第八話「二人目の魔法少女 ブルー」
ヒロイン 心の描写
主人公が幼女に《設定》を分析してもらっている間、私たちは第二の魔法少女を探していた。
「ラビじん!二人目の魔法少女の情報はないの?」
「そうウサね〜…「ちょっと待って!どうして私の部屋で作戦会議してるのよ!」
魔法少女…じゃなかった、響蕾の変身妖精アイテムことラビじんの会話に覆い被さるように私は言葉を発した。
主人公とヴァージンが出ていった後、私・櫻子・響蕾・ラビじん・ヒーローの四人と一匹が集まったのは誰でもない私の部屋だった。
「だって、ここ居心地がいいですから」
「良くない!さっさと二人目の魔法使いを探しに行くわよ!」
詳しく言うと、ここは学校が所有している寮であり私の部屋ではない。
しかし、自分の領域に他人が(しかも、外着で)入ってくるとモヤモヤして落ち着かないのだ!
私は早く情報を言えと言わんばかりに空に浮かぶ妖精を睨みつけた。
「私達妖精は自分のご主人様である魔法少女をそれぞれ見つけ出すのが鉄則なんウサが、二人目担当の〝ブキいぬ〟とは連絡が取れてないウサ」
「ブキいぬ?」と櫻子が不思議そうに復唱する。
「ブキいぬとは武器に変形できる妖精ウサ!」
安直ね…
「じゃあ、ブキいぬを探さないといけないってこと?」
転移者であるクラスメイト…ヒーローが尋ねた。
「そうウサね。でも、無謀な挑戦ではないウサ。同じく妖精の〝ララ〟なら知ってるかもしれないウサ!響蕾!電話かけるウサ!」
すると、ラビじんは自身の《設定》である変身アイテム携帯に姿をかえる。ボワン!と煙が部屋に舞う。
「分かった!」と携帯と化した妖精の身体をポチポチと打ち込み、耳にあてた。
「ウサウサウサ…ウサウサウサ…」と着信音を口ずさむラビじんの身体から、野太い声が聞こえてくる。
『やっほー、何してるクマ?』
語尾からだいたい想像できる妖精の種族・色・形。
デフォルメ化された小熊が携帯を握って話してると思うとここは現実世界なんかじゃなく、紛れもなく異世界だ。
「あ、あの、魔法少女ピンクと申します。二人目の魔法少女はしりませんか?」
『ん?魔法少女?』
そこから何回かラリーがあり導き出された結論は
「この学園に二人目の魔法少女がいるようです」
響蕾は私が出した紅茶を口に含んだ後、上記のように言うのだった。
「この学園に…って言われても全学年合わせて三千人越えの学園から探し出すのは難しくないか?」
ヒーローの言葉に私は訂正を挟む。
「魔法〝少女〟だから半分の千五百人に絞れるわ…それでも難しいのは変わりないけど」
「んー…そうですね」
ここで櫻子は顎に手を当てて、思考を回転させ、名案を口にした。
「では、敵を出現させるのはどうでしょう?学園内で起こせば二人目の魔法少女も来てくれるのではないでしょうか?」
「確かに!それは名案ウサね!」
と、わかりやすく2時間4章起こして喜ぶ妖精に対し魔法少女は「敵出現により傷つかない人がいるといいんですが」と正義のヒーローらしい発言を口にする。
「それなら響蕾さんは決して敵を殺さず…しかし、攻撃を全部受け切ればいいんですよ」
随分、鬼のような提案をするのね…
頭に魔法とついてはいるが、響蕾はまだ女子高生。そんな考えに乗らないと思ったが、
「それはいいですね!手こずっていれば二人目限らず誰か来てくれると思いますし」
と、そんなこんなで二人目(魔法少女)を攻撃をする作戦が始まったのだった。
「敵は頃に悩みを抱える人間の負のエネルギーを使い、モンスターを生み出します。どなたか不幸になってくださいっ!」
「…と、言われても」「突然そんなことできないわ」
私とヒーローは頭を下げる響蕾に否定的な意見を送った。
「ふむ。では、探すしかないですね。悩んでいそうな人を…誰かを不幸にすることは避けたいですし」
1番最年少と言うとからの記憶もあるため、私たち十五、六の少年少女とは一回り長く生きている櫻子。
彼女だけ認める事は自分のプライドが許さなかったので、必死に頭を捻る。そして、
「悩んでいる人…いるじゃない!」
「だ、誰ですかっ!?」
「あんたよ、魔法少女ピンクさん!」
私は細い指を魔法少女ピンクこと響蕾に指した。
「わ、私ですか!?」
「今悩んでるじゃない二人目の魔法少女が見つからなくてさ」
「えー、でも、仮に敵を出現させたとしても誰が注意を引くんですか!!」
