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24.使い勝手の良い手駒




 日が暮れ始めた。

 遮音性の高い個室には、誰もいなかった。

 開けられた窓と、風に揺れるカーテン。


 部屋の中には、僅かばかりの血痕とバレオン=フォン=ドミトレスク子爵の装いが残されていた。


「んんぅ〜!」


 オンボロな馬車を走らせる。

 御者の席に私が乗り、馬を操る。

 そして、馬車の内部には、手首を縄で縛られ、口にタオルを詰め込まれた半裸のバレオンが泣きながら唸り声を上げていた。


「心配しなくても大丈夫よ。じきに貴方を解放してあげるから」


「んっ……! んんっぅ〜!」


「あはは、素敵よ。そういう絶望に満ちた顔。嫌いじゃないわ。特に……貴方みたいな屑貴族が、するとね」




▼▼▼




 ドミトレスク子爵邸からの脱出は、実に容易いものだった。

 魔法でバレオンの意識を奪い去り、大きな皮袋に彼を入れ、担ぐような形で堂々と窓から飛び降りた。

 窓から出た瞬間を目撃されなかったわけじゃない。

 屋敷を囲むように広がる庭では、使用人が働いている。

 


 けれども、その目撃者が……先程助けてくれようとした使用人だったのが幸運だった。


『聖女様……?』


 声を掛けられた時、私は運がいいと感じていた。


『あら、先程の……どうかされましたか?』


『いや、今三階の窓から飛び降り……』


 最後まで発声することを許さずに、私は彼の唇に指を押し当てた。


『それ以上は、言わなくても大丈夫です』


 善良な人というのは、悪人と違って説得が簡単だ。

 それが正義の行いであると思ってもらえれば、尚更効果が高い。


『使用人さん、実は……ドミトレスク子爵に襲われてしまいました』


『なっ……やっぱり……!』


『ですので、現行犯ということで彼の身柄を預からせてもらおうと思いました』


『……え?』


 初めの内は、コクコクと頷いていた使用人の男も、私の放った次の発言に目を丸くした。

 そして、私の担いでいる皮袋に視線を向けて、顔を青くした。


『まさか、その中に領主様が⁉︎』


『しっ、声が大きいです』


『す、すみません……』


 ──予想通り。ドミトレスク子爵の身柄を確保しているという真実を告げても、私を捕らえて、この屑貴族を助けようと動いていない。


 これが意味することは、バレオン自身に人望が皆無であるということ。

 慕われているのなら、私と悠長に会話などしない。

 すぐに皮袋を取り返そうとするはずだ。

 けれども、目の前の使用人はそれをしなかった。

 それどころか、咄嗟に行った私の指示に従った。


 ──そして、私に陶酔しているような瞳をしている。懐柔は容易い。


『使用人さん、名前を伺っても?』


『自分は、グラズと申します』


『そうですか。では、グラズさんとお呼びしてもよろしいですか?』


『構いません』


 グラズは、何かを察したかのように気を引き締めたような表情を浮かべていた。

 察しが良いのは、高評価だ。

 私はすぐに要件を告げた。


『早速で申し訳ないのですが、グラズさん。私に手を貸してくださいませんか?』


 手を差し伸べる。

 彼は、その手を取るか迷うことがなかった。

 すぐに私の手を強く握る。

 そして、力強い声で告げた。


『手を貸す代わりに、お願いがあります』


 ──交渉……なるほど、無償の善意では動かないということね。


 まさか、そんなことを言われるとは思わなかったが、それでも協力する姿勢を躊躇うことなく見せてくれたからには、それ相応の対応をしなければならない。

 条件は聞いていない。

 でも、恐らく目の前のグラズという人間は、無茶な要求はしてこない。そう確信できた。


『分かったわ。貴方の願いを聞きましょう』


『詳細を聞かないのですか?』


『今は時間がないもの。話は後で聞くから、今から私の指示通りに動いて』


 グラズは静かに頷く。

 こうして、私はドミトレスク子爵邸の敷地脱出のために使える手駒を手に入れた。






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