28.手遅れ
ドミトレスク子爵領内を歩く。
夜になると、この領内は更に活気が失われる。
喧嘩する声や、野生の小動物が動いているような音以外、ここにはない。
暫く歩き、それから私は立ち止まった。
古い小屋の前。
鉄の扉は酷く錆び付き、外壁の塗装は、ほとんどが剥がれかけていた。
「…………」
人の気配はない。
私は、思いっきり足を振り上げ、その錆び付いた扉を蹴り飛ばした。
ガシャンッ! ……と大きな物音が立つ。
普通なら開くことはないが、私は元聖女。
一般的な人よりも、力技も得意だ。
錆びた扉は、甲高い音を立てながら、その枠組みから外れ、バタンと地面に倒れた。
真っ白な埃が空中に舞い上がる。
部屋の中は薄暗く、舞い上がった埃も相まって、はっきりとは見えない。
……それでも、奥に何かあるのだけは分かる。
迷わず足を踏み入れ、私はゆっくり膝を折った。
「…………遅くなってしまって、ごめんなさいね」
目の前にあったのは、僅かばかりの骨の欠片。
それから、乾いた血痕。
ここは、グラズの息子が死を遂げた場所。
私の助けられなかった子が、この場所で苦しんだのだ。
バレオンから、グラズの息子の居場所を聞き出した時、この場所を真っ先に吐いた。臓器の売人は、ここを拠点に活動していたようだが、既にもぬけの殻。
情報が少なすぎて、特定も困難。
……私が制裁を下すこともできない。
「私がもう少し早く、この領地に来ていたなら、貴方を救えたかもしれないのにね」
子供の叫び声が聞こえてくるような錯覚に陥る。それくらい、凄惨な現場だったのだと、血痕を視界に映した時に感じた。
私は床に散らばった骨の欠片を小袋の中へ集める。
それから、部屋の隅に落ちていた木彫りの装飾品を手に取った。
『お父さんへ、誕生日おめでとう』
裏側には、そう文字が刻まれていた。
「────っ!」
やはり、世界は理不尽そのものだ。
その木彫りの装飾品も、骨と一緒に小袋へと詰めた。
空気はほんの少しだけ重く、埃っぽくてむせ返るくらいに、悪環境だった。
「……安心して、貴方をお父さんのところに帰してあげるわ。もう、こんな場所に居続ける必要はない」
ギュッと小袋を胸に抱える。
そうして、私は立ち上がり、その小屋を後にした。
言葉にできないくらいの不快感が込み上げてくる。
この世界の理不尽を打ち砕くため、私は己の理不尽を振るってきた。
弱者が希望を持って生きられるような世界を私は作りたかった。
けれども、まだ足りていない。
「……まだ、私の理不尽は、足りていない。もっともっと、悪人に制裁を下さないと」
弱者を虐げ、好き勝手に振る舞う強者を私は許さない。
かつての私が、強者に屈した時のことを思い出す。
何もできない人はいる。
何かしたくても、力がないから抵抗が叶わない。
そんな人たちが苦しむ世界が少なくなればと、私は常々……そう願っている。
──だから、私は制裁を執行し続ける。
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