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6 過去の話……と、異界の魔女

陛下の兄君とクシュリナ様は学園を卒業後、ご結婚をなされました。ほどなくクシュリナ様は懐妊。金髪に青い瞳の男の子をお産みになられました。ですがクシュリナ様は、産後に体調を崩されたので、お二人目のお子をなかなか授かることが出来ませんでした。


クシュリナ様がお二人目をお産みになったのが、私が三歳の時でしたわ。


そして、私が五歳の時に陛下の兄君は亡くなられてしまいました。事故だった……と聞いております。


王領のかなり大きな川にかかる橋が傷んでいるとの報告を受けて視察に行き、橋の崩落に巻き込まれたそうです。

遺体は橋の崩落に巻き込まれた時に頭を打ち付けたらしく、ひどい怪我を負っておられたと聞きました。頭の怪我でなければ川に落ちても助かった可能性があるそうでした。


さて、ここまででお判りでしょうか?


そうなのです。フォルグワンダ様は陛下のお子様ではありません。陛下の兄君とクシュリナ様のお子様です。


そして、ここで問題が起きました。クシュリナ様はこの時二十五歳です。王家としてはまだまだお若いので、シャガン公爵家に戻り、再婚をしてもらうつもりでした。ですがクシュリナ様は、お子様と離れることを良しとしなかったのです。


王家としても亡き王太子の子を手放すつもりはありませんでした。


結果、話し合いをなさりました。その結果……弟である陛下とクシュリナ様が結婚すれば、丸く収まるという案がでてきたそうです。

結局、クシュリナ様の幼馴染みで当時は、宰相補佐様、副騎士団長様、魔術師長代理様、大商会の若頭様方(伯爵家次期当主)が後押しをなさって、クシュリナ様は新たな王太子妃となられたそうでした。


……その後のことは先ほど回想いたしましたので、私もわかっておりますわ。



お父様は簡単に話された後、大きなため息を()かれました。


「メイティアならわかると思うが、本来ならあり得ないことが起こっていたのだよ」

「わかりますわ、お父様。王太子様……ジェスト様は、事故で亡くなったのではないのでしょう」

「もちろんだ。神の加護があられるのだ。事故で亡くなるなどあり得ん。あり得るのは人為によるものだろう」

「あの時、私も同行していれば」


ギル兄様が悔しそうに唇を噛み締めました。


「ギルメラン、私はお前が残ってくれてよかったと思っている。兄上だけでなくお前まで居なくなってしまっていては、やつらをもっとのさばらせることになっただろう」

「有難きお言葉です、陛下。それでも十年かかってしまいました」

「いや、十年で済んだのだ。異界の魔女がメイティアの婚姻を早めると言った時には、(くび)り殺してやろうかと思ったけどな」


陛下が不機嫌な顔をして吐き捨てるように言いました。私はそっと隣に座る陛下の腕に、手を置きました。それに気づいた陛下は腕が置かれていないほうの手で、私の手を上から包み込みました。


「大丈夫だ、メイティア。まずはあの御方に裁いていただこう。その後に我らが……な」

「そうですわね。……あっ、そうでした」


私は陛下に相づちを返してから、先ほどのことで伝えなければいけないことがあると思い出しました。


「どうかしたのか、メイティア」

「忘れるところでしたわ。陛下、お父様。フォルグワンダ様はシロですわ」

「ほお?」

「先ほど、ミルディ嬢から聞きましたの。異界の魔女の手の者に見張られていたために、不用意なことが出来なかったと。ミルディ嬢にも謝罪の言葉をいただきましたわ」

「それは本当か。というか、危ないことをするでない、メイティア」


お父様が私に苦い顔をして言いました。続けて「ラナンは何をしていたのだ」と、呟かれました。


「お父様、そのラナンを通じてミルディ嬢は連絡してきたのですわ。ミルディ嬢にも見張りがついていたようですが、私とフォルグワンダ様との結婚式が無事に済んだことで、監視が緩んだ隙をついたそうですのよ。時間があまりありませんでしたが、フォルグワンダ様は学園に入学前にお知りになられていたことと、穏便に婚約の解消を狙っていたけど、異界の魔女に邪魔をされて思うようにいかなかったとのことですわ」


私の言葉を聞いた陛下はハア~と息を吐き出されました。


「あやつは、そこで私に頼ろうという気はなかったのか」

「それも考えたそうですわ。ですが、ただでさえ偽っている身で、陛下に助けを求めることは出来なかったと」


陛下はもう一度重いため息を吐きだしました。


「偽っているといっても、あやつからはじめたものではあるまいに。そこまで異界の魔女の呪縛は強いものなのか」

「陛下、それは侍っている者どもを見ればわかるでしょう」

「そうだったな」


陛下は目を伏せて何かを思っていらっしゃるようです。


私は陛下の心中を察して、何も言うことが出来ません。ただ、陛下の腕に置いた手を外し、膝の上に移動すると共に、まだ私の手を包んでいる陛下の手をもう一つの手で包み込みました。陛下も同じように私の手をもう一つの手で包んでくださいました。


しばらく部屋の中には沈黙が流れました。


そこに何かが触れたような気配を感じて、私はいつの間にか伏せていた顔を上げました。陛下やお父様たちも同じように顔を上げていました。


「どうやら、始まるようだ」

「そのようですね」


陛下はニヤリと悪い笑みを浮かべました。


「それでは我らは高みの見物と行こうか」


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