1人のご飯
「こちらでお食事をお取り下さい、何かあればお申し付けくださいね」
「……」
食事だと言って通された場所は、この辺りにある家では1番大きい家では無いだろうか。
大きなお肉、サラダ、果物ともてなす用意のされた食事を見ながら、私はソワソワしてしまう。
側にはフォルテを含めて4人の女性が控えており、その様子からエルアンナの存在感と貴族感がうかがえる。
……もしかして、エルアンナはとてもお嬢様然としている人物なのかもしれない。
そう考えてみると、自分の立ち居振る舞いは彼女としておかしいのかも。
「…………」
緊張感からか、1人の女性が肩を震わせている。
エルアンナがどう対応していたか等気になるところだが、私の心が生まれたのはそれなりにお金がある平凡な家庭。
お金持ちとはまた価値観や捉え方も違うだろうし、なによりこの身体はもう私の物なのだから。
自分のしたいように動いて良いよね。
「……フォルテさん」
「はっ!」
ビシッと敬礼をