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タナカ ハジメの冒険  作者: 長野 学
エルフの里編
64/109

第64話 森の中の冒険③

 それは、唐突に訪れた。


 いつものように、目印を置きながら歩いていると。

 先頭のクリスが立ち止まった。


「どうした?」


 クリスに聞くが、返事はない。

 だがその表情は、明らかに様子がおかしかった。

 せわしなく周囲の様子を伺っている。


「どうしたの?」


 エミリーも不審に思ったらしい。


「……これまでに感じたことがない気配がする。

 少しずつ、こちらに近づいてきている。

 なんだか分からないが、よくないもののような気がする」


 ようやくクリスが口を開いた。


「つまり、新手の魔物ってことか?」

「そうだと思うんだが、なんだか不気味だ。

 普通の魔物とは違う。

 こんな気配は初めてだ」


 戸惑った表情のクリス。

 俺も、こんなクリスを見るのは初めてだ。


「俺たちはどうしたらいい?」

「……そうだな、とりあえず気配の方向と逆に移動してみることを提案したい。

 近づくのは、危険だと思う」

「わかった。そうしよう」


 クリスの言葉に従い、進む方向を変えることにした。

 彼女の背中を見ながら、早足でひたすら歩く。

 時々クリスは後ろを振り返った。

 その表情から察するに、危険は去っていないようだ。


 しかし一体、何がいるというのだろうか。

 普通に考えたら魔物だろうが、クリスの様子は尋常ではない。

 あのキマイラに対しても、幼き日のクリスは普通の魔物だと思って近づいたという。

 ということは、原因は魔物の強さというわけではないのだろう。


 正体不明な存在が近くにいる。

 その不気味さに脳内警報が鳴り響き、歩くのが速くなる。

 このまま振り切りたい。


 やがて、少し開けた場所に出た。

 そばに川が流れており、上流には滝がある。


 クリスは立ち止まり、こちらを振り返って言った。


「……ダメだ。

 どうやら、私達を狙っているらしい。

 少しずつ、距離が詰まってきている」


 遠ざかってやり過ごすことは、できそうにないらしい。

 ということはつまり、覚悟を決めるしかないということだ。

 正体不明の敵と、相対する覚悟を。


「ここで迎え撃とうというわけね?」

「ああ。視界を遮るものはできるだけない方がいいと思って、開けた場所を探してみた」

「悪くない環境だと思うわ」


 エミリーが荷物を置き、ヒュンッと杖を振る。

 彼女はとっくにやる気のようだ。


「……やるしかないか」


 俺も荷物を放り出し、杖を構える。


「接敵までもう少し時間はある。

 できるだけ有利な位置で迎え撃とう」


 クリスの言葉に従い、位置取りを決める。

 前衛はクリス、俺とエミリーは後衛。

 滝を背後にして、森からは出来るだけ離れた位置で待機する。


 滝の落ちる音だけが、辺りに響く。

 クリスの後ろ姿は微動だにせず、状況の変化に対して備えている。

 エミリーの表情は、いつになく不安げに見える。

 俺はエミリーに何か声を掛けようと思ったが。


「――来るぞ!」


 クリスの叫びによって、行動はかき消された。


 彼女が見つめる一点を、俺とエミリーも凝視する。

 木々の暗がりから。

 何者かが、ゆっくりと現れた。


 そいつは、2本の脚で立っていた。

 腕も2本で、頭は1つ。

 人間に近い形だが、決定的に違う点が3つ。


 1つ目は、肌が鱗に覆われていること。

 2つ目は、同じく鱗に覆われた、翼があること。

 3つ目は、頭に、角が生えていること。


 ……何だこいつは?

 魔物というには、ヒトに近すぎる。

 ヒトというには、魔物に近すぎる。


「何者だ!」


 クリスが叫ぶ。


 しかしその声を意に介さず、そいつはこちらへ近づいてくる。


「止まれ!

 それ以上近づけば、斬る!」


 クリスが再度叫ぶ。

 無視して近づいてくるかと思ったが、そいつはピタリと動きを止めた。

 どうやら、言葉が通じるようだ。

 クリスまでの距離は10メートルといったところか。


「貴様は何者だ!

 なぜ、私達に近づく!?」


 その言葉を聞いて。

 そいつはゆっくりと表情を変える。

 血走った赤い眼を細め、鋭い牙の覗く口角を持ち上げた。

 つまり――笑った。


「ナゼ近ヅク?」


 さらに。

 言葉を発した。

 まるで金属の弦をノコギリで奏でるかのような。

 思わず耳を塞ぎたくなるような音。


「クックックッ。

 ……マサカソンナコトヲ尋ネラレルトハナ。

 人間トハ、ナント愚カナノダ。

 ソンナコトハ、ハルカ昔カラ、決マリキッテイルトイウノニ」


 ……遥か昔から? 

 ……どういう事だ?

 警戒する俺達に向かって、そいつはさらに続ける。


「――貴様ラ人間ヲ、殺スタメダ。

 殺スタメニハ、近ヅカネバナルマイ?」


 戦慄した。

 その言葉を構成する全ての要素が、俺達とは相容れないことを物語っていた。

 そこで初めて。

 俺は目の前の存在が何者なのか、思い当たった。


 ――魔族だ。

 はるか昔からヒトと争い、殺し合ってきた存在。

 本で読んだことしかないが、なぜだか確信を持てる。


 こいつは、これまでに出会った全ての生き物と、明らかに違う。

 殺さなければ、殺される。

 俺の中の生存本能が、そう訴えかけてくる。


「エミリー、クリス!

 こいつは敵だ! やるしかない!」


 叫び、杖に魔力を集める。


「フハハハハハ!

 ソウデナクテハ、興ガ乗ラントイウモノダ。

 セイゼイアガクガイイ、脆弱ナ人間ドモヨ!」


 戦いが、始まった。






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