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5 事の起こり……は、私が生まれる前

「こら、お前達、メイティアが奪われそうなのが嫌なのは分かるが、陛下のお気持ちを考えろ。この八年、偽りの婚約を我慢なさっていらっしゃったのだぞ」


お父様がお兄様たちを(たしな)めるように言いました。お兄様たちも分かっているのか笑っています。お父様の視線は陛下へと向きました。


「陛下も、お気持ちは分かりますが、まだすべてが終わったわけではないのですから、お控えください」

「ああ、わかっているよ、ライフェン公爵」


このあと皆の前に紅茶が置かれ、それを飲んで喉を潤したところで、陛下が言いました。


「メイティアはどこまで話を聞いているのかな」

「私が聞いておりますのは、断片的なことですわ。でも、大体のことは把握していると思っております」

「そうか」


陛下は目を伏せると、少しの間何かに耐えるように口を引き結んでいらっしゃいました。それから目を上げ、私のことをヒタッと見据えました。


「それでは、事の起こりから話していこう」

「それでしたら、私から娘に話させていただきます」


お父様が言いましたら、陛下は頷いて「頼む」と短く言いました。



事の起こり……それは私が生まれる前のこと……からでした。


この世界は神託によって国の王が決まります。その王は神の代理人として、その国を治めるのです。


ですが、いつからか神を信じない者が増えていると聞いています。そのような国は神の恩寵を得られないので、荒れ果てているといいます。


昔は……歴史に残るように、一夜にして滅ぼされた国があったそうですわ。神様曰く『若気の至りだった』とおっしゃられましたの。今は国を滅ぼすのではなく、その国に一切の恩寵を与えないに切り替えたそうでしたわ。


そして、そういう国は他の国の栄華を(うらや)み、戦を仕掛けてくるといいます。でも神の恩寵により、戦を仕掛けられた国が負けることはありません。そうしてどうしようもなくなって、その国は滅ぶかクーデターで王族が弑されて、近隣の国に庇護される(属国となる)ことで生き延びるしかないようです。


それから、神託により王になることが決まった者でも、本当に王となるのにふさわしいとは限りません。そこで神は試練を与えることにしたそうです。試練は……様々なものがあると聞いていますが、基本は心根を知るためのものだそうです。その試練への対応次第で、王位につけないこともあるそうです。


亡くなられている今の陛下の兄君が、次期王との神託を受けたのは、彼の方が学園に入られる少し前だそうでした。そして試練は学園にいる間におさめるようにと言われたそうです。


試練が何かは神託では言われません。ですが、ヒントはくださいます。学園にいる間にということですので、何かが学園に入学したら起きるということです。


陛下の兄君の試練は……男爵家に後妻に入った連れ子のことでした。


言っておきますが、まかり間違ってもハニートラップではありません。まず、神様は試練の課題となる者に先に事情を話し、試練者となることを了承してもらうそうです。


陛下の兄君の課題は、平民であり女性でありながら優秀な者を、どう扱うかというものでした。


そうなのです。男爵家に後妻に入った方の連れ子、モルディナ様とおっしゃられたそうですが、彼女の身分は平民です。母親が貴族に後妻として入りましたが、モルディナ様は貴族の血を引いてはおりません。


モルディナ様は母親が男爵の後妻に入ったということで、学園に通うことを許されました。彼女は学園で勉強をして、女官か文官を目指したいと言っておられたそうです。あの頃はまだ、女性が表舞台で働くことは忌避されることが多かったといいます。女官はまだしも文官になるということは、とても難しいことでした。とかく女性の地位は下に見られがちだったそうです。


陛下の兄君は学園でモルディナ様に起こったことに真摯に向き合ったそうです。試験で一番の成績を収めたことで、無駄にプライドだけは高い男子からの言い掛かりや、生徒会運営(モルディナ様は役員になったそうです)に口出しすること(本来なら役員として当たり前のことです)などへの風当たりに対して、対処なさったそうです。

そのおかげか、卒業が近くなった頃には、女性軽視の風潮は若い人たちの間ではあまり見られなくなったと聞いています。


が、代わりに他に困ったことが起きたそうでした。陛下の兄君がモルディナ様に構われるのを、良しとしない方がいたのです。


そう、その方は婚約者であられたクシュリナ・シャガン公爵令嬢でした。確かに婚約者としては面白くないことでしょう。ですが、陛下の兄君はクシュリナ様を蔑ろにしたことはなく、サロンにて二人でお茶会をするなどして、交流を持っていたと言います。


それなのに……どちらかというと、クシュリナ様のほうが陛下の兄君に、不敬を働いていたと言えるでしょう。


クシュリナ様の周りには、常に誰かしらが侍っていたそうです。令嬢だけでなく、高位貴族の令息たちが。というより、幼少の頃からのお付き合いにより、陛下の兄君を含めた高位貴族の方々とは、幼馴染みと云えるくらいに親しんでいらっしゃったそうですわ。


そして、その高位貴族の令息たちが、陛下の兄君とクシュリナ様とのお茶会に乱入することが度々あったそうです。その結果いつしかお二人でのお茶会は無くなってしまったそうでしたわ。



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