1 憂鬱な……夜
現在の連載をほっぽって、何を投稿しているんだと言わないでね。
そちらを書いている余裕がないので、前に書いていた作品を投稿することにしました。
どうぞよろしくお願いします。
その日、三歳の私は恋をした。その相手は柔らかに波打つ金髪に碧い目をした王子様だった。
◇
あの日から十二年。私は今日、この国の王太子と結婚式を挙げましたの。
そして今いる場所は……嬉し恥ずかし(そんなことがあるわけがないけど!)夫婦の主寝室。
そう、結婚したのだし、寝室にいるとしたら、この後にやることは初夜……の、あれよね。
ハア~、気が重いけど、これも義務の一つと、受け入れるしかない……のですわよね。
……本当に嫌 なのですけどね。ええ。触れられるくらいなら舌を噛んでしまいたいですわ。
って、あら、いけない。気が重過ぎて、つい暗いことを考えてしまったわ。
そうよ。どうせ、思い返すしか出来ないのなら、今までの楽しいことを思い出しましょう。
まずは、そうね、私が生まれたのはトゥンジェリ王国のライフェン公爵家。そこの一人娘として生まれたわ。名前はメイティア・フアナ・ライフェン。一人娘といっても、私の上にはお兄様が二人いらっしゃるのよ。娘は一人しか生まれなかったという意味での、一人娘なのね。
私の家はこの国の中でも特別な家なの。公爵家というのだから、王家から臣下に下った方が興した家なのよ。それだけでなく、私の母は隣国の王女だったのよ。それからもっと重要なのが、祖母、曾祖母も、別の隣国から嫁いでいらっしゃった王女だったということね。
ふふっ。三か国から王女が嫁がれた家ということで、我が家は外交がとても強いのよ。
さて、そんな我が家だから、他家からの婚姻の申し込みが凄まじかったというわ。
そんな中で、私が七歳の時に、この国の王太子との婚約が決まったのよ。
ちょうど先王陛下が、王位を今の陛下に譲渡した直後ということもあり、王太子の後ろ盾云々のために整った婚約というか……。
いいえ、言葉を濁しても仕方がないわね。本当のことを言いましょう。
神託により次代の王妃である私の婚約者が、立太子をなさったフォルグワンダ様に決まったのよ。
ああ、いきなり『神託が』といっても、何のことかとおもうわよね。この世界の決まりごとの一つに、各国の国王は神託により、指名されるというのがあるのよ。その神託に逆らうと……というか、神託により選ばれた王を弑したりすると、天罰が下るというわ。歴史で習ったけど、一夜にして滅んだという国があるそうなの。
それで、何故か今の陛下が即位なさる少し前に、神様から神官に下った神託が『次代の王妃がメイティア・フアナ・ライフェンである』ということだったというわけ。
そうなると、次期王太子の婚約者になるのは、致し方ないわよね。
フォルグワンダ様は私の三歳上。はじめて婚約者として顔を合わせた時は、はにかんだ笑顔の可愛らしい王子様だったわ。そこから五年間は友好な関係を築いていたのよ。
フォルグワンダ様が変わられたのは十五歳になり、王立の学園に入られてから。どうやら学園で恋をなさったらしいの。その方は男爵家の娘で……いえ、それだけでなく、元々は市井で育った庶子だそう。つまり彼女の母親は男爵に手を付けられて子供を身籠り、一人産み育てていたそうなの。それが母親が病気になり、亡くなる少し前に娘に父親の素性を話したそう。なんでも病気で長くないと悟ったからだというわ。それで母親が亡くなると、男爵から頂いたという家紋入りの短剣を持って、男爵家に行ったというのよ。
学園に通う従姉妹や懇意にしている令嬢のお姉様からの情報によると、彼女は貴族の令嬢にはあるまじき行いが目につく方なそうなの。はしたなくも婚約者がいる高位の貴族家の令息にばかり近づいているというわね。
最初は彼女の行動に眉をひそめていた令息たちも、彼女の近すぎる距離感によって、次々に陥落していったそうなのよ。
えっ? 近づきすぎる距離感ってどんなの、ですって?
男性の腕にご自身の腕を絡め……というよりも、腕を抱え込むようになさるようよ。そうすると彼女の胸が男性の腕に押し当てられることになりますわよね。そんなことをされれば、婚約者と適切な距離で過ごされてきた令息方は、ころりと彼女に落ちたというわけですわ。
ええ、そうなのですわ。まさか、王太子殿下にそのようなことを仕掛けるとは思わないでしょう。そして、まさかまさかの、王太子殿下までがころりと陥落なさるだなんて思いませんでしょう。
……って、ごめんなさいませ、メイティア様。事実だけをお伝えしようと思いましたのに。
……
あら、いけないわ。学園でフォルグワンダ様がどう過ごされていたのかを思い返していたら、友人のお姉様がお話しくださった言葉を、そのまま思い出していましたわ。
私ってば、聞いた噂話ではなくて、実際に私とフォルグワンダ様との交流を思い出したほうが分かりやすいのに。
学園に入られてからフォルグワンダ様はお忙しいのか、今まで月に一度は行っていた私とのお茶会が、ふた月に一度になり、三か月に一度となりましたの。それと共に贈り物も届かなくなったのですわ。
ああ、そうでしたわ。フォルグワンダ様が二学年になられて半年ほどしたころから、妙な言いがかりをつけられるようにもなりましたわね。
なんでも、学園に通っていないわたくしが、その令嬢に手ひどいいじめを行っているというのよ。最初言われた時には、何のことかわからなくて、本当に困惑しましたの。
でもこれはさすがに無理がございますわよね。学園に通っていないわたくしが、彼女の教科書を破ったり、持ち物を隠したり、汚したりが出来る筈はございませんもの。
本当にフォルグワンダ様は、いつから節穴におなりあそばしたのかしら?
あまり長くはならない予定です。
一応15話くらいで終わるはず……。
さて、メイティアの恋はどうなるのでしょうか?
と、言いながら、タイトル&あらすじ詐欺な展開になることを、予告しておきます。(苦笑)