「私に任せなさい!少なくとも魔法少女より運動神経いいから」
フン!と鼻を鳴らした私を合図に敵を出現させる計画が始まった。
「と、言ってもどうやったらいいんでしょう」
「嫌だと思うことをすればいいのでは?例えば、今日中に魔法少女を見つけられなかったら晩御飯はお預けとか…」
「晩御飯!?」とあからさまに嫌な顔をする響蕾。
しかし、負の感情を纏わないと敵は現れてくれないのだ。
「わ、分かりました…」
ゴクリとつばを飲み込み、意思を固めた様子だ。と、思ったのも束の間…
「うわぁーん!やっぱり私には無理ですっ!」
瞳に大粒の涙を溜め、その場にうずくまってしまった。
「ご、ごめんなさいっ!そ、そんなに嫌なことだと思っていなかったんで」
込み上げてくる不安を抑え込むべく、利き手を胸に添える櫻子は慌てて訂正を挟んだ。
「あなた達…!な、何をしてるんですかっ!?」
すると、背後から凛とした声が飛んでくる。
頭にプリンアラモードのようにさくらんぼとホイップクリームをのせた妖精…ブキいぬの側にここの学園の生徒がいた。リボンの色から高校三年生だろう。
「あ、あなたが二人目の魔法少女だったんですね…」
本当の現実世界なら笑われてしまうような言葉だが、ここは小説世界。常識が通じない。
「え?…いや、その」
何故か言葉を濁す生徒は学園でもひときわ目立つ存在だったようで…
「えーー!生徒会長なんですかっ!」
そこには生徒会長こと水海美菱の姿が。
二つに結ばれた長髪や視線を吸い取ってしまうような瞳の色は全て青。桃色の眼鏡が知的そうにこちらを見ている。
「生徒会長?」
「生徒会長とは…とご丁寧にメールを並べてくれた。
生徒会長という概念がない世界出身の私には分からない言葉なのだ。決して、バカだからというわけじゃない!
「仲間になって欲しいんです!」
「絶対ダメ!魔法少女なんてその…ハ、ハレンチなもの、やりたくないもの!」
顔を紅潮させながら頑と断る生徒会長。
首をぶんぶん横に振り、否定を表現した。
まあ、私もやりたくないわ。とヒロインに評価されているとも知らずにピンクは魔法少女の素晴らしさを語る。それを知った上で否定しているのか、雑な返事を返す生徒会長。
すると、ここで教室が建物が煽るように振動した。
「な、何だっ!?」
ヒーローが声にしてまで不安を表すように、巨大な学園自体が揺れているのだ。この世界に住む一般人は地震か!?と机の下に身を隠すのだろうが、我々転移者は揺れの正体が明確なまでにわかっている。
「敵ウサッ!」
甲高いラビじんの声が鼓膜に届くと同時に、私達がいる教室に身を表した。
私の世界の敵はプラモデルのような機械だが、魔法少女の世界のモンスターはバレーボールのネットをモデルとしたタコだった。
非政府組織『エルサレク』…じゃなかった、悪の組織『クロブラック』からの刺客だろう。
「ピンク!変身ウサッ!」
「うん、分かった」
と、二言目には
「響蕾、行きます!変身!」などと叫び、ラビじんの面影が残った携帯電話(変身アイテム)のボタンを押し、ピンク色の粒子を呼び起こした。
変身してる間を狙って攻撃すればいいのに…とも思ったが、この世界の敵は賢いらしい。大人しく変身過程を見守っていたのだった。
「夢みるツボミはピンク色!魔法少女『ピンク』!」
変身終了後、お決まりの決めゼリフを口にすると、眼前に迫る勢いで、敵に止まることなく駆けていく。
地を蹴って大きく跳躍し、右手を伸ばし、頭部を地面に叩きつける。
と、同時に
「謎ピンクパァーンチッ!」と必殺技を口から放った。
タコの右頬に直撃した時、花が咲いたように真っ赤な液体が飛び散る。赤を使った表現は対象年齢に合っていないのか、攻撃を与えても受けても血液が漏れる事はなかった。
続いて、懐に潜り込むと、空気を蹴って回し蹴りを放ったピンク。だが、順調なのは最初だけで、強烈なキックが出るとは思えない細い足をタコに掴まれてしまった。
「し、しまった…!」
「ピンクーーーーッ!」
手か足か分からないタコに動きを拘束されたピンクを取り戻すために短い手足で飛び込んだ妖精も捕まってしまう。
「ピンクさん!ラビじんさん!…きゃあっ!」
そして、櫻子とヒーローもタコ足に襲われ、行動を塞がれてしまう。
しかし、この二人は推理小説・スポーツ小説出身。《設定》を見るからして戦闘向きではない。だが、私は違う!
