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7 裁かれる日……

その日、トゥンジェリ王国ではとても目出度いことがあった。それは神託の乙女の結婚式が王都で行われたことだ。


だが、本来なら一番賑やかなはずの王宮は、夜にパーティーが開かれることもなく、ひっそりと静まり返っていた。それは結婚式で疲れた『神託の乙女』を休ませるためだった。後日、改めてパーティーが行われることが決まっている。


だが、その静まり返った王宮内は、どことなく緊張をはらんだ空気が流れていた。誰しもが息を潜めて、やがて来る時を待っているようだった。


そんな中で、王宮の中でも一番奥まった小宮殿、青の離宮と呼ばれている場所だけは違っていた。離宮には煌々と灯りがともり、集まった人々が笑いながら祝杯を挙げていたのだ。


そこに集まっているのは、亡くなったこの離宮の主(・・・・・・)の妃クシュリナと、現在の宰相であるタドリック・コストロ、騎士団長のブレスト・バンドゥマ、魔術師長のノヴィサド・ピエルタン、大商会の会頭のガラティ・ケプナートの五人であった。


彼らがクシュリナを囲んで笑顔で喜びを分かち合う中で、魔術師長だけは曖昧な笑みを浮かべて、会話に加わろうとしなかった。他の四人はこの中では無口で聞き役になることが多い彼のことを、いつものことと流して彼を除いて話をしていた。


不意に、彼らに話しかけてくるものがあった。


『罪を犯せし者どもよ。今からお前たちに裁きを言い渡す。神妙に聞き入るがいい』


突然聞こえてきた声に、宰相と騎士団長と大商会の会頭はクシュリナを守るように動いた。


「誰だ! 我らに暴言を吐くとは!」

「隠れていないで出てこい!」


辺りを鋭く見回すが、人がいる気配は感じられないことに、騎士団長は視線を魔術師長へと向けた。魔法を使って声を届けていると思ったのだ。魔術師長はそれを察すると、緩く首を振った。


『本当に愚かな者たちだな。私が誰だか解らぬとは』

「はっ、ただの不審者が偉そうに! ……って、おい。ノヴィサド。どうしたんだ」


大商会の会頭は魔術師長が一度上を見上げた後に、(ひざまず)いて(こうべ)を垂れたことに驚いて声をかけた。魔術師長はその声に答えずに頭を下げ続けた。


『ほお、一人だけは己の罪を自覚しておったか』


その言葉が発言をする許しだとおもった魔術師長は、頭を下げたまま口を開いた。


「はい。遅きに失しましたが、己が何を致しましたのか、理解しております」

『そうか。だからといって、私からの裁きから逃れられぬものではないがな』

「そのことも重々承知いたしております」


魔術師長が話すのを茫然と見ていた騎士団長は、我に返ると乱暴に魔術師長の肩を掴んで顔を上げさせた。


「何を訳の分からないことを言っているんだ、お前は。王国の重要人物である我らが、訳の分からない暴言を吐く者に、頭を下げる必要はないだろう」

「本当に? 本当に我らに罪がないと思っているのかい、ブレスト」


魔術師長は己を掴んでいる騎士団長にそう言った後、涙が滲んできた目をクシュリナと宰相、大商会の会頭のほうへ向けた。


「クシュリナ様、タドリック、ガラティ。私は……恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。王家を(たばか)るだけでなく、神に背いたのだから」


魔術師長の言葉に唖然とした顔をする四人。


「何を言っているの。王家を謀る? 神に背いた? それを(わたくし)がしたというの?」


クシュリナは言われたことがわからないとばかりに、首を傾げながら聞いた。その様子を魔術師長は絶望した顔で見詰めた。


「ああ、何故、私はあんなにも……あの時、あの言葉を信じてしまったのだろう。どうして私は、あの言葉に疑問を持たなかったのだろう」


魔術師長は涙を流しながらそう言うと、床に突っ伏した。魔術師長の行動を、意味がわからなく気味悪く思った騎士団長は、彼のそばを離れるとクシュリナのそばへと戻った。


『どれだけ嘆こうと、時は戻らぬ。そして罪は罪だ。罪を犯した者には裁きが訪れる』


また声が聞こえてきた。彼らは辺りを見回したが、不意に気がついた。先ほどから聞こえてくる声は、頭の中に直接響いていることに。


「ま、まさか」

「そんなわけが……」

「いるわけがない」

「神なんて」


茫然と否定の言葉を浮かべる四人に、無情な声が頭の中に響いた。


『どれだけお目出度い頭をしているのだろうな。……私のことを信じておらぬのなら、仕方がないのだろうか』


声の主は、呆れたように言ってから、独り()ちた。


『さて、お前たちが信じていようが信じていまいが、お前達が私の不興を買ったことは確かだ。王家への不敬については、この国の王たちが後ほど裁くだろう。だから私からは死して後のことを伝えておこう。お前たちはこれから先、百万回生まれ変わる間、人に生まれ変わることは出来ない。人の役に立つ生き物に生まれ変わることとする。ただ生まれ変わるのでは意味がないから、今生(こんじょう)から先、生まれ変わるすべての記憶を持つこととする』

「「「「はっ?」」」」


四人の声が揃った。四人は同じように瞬きを繰り返して、顔を見合わせた。それから、一番先に我に返ったクシュリナが叫ぶように言った。


「そんなのおかしいわ。なんで何も罪を犯していない私たちが、そんな罰を与えられなければいけないの! そもそも神様なんて、ゲームには出てこなかったじゃない!」


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