるかは、分かりきっていた。
「……貴方、今、死にそうなくらい息苦しいかしら?」
「い、いえ……」
「この場所は、呼吸をしただけで人間を死に至らしめるだけの瘴気がある。それがないということは……」
「死な、ない……?」
「そういうことよ。……進みましょう」
彼の疑問に答えた後に、私はすぐに歩き始めた。
滝から流れ出る黒い水。
普通なら、透明で澄んだ水が流れているはずの場所。
これらは、全て瘴気による汚染の影響だ。
ピチャリピチャリと湿った地面を歩く。
浅い水辺には、腐肉がずらりと並んでいる。
「うっ……!」
グラズは、その臭いに鼻を塞いていた。
「…………」
「ノクタリア様は……この臭いが平気なのですか?」
「ええ、もう慣れたわ」
腐肉を踏み潰しながら、沼沢の奥へと進む。
グラズは顔を真っ青にしながら、後をついてくる。
「あの、どうしてこんな場所を活動拠点にしているのですか?」
──どうして、か。
ふとした質問に、私は足を止めた。
『叫びの沼沢』
私にとっては、人生に絶望をした場所であり、転機を得た場所でもある。
死に最も近い場所。
それと同時に、順応さえすれば、最も安全な場所でもある。
何故なら、外部から人が入ってこないから。
入ってきたとしても、この瘴気に苦しみ、命を落とすだけ。
ある意味では、瘴気に守られた絶対安全領域だ。
「……毒をもって毒を制す」
「はい?」
「瘴気に怯えた敵は、私がこの場所にいると知っていたとしても、襲ってこない。私がこの場所を活動拠点に据えた理由は、唯一身構えなくてもいいから……かしらね」
──聖女としての人生が続いたいたならば、こんなところに足を踏み入れる機会はなかった。
野獣を無慈悲に殺し、骨や腐肉を踏み潰しながら歩くこともない。
野蛮な土地。
こんな場所を活動の基盤にしたいとは、夢にも思わなかったことだろう。
そして、闇堕ちすることもなかったはずだ。
全てを奪われさえしなければ、私はきっと……こんなに手を汚さずに済んだのだろうと思う。
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