戦闘意思を表すように握り拳に強く力を込め、地を蹴って高く踏み込んだ。敵の身体を捉え、風を切って掌底でを殴り潰す…しかし、
「きゃっ!」
タコの頭に脳味噌が沢山詰まっていたようだ。私が遅いかかった瞬間、すぐさま拘束状態にある櫻子を盾変わりに差し出したのだ。
同年代の男ならまだしも幼女相手にエリート(さすが)の私も手が出せない。
そして、硬直した私は思わず体勢を崩してしまい、タコ(てき)の足に捉えられてしまった。
「…嘘、転移者の皆さんが…」
最後に残ったのは魔法少女候補である美菱。彼女は顔を白くさせながら巨大な体躯を持つタコを見上げていた。
「美菱!変身するイッヌ!」
「えぇ!?絶対嫌っ!」
「大切な生徒がピンチなんイッヌぞ!」
「へへぇ…」と、腑抜けた声を漏らす美菱は顔を紅潮させながら、仕方がなくこう叫ぶ。
「へ、変身っ!」
「…」「…」「…」「…」「…」
敵すらも沈黙に包まれたと同時に、羞恥が頬がを赤く染まっていく。
「ど、どうして、変身できないウサか!?」
タコ足から疑問の言葉を投げるラビじんに「ん、ん/////」と体温が一気に上昇させた。
「ま、まさか、魔法少女じゃないウサか!?」
図星だったのだろう。罪悪感を感じたのか見ながら顔をそらしながらコクリと頷いた。
「どこでこの娘を見つけたウサか!?魔法少女は妖精だけに見えるオーラがある娘だけ。見えたウサか!?」
違和感を感じたラビじんはその正体を突き止めるために、すぐ真横にいるデフォルメ化された犬に問いかける。
「え?いや、この娘が自分で魔法少女だって言うから…」
「…」
「…」
「それじゃあ、駄目ウサ!」
敵の手も解いてしまいそうな程、バタバタを短い四肢を動かすラビじんは続けて
「魔法少女は気持ちでなれるものじゃないウサ!生まれつきの素質がないと無理だウサ!」
キーキー言葉を並べる兎に反して魔法少女ピンクはいたって冷静な声色で生徒会長にこう尋ねた。
「魔法少女になりたいんですかっ!?」
「え、えぇ…それは…?」
選ばれし素質を持っていないのに自分から妖精に話しかけたのだという。昔にでも魔法少女ものに憧れがあったのだろう。
「はい、でも、できなかったので…ご、ごめんなさい」
生徒会長は私や魔法少女の一つ上の高校三年生。なのに対し、流暢な敬語を操る部分から彼女の優しい性格が垣間見える。
「ほら、さっきだって出来なかったし」
それだけではなく、ネガティブ思考もあるようだ。
決して目を合わせず、黙々と口元で言葉を並べる。
しかし、そんな嘘紛いなことをした彼女に対し、魔法少女は優しい言葉をかけた。これが選ばれし素質なのだろうか。
「大丈夫です!あなたならできる!」
「わ、私に…ですか…」
その時、ちょうど眼鏡が差し込む夕日に反射して瞳の色が見えなかったが、邪魔されても分かる。彼女は決意を胸に抱いていた。
そして、ゴツゴツとした安っぽいステッキに衣装が描かれたカードをタッチし、電子音を響かせる。
「へ、変身っ!?」
すると、美菱の周囲に青色の粒子が鮮やかに舞った。恐らくソーダ味、爽やかな香りがするであろう粒子は制服や四肢、足先から頭のアホ毛にまで覆い、全身を真っ青に変えていく。
