25.領主の悪行
グラズの協力を得れたことは、私にとって大きかった。
屋敷の敷地からは、簡単に抜け出ることができた。
人のいない場所は、グラズの案内で簡単に割り出せたし、皮袋も彼が担いでくれたので、怪しまれることもない。
正門から出ると、門番がいるため、裏口からの脱出になった。
『ありがとう。貴方のおかげで助かったわ』
裏口には、古い馬車があった。
『この馬車は、長期間使われていないものです。無くなっても怪しまれることはないでしょう』
グラズは明るい声でそう告げた。
『何から何まで、本当に助かるわ』
私はグラズと改めて握手を交わす。
『貴方との約束は守るわ。願いを聞かせて』
協力の見返りは何かと尋ねると、グラズは渋い顔をして、ポツリと呟く。
『実は、俺には息子がいるんです。ただ、領主様に借金の担保として預かると言われて……』
『行方が、分かっていないの?』
『はい。息子が連れて行かれてからは、面会さえしていません』
『酷い話ね……』
大体分かった。
彼は望んでこの屋敷で使用人をしていたわけじゃない。
息子を人質に取られた結果、仕方なくこの場所で、働くしかなかったのだろう。
ならば、今気を失っているバレオンから聞き出せばいいか。
『……分かったわ。必ず見つけ出す』
古い馬車へ皮袋に入ったバレオンを投げ入れる。
グラズとは、暫しの別れだ。
馬に跨り、私は馬車を動かす。
『聖女様……!』
屋敷からそれなりに離れたところで、後方から大きな声がした。
『どうか、息子をよろしくお願いします!』
返事はしない。
馬車を走らせながら、私はヒラヒラと手を振る。
──彼の息子は、必ず見つけるわ。
それは優しさでも、お願いされたからでもない。
彼が私に協力してくれたことへの謝礼として行うこと。
私が支払うべき、当然の対価なのだ。
▼▼▼
「さて、色々と吐いてもらおうかしら?」
バレオンへ制裁を下す前に、私はグラズの頼み事を叶えるため、バレオンの口に詰めていたタオルを引っ剥がした。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……!」
ずっと騒いでいたからか、バレオンの息は上がっていた。
馬車には、靴で蹴り飛ばしたような傷があり、バレオンが必死に抵抗したことがよく分かる。
しかし、私はそれを気に留めずにバレオンの襟首を掴み、軽く持ち上げた。
「誘拐したグラズの息子の居場所を吐きなさい」
「な……なんの、話を」
「知らないと言い張るのなら、腕の一本や二本、切り落としてもいいのよ?」
「ひ……ぅぐっ……!」
瞳で圧をかける。
バレオンは、視線を逸らして、冷や汗をかき始めた。
唇が震えている。
そして、みっともなくズボンがぐちょぐちょに濡れ始めた。
「あらあら、そんなに怯えなくてもいいのよ。貴方は大人しく、知っていることを素直に教えてくれればいいんだから」
バレオンを更に高く持ち上げる。
苦しそうに、足をバタつかせるが、私の掴んだ手から逃れることはできない。
「もう一度だけ問うわ。グラズの息子をどこにやったの?」
「……うっ……グラズ、の……息子は……!」
「グラズの息子は?」
再び、強く声を上げると、バレオンは息絶え絶えに答えた。
「う、売っちまったよ……!」
──売った?
「詳しく話しなさい」
「臓器売買をしている……やつらが、ガキの臓器は、高値で売れるって……だから……っ」
「なるほど……そう。もう十分だわ」
それだけ聞ければ、もうバレオンに話してもらう必要はない。
私は再び彼の口にタオルを押し込んだ。
「んぐっ……!」
バレオンの襟首から手を離す。
彼は、スッと垂直に落下し、地面に腰を強く叩きつけた。
「んんっ……!」
──彼の息子を助けるのには、少し遅かったわね。
グラズの息子はもう……死んでいる。
臓器の売買をしているグループを探し当てたところで、彼の息子が戻ってはこない。
きっともう、臓器や部位がバラバラにされ、闇市に流されているはずだ。
「……はぁ、最悪な気分ね。他人事ではあるけれど、ムカムカするわ」
その瞬間、私はグラズと交わした約束を遂行できないことが確定してしまった。
イライラだけが募り、私は大きな舌打ちをした。
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