幕切れ
裏ボス······。
嗚呼、なんと甘美な響きだろうか····。
俺が初めて裏ボスに出会ったのは小学四年生の夏。
長期休みも終焉を迎え始めた頃、俺はある1つのゲームをクリアした。
ラスボスを倒して全クリしたと思っていた。
·····だが違った。
裏ボス····。
未だ戦っていない強者に心が躍った。
俺は思った···運営はなんと素晴らしいキャラを作ったのか、と。
これが俺と裏ボスの出会いだ。
俺が本格的に裏ボスに憧れを抱き初めたのは、中学2年生になった頃だ。
裏ボスという存在にハマった俺は、ロールプレイングから乙女ゲーまでのありとあらゆるゲーム全ての裏ボスを観察し、記録した。
余談だが、俺が今まで戦ってきた全裏ボスのステータスを記録したノート····ズバリ裏ボス日記は、どうしても捨てられなくて、今も机の収納スペースの底に封印されている。
そんな俺 藤雲 那湯田 は、今年で32歳になる独身男性。
建設会社に務める陽気なオッサンというのが周りの見解だ。
芸達者で、座右の銘は武芸百般。
自分で言うのもなんだがスペックはまぁ良い。
惜しむらくは運が悪かったか····。
···結婚したかった····。
····と言っても現状に不満は無い。
まぁまぁやりがいのある仕事をし、食べたい物を食べて、好きなゲームをして寝る。
悪くない···いや、むしろ良い。
初めてゲームをしてから20年、ゲーム業界は大きく発展した。
俺達が使った二枚の鉄の板は古代兵器(3D〇)として封印されて、今や子供達が遊ぶのはVRだ。
いい時代になった···。
そんなことをしみじみと思いながらゲームを起動する。
遊ぶゲームは、半年程前に発売されたVRゲーム《リベルタ オンライン》略してリベオン。
自由度が高い神ゲーとして一斉を風靡したゲームだ。
完全な感覚が再現されたVRゲームとして初めてのソフトという事もあり、全国の店舗で品切れが相次いだ人気ゲームだ。
全身に機械をセットしてゴーグルを着ける
感覚のあるゲームが開発されたと言っても、社会は特に変わらなかった。子供は学校に行くし、スポーツもする。
ゲーム依存性は多少増えたが、それを除けばVRが無かった頃と大して変わった事は無い。
「さて、始めますか!」
ヴォン という音と共にゲームが始ま···ら無かった。
画面は暗いままだ。
画面に文字が浮かび上がる
《 Accoglienza 》
「なんだ?····う"っぐあああぁぁぁぁあ!!」
猛烈な頭痛に思わず倒れる
真っ黒な視界のまま、いつしか俺の意識は遠のいていった··。