男だけでなく女も視線が吸い込まれてしまいそうな程の大きな胸を揺らしながら、効果音を鳴らし、ピンクと色違いの衣装に包まれていった。
しかし、やはり生まれつきの素質がないと本物にはなれないのか魔法少女衣装はダンボールで作られたしまらないものだった。
分厚い胸が窮屈そうに青色の衣装の中で揺れており、短いスカートからはすらりと細い足が視線を集める。
「海の青は美しき証!魔法少女『ブルー』!」
眼鏡を外した彼女は決めゼリフに相応しい程美しく、青色(文字だが)の似合う美少女だった。
「…おぉ、ほんとに変身できたイッヌなぁ〜、凄いイッヌ!」
「ふふふっ、ありがと」
変身したら性格が変わるの?と思わせたのも束の間。バフゥ!と魔法少女ブルーの顔が紅潮し、「恥ずかしいぃ」と情けない声と湯気が漏れた。これでは魔法少女レッドだ。
ご都合展開により魔法少女が増え、不利になった敵は甲高い悲鳴が轟かせると、右拳で相手の脳天狙い振り落とした。
「避けてくださいっ!」
櫻子の声のおかげか、紙一重で回避した生徒会をも纏める魔法少女ブルー。
「凄い…身体能力あがってる」とあるあるな台詞を口にする。
「変身したら性格が変わるんですね?」
「つ、作ってるんですっ!恥ずかしいから言わないでください〜」
タコに拘束されたピンクにまで指摘されたブルーはさらに頬を一気に赤く爆発させた。
「ブルー!」
「はいっ!!」
ご主人様の名前を呼んだ妖精はボフン!と煙をたたせ、姿を弓矢に変形させた。
ブキいぬ
設定…武器になる変身アイテム
説明…数多の武器になれる。
「この武器を使うイッヌ!」
目と犬特有の垂れ流した耳がついた弓矢…といってもプラスチックでできた軽そうな武器を敵に向け、こう叫ぶ。
「ベイビーブルーアロー!…
言葉だけ見ればかっこよく放っているように見えるが、顔の端々にはまだ恥ずかしさが残っていた。
アクアマリンビューティーダイアモンドッッ!」
頑丈な男の口を借りて放っても水鉄砲程の威力しか出ない技だが、魔法少女同様桁違いな力を発揮するのだった。
目を焼かれるような眩しい青色の光線が弓矢先から放たれる。
「ぎゃゃあぁああぁあああ」
敵は不健康そうな青色の光に包まれると咆哮し、細かな粒子に分解した。
青色の光を放つカラフルジュエル(笑)が涙のように地面に落ちる。
と、同時に拘束されていた私・櫻子・ヒーロー・響蕾・ラビじんが解放された。
「凄い!凄い!新しい仲間が増えたよ!やったー!」
自分の事のように大喜びで駆けてくるピンクに対し、ラビじんは「嘘…」と一般人が変身できたことに動揺しているらしい。
「ていうか、魔法少女は後四人ってことには変わりないけどね」
「…」
「どうしたの?櫻子」
「いや、な、なんでもないです」
魔法少女ブルーのように顔を青白く染め上げている櫻子に違和感を覚えた私はヒーローと目を合わせ、首を傾げた。
「よろしくお願いします!ブルー…あーいや、生徒会長!」
一方で二人の魔法少女は会話を展開していく。
「美菱でいいですよ」
ニコリと笑みを浮かべた魔法少女達を夕日はにっこりと見守っていた。