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タナカ ハジメの冒険  作者: 長野 学
アバロン編
44/109

第44話 エミリーとの狩り

「……見えてきたぞ。あれが冒険者ギルドだ」

「へぇ、あれがそうなの」


 少し離れたところに、無骨な石造りの建物が見えている。


「なんだか思ったより地味なのね」

「まぁ、そうだな。

 でも彫刻とかあるし、あの像とかカッコいいじゃないか」

「ふーん」


 俺は正門の両脇に置いてある、剣を掲げた騎士の像を指さして言う。

 が、エミリーにはあんまり響かなかったらしい。


「中はどうなってるのかしらね」

「入ってみるか」

「入れるの?」

「当たり前だろ?」


 俺は木造りの大きな扉を開けて、中へ入った。



 朝、とりあえずアバロンを散策することにしたが、特に行く宛がなかった。

 エミリーに行きたいところを尋ねたら、冒険者ギルドを見たことがないと言うので、ひとまずここに来てみたのだ。


 扉を開けると、いつもの冒険者ギルドだった。

 掲示板の前で、冒険者達が話している。


「あそこに依頼が張り出されるのかしら」

「ああ、朝一番だともっと人が多いけどな。

 大半はもう依頼を剥がして、狩りに出かけたんだろう」

「へぇ。そういう仕組みなのね」


 エミリーは掲示板の前まで進み、興味深そうに依頼書を眺めていた。


「ちょっと腹減ったし、そこで食べないか?」


 俺はギルドに備え付けのバーを指差す。


「いいわよ。先に席を取っておいて。

 もう少し見たら行くから」


 意外と興味深々だな。


 俺はカウンターに行き、酒と軽食を頼んで近くの席に座った。

 小柄なエミリーは人だかりで掲示板が見えないのか、背伸びをしたり、ぴょんぴょん跳ねたりして、頑張って依頼書を眺めていた。

 ちょっと癒される。


 休みはいつもクリスと狩りに出かけていたから、こんなのんびりした休日は初めてだ。

 酒の味が、心に沁みる。

 俺は、昼間から外で酒を飲む幸せを噛みしめた。


 料理が運ばれてきたタイミングで、エミリーも戻ってきた。

 飲み物を注文して、席に着く。


「どうだった?」

「なかなか面白かったわ。色んな依頼があるものね」

「特に面白いのとかあったか?」

「そうね……スライムかしら。

 実は私、見たことないのよ。不思議な生き物よね」

「スライムか。言われてみれば確かに。

 何がどうなってあんな形になったんだろうな」


 ポテトフライのような料理を口に運ぶ。

 うまい。


「スライム、見たことないのか」

「魔物なんて、普通は見ないわよ。

 ……何よ、ハジメは見たことあるの?」

「ああ、飽きるくらいに見たよ。

 ……ていうか俺、休みの日は冒険者やってるんだけど、言ってなかったっけ?」


 エミリーが不満げな表情になった。


「何よそれ。聞いてないわよ?」


 まぁ確かに魔術の勉強に必死で、休みの日の話など全然してなかったな。

 俺もエミリーの休みの行動など全然知らないので、おあいこだろうが。


「すまん。言ってなかったな。

 俺、冒険者稼業で生活費を稼いでるんだ。

 一応、Cランクの冒険者だ」

「そう。

 だからギルドに詳しかったのね」


 エミリーは憮然とした顔でポテトフライを頬張った。


「それじゃ、パーティーを組んでるの?」

「ああ。

 といっても、俺を含めて2人しかいないけどな」

「2人だけ?」

「ああ。クリスっていう、剣士と組んでる。

 俺が魔物に襲われてる所を、クリスに助けられてな。

 それがきっかけで組むことになったんだ」

「へぇ。どんな人なの? そのクリスさんは」

「え?……そうだな。

 クリスはめちゃくちゃいいヤツだな。

 素直でまっすぐで、ちょっと融通がきかないところもあるけど、一緒にいるとそれもひっくるめて長所に見えるような、そんなヤツかな」


 なんだか酒のせいか、口が軽い。

 クリスについて語り始めると、止まらなくなってしまった。


「それに家族思いなヤツだ。

 俺が学校に通い出してから、休日しか狩りに行けなくなったんだが、平日は家族との時間を大切にして、家族と一緒に過ごしてるんだ。

 クリスなら1人でも狩りはできるのに」


 今日も本来なら狩りに行く予定だったが、急遽変更させてもらった。

 クリスは嫌な顔ひとつせず応じてくれた。

 いいヤツだ。

 俺は天井を見上げて、クリスの顔が思い浮かべる。


「……へぇ。そうなんだ」


 あれ?

 なんだか、やけに冷たい声がした。

 エミリーの方に顔を戻すと、視線まで冷たかった。


「……なんだよ?

 お前が聞いてきたんだろーが」


 そりゃ知らない他人の話なんてつまらないだろうが。

 聞いてきたのはエミリーだろうに。


「……別になんでもないけど!

 いい仲間がいてよかったわね!」


 フンッ、とエミリーがそっぽを向いた。

 あれ?

 俺、なんかしたか?


 ……あ。

 そこで気づいた。


 そうか。

 エミリーには、その仲間がいないのか。

 へりくだって話しかけてくるクラスメイトはたくさんいるが、ケンカしたり、悩みを相談したりする相手はいないのだ。

 今こうしているのもそれが発端だったというのに。

 全然間も空かないうちに俺が仲間のことなんか長々と話したら、そりゃ不機嫌にもなるわな。


「すまん。ちょっと無神経だった」


 エミリーは明後日の方を向いたまま、ノールックでポテトフライを掴んでは口に運んでいる。

 器用だな。


「せっかくだから、スライム狩りにでも行くか?」


 エミリーは明後日の方を向いたまま答える。


「……ハジメが行きたいんだったら、しょうがないわね」




 ―――――



「森の中なんて、初めて入るわ」


 南の森にやって来た。

 酒を飲んで森に入るのはとてもよろしくないが、ここに出るのは、ゴブリンとスライムばかりだ。

 泥酔してるわけでもないし、まぁ大丈夫だろう。


「魔術師だけで危険ではないの?」


 エミリーはキョロキョロと辺りを見回している。

 ゴスロリ服で森の中を歩いてるのって、なんだかおとぎ話の登場人物みたいだ。


「ああ。ここらには危険な魔物は出ないよ」

「……そう。ならいいのだけど」


 冷静に見せようとしているが、エミリーは少し不安げだ。

 魔術については天才的なエミリーでも、初めての森は怖いのか。

 ……ちょっとイタズラ心が湧いてくる。


「……わっ!」

「ひっ!」


 唐突に大声を出してみたら、エミリーは両耳を押さえながら跳びのいた。

 予想以上のリアクションだ。


「……な、何よ」

「いや、驚かせてみようと思って……」


 跳びのいた分距離が離れたエミリー。

 その顔がみるみる赤くなり、こめかみには青筋がたった。


「ストーンバレット!」

「あいたっ!何しやがる!」

「自分がちょっと慣れてるからって、調子に乗るんじゃないわよ!」

「なんだよ、俺はちょっと、緊張をほぐしてやろうと――」

「ストーンバレット!」

「あいてっ!

 やめろって! 悪かったから!」



 エミリーはしばらく、口をきいてくれなくなってしまった。

 黙って森の中を2人で歩く。


 うろうろしていると、やつが現れた。

 げきょげきょとうるさい声。

 ゴブリンだ。

 3匹の群れで行動している。


「あれがゴブリンだ。ギルドに耳を持っていくとお金に替えてくれる」

「ゴブリン……あれが、魔物」

「そうだ。

 倒すから、ちょっと待ってろ」

「いいえ。ハジメの方こそ、そこで指をくわえて見ていなさい」


 俺の言葉を遮るように、エミリーが言う。


「……大丈夫か?」

「うるさいわね。見ていなさいって言ってるでしょ」


 心配したが、つっぱねられた。

 しょうがない。

 お手並み拝見といこうか。


 俺達に気づいたゴブリン達が、こちらへ向かってくる。


 エミリーは一瞬だけ目を閉じて、唱えた。


「荒まく風。

 その暴威を以って敵を殲滅せよ。

 ……トルネード!」


 ――突如。

 俺達の前方に、巨大な竜巻が出現した。


 ゴブリン達は突然の異変に逃げ出そうとするが、1匹ずつ竜巻に捕まり巻き込まれていく。

 竜巻は徐々に拡大し、周囲の木も根こそぎ持っていった。

 大木が小枝のように宙を舞う。

 風圧で、身体が吹き飛ばされそうになる。


 竜巻は木々を纏ったまま数十メートル進み、少しずつ小さくなって、やがて消えた。

 ボトリボトリと、空から木が降ってくる。


 竜巻が通った後。

 森の中にぽっかりと、巨大な更地が生まれた。

 ゴブリン達はもはやどうなったのか不明だ。

 なぎ倒された木々の下にいると思うが。


「……すごいな」


 初めてエミリーの本気を見た。

 これは凄まじい。

 魔術師が重宝されるわけだ。

 銃火器のないこの世界。

 これはまさしく、兵器と呼べる代物だ。


「身の程を知ったかしら? ハジメ。

 これが上級魔術よ」


 なに!

 今のは上級魔術なのか。

 確かに威力が段違い過ぎると思った。

 つーかコイツ、上級魔術まで使えるくせに学生やってるのか。


「なんていうか、凄まじいな」

「ふふん。全く、その足りない頭でも、ようやく少しは理解できたようね。力の差というものを。」


 エミリーはすごくスッキリした顔をしている。

 上級風魔術は、ゴブリンと木々に加えて、彼女のストレスも吹き飛ばしていったようだ。



 その後、無事にスライムを見つけ、エミリーがストーンバレットでやっつけた。

 見たがっていたスライムを見た感想は、「こんなものなのね」と淡白だった。



 ―――――



 街に戻ると、もう夕方になっていた。


「ぼちぼち帰るか」


 森に入ったのと、あんな魔術を間近で見たせいで、服が砂っぽい。

 帰って風呂に入りたくなった。


「そうね」


 エミリーも異論はなさそうで、素直に同意した。

 別れ際、エミリーに声をかける。


「なかなか楽しかったよ。また機会があったら狩りに行くか」

「フン、まぁ、ハジメが行きたいんだったら、行ってあげてもいいけど?」


 ……最後まで、ブレないやつだった。

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