くびなしオバケがやってきた!(10)
「『されている』ってことは、『実は生きていた』ってこと?」
とシホちゃんは言いました。
「よく分かったなぁ。」
と神野悪五郎が頷きます。
「だってシホは刑事ドラマをよく観るもの。死んだと『されている』人が犯人だったのって、よく有るトリックだし。」
「脚本家は大変だな。」と山ン本五郎左衛門が溜め息を吐きます。
「保育園児にトリックをどうこう言われる時代になっては。」
「それは、横に置いといて」
とシホちゃんは山ン本五郎左衛門に言ってから
「おじいちゃんは『遠くの親戚に貰われたんじゃないかって思った』って言ってたけれど、おじいちゃんの推理の方が当たってたってこと?」
と神野悪五郎に訊ねました。
すると神野悪五郎は
「ホントウは、山に帰ったんだよ。」
と教えてくれたのです。
「菖蒲は狐だったんだ。」
「えーっ!!」
とシホちゃんは大ビックリです。
「キツネは動物園で見たけど、化けたりしないよ? タヌキだってワンコみたいでかわいかったし。」
「シホちゃん、それはなぁ」と山ン本五郎左衛門が言います。
「動物園に居る狐や狸は、普通の狐とか狸だからなんだ。」
そう、と神野悪五郎も頷きます。
「先ほど逃げていった妖どもも、長い長い年月を生きて、霊力を得たモノばかりなのだよ。『選ばれた』モノと言ってもいいし、『しぶとい』とか『粘り強い』と言ってもよい。古茶碗や古傘みたいに物として長く生きたモノもあれば、魂として長生きした獣なんかもいるのだ。」
だからな、と山ン本五郎左衛門が神野悪五郎の言葉を引き取ります。
「良い”思い出”と共に長生きしたモノは優しい妖になるし、意地悪されたり嫌な気分のまま生き続けたモノは意地悪な怪となるのよ。」
「それらの妖異・妖怪どもの内、未熟なモノを束ねて、そいつらが好き放題に振舞わぬよう目を光らせておるのが、我と山ン本五郎左衛門の二人というわけじゃ。」
そう神野悪五郎は『狐』の説明を結びました。
「修行が終われば、後は然るべき神仏の眷属になるなり、土地の善霊となるなり、それは自由。」
「ふぅん。やっぱり”しんのあくごろう”と”さんもとごろうざえもん”は魔物の王様だから、魔王なんだねぇ。偉いんだねぇ。」
とシホちゃんは感心しました。
「会社で言えば、部長?」
これを聞いて、二人の魔王はズッコケました。
「これっ! 魔王だ、と言っておるであろうが。」
と神野悪五郎はプンスカしましたが、山ン本五郎左衛門は苦笑いして
「常務か下請け大手の社長、くらいにしておいてくれよ。」
と言いました。
シホちゃんは「じょうむ、ってよく分かんないや。」と返してから
「でも、どうしてアヤメさんは山に帰ったの?」
と質問します。
だって、おじいちゃんとは大の仲良しで、いつも楽しく遊んでいたというのに。
神野悪五郎は怒ったままなのか黙っていましたが、山ン本五郎左衛門が教えてくれました。
「それは、シホちゃんのおじいさんが、小学校に入る年齢になったからだな。」
神野悪五郎も、それに頷いてから話を始めます。
「小学校に上がれば友達も増える。おじいさんが子供の頃は、田舎では今のシホちゃんみたいに保育園に行く子は少なかったから、友達も限られていて、菖蒲が狐であるという秘密もバレにくいだろうと許していたんだよ。」
けれども、と神野悪五郎は間を取ると
「新しくできた友達の中には、菖蒲の正体を不思議がる者が出てくるのは間違いない。家がどこかとか、親は誰かとか。」
と言いました。
「だから、おじいさんのお父さん――シホちゃんの曽祖父だな――なんかにも手伝ってもらって、菖蒲は死んだということにしたのよ。」
シホちゃんのおじいさんには可哀想な事ではあったがな、と神野悪五郎は再び口を噤みました。