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4 一先ずの安心……と部屋の移動

もう一度ハア~と息を吐きだして……とりあえずの(うれ)いは無くなったと安堵した時です。


「あんの馬鹿は、最後まで言わなかったのか」

「えっ?」


聞こえてきた聞き覚えのある声に、思考が止まりました。……というか、ここに居るはずのない方の声です。


「そもそもわかっていたら、あんな男爵令嬢に引っかからないだろう」

「というか、うちのメイティアを(ないがし)ろにするなんてありえないでしょ」

「兄上、蔑ろにされなきゃ困ったのはどっちだ」


声が聞こえてきた方を向くと、どうやら隠し通路でもあるのか壁の一部が動いてぽっかりと穴が開いています。そこから見知った人たちが部屋の中へと入ってきました。


「国王陛下、お父様、ギル兄様、サス兄様」


茫然と呟いたら、そばに来た陛下が私の頭に手を乗せて、優しく撫でてくれました。


「メイティア、今まで心労を掛けたな。これでやつ自身が不適格者だと、自ら証明したわけだ。心置きなく動けるというものだ」

「いやそもそも資格がない者が、王太子になっていた方がおかしいだろ」

「それを言うのなら、あの異界の魔女がすべての元凶であるから、仕方がないといえるな」

「こら、お前達。この場で不用意な発言をするでない。まずは場所を移動せんか」


お父様に(たしな)められたお兄様たちは「違いない」と、肩を竦めました。


移動をすると言うので立ち上がろうとした私ですが、その前に陛下がさっと私のことを抱き上げました。


「へ、陛下、自分で歩けます」

「今日は疲れているだろう。もう少し話につき合ってもらわないとならないからな。少しでも体力を温存しておいた方がいい」


そう言うと、サス兄様が開けた扉から、王太子妃の私室のほうへと入って行きました。居間を抜けその隣の寝室へと入り、私をソファーへと下ろしました。


「着替えを頼む。時間が時間だし、盛装ではなくゆったりと過ごせるものにしてくれ」

「畏まりました」


待っていた侍女たちは、陛下に深々とお辞儀をしました。


「では、頼んだぞ」


そう言って陛下は部屋を出て行かれました。


侍女たちに夜着を脱がされ……たところで、今更ながら陛下にあられもない格好を見られたと、羞恥で頬が染まってきました。


「大丈夫ですわ、メイティア様。どのようなお姿でも、メイティア様はお可愛らしいです」


ライフェン公爵家からついてきたラナンが言えば、私が王宮に入り私付きとなった侍女たちもコクコクと頷きました。


「で、でも、あのようなはしたない格好で……」

「はしたない格好ではございませんわ」

「そうです。天使です!」

「天使に不埒なことはできません!」

「それでも、不埒な行いに及ぼうとしたのなら、そいつはクズですわ」

「ええっと……ありがとう?」


まあ、先ほどの夜着は清楚系とでもいったほうがよろしい様な可愛らしいものでしたものね。


そう考えた私は、侍女たちの力説にとりあえず疑問形になりながらも笑顔でお礼を言いました。てきぱきと服の着替えを行っていた侍女たちは、その私の様子に何故か顔を赤らめました。


「「「「(天使きたー!)こちらこそ、ありがとうございます!!」」」」


揃ってお礼を言われてしまい、私は引きつった笑顔を浮かべたのでした。


着替えが終わり居間のほうへと行きましたら、お父様たちはソファーで(くつろ)いでいました。私を見て微笑んでくれます。


「それじゃあ移動をするよ。あとのことは頼んだよ」


ギル兄様の言葉に侍女たちは「畏まりました」と、頭を下げて言いました。

お兄様たちに手招きをされたので、私はそばへと行きました。


「では一人ずつ移動をするぞ。メイティアは私と共に」


陛下に右手を差し出されて、その手に自分の左手を乗せます。陛下の左手が私の腰に回り、グイっと引き寄せられました。そのまま陛下の胸に(もた)れるように寄り添うと「転移(ジャンプ)」と陛下が言い、場面が切り替わるように他の部屋へと移動しました。足元の床には、魔法陣が書かれています。これを目印に移動して来たのでしょう。


魔法陣の上から離れるとすぐにお父様、お兄様たちが転移してきました。皆が揃ってから隣の部屋へと行きました。隣の部屋は少し狭いですが、寛げる空間となっています。それぞれ好きなところに座られたので、私はお父様の隣に座ろうとしましたら、陛下が自分の隣をポンポンと叩いてニコリと笑いました。


一瞬、呆れた視線を陛下に向けましたけど、お父様、お兄様たちへと目を向ければ、苦い顔、苦笑を浮かべている顔、呆れた顔が目に入りましたの。お父様が私の目線に気がついて頷いたので、私は陛下の隣に座りました。


「メイティアは何が飲みたい?」


陛下の問いに首を傾げると、サス兄様がまだ呆れた顔のまま言いました。


「まさか、酒を勧めたりしないよな」

「悪いのか? せっかく祝いの場だというのに?」

「いや、祝いの場じゃねえから。まだ最後の詰めが終わってねえって。浮かれんのも大概にしろよな」

「チッ」


陛下、今、小さく舌打ちをしましたか? そのことに気付いたサス兄様が睨んでいますけど?


「いいだろ、少しくらい。やっと本来の姿に戻れるのだからな」

「そういうことはすべて終わってからにしてください。詰めの甘さで足元を掬われたくはないですから」

「よくいうよ。そんな甘い対応をしているのなら、今ここで悠長に話なんかできないだろう」


陛下は唇の端を持ち上げて、凄みのある笑みを浮かべたのでした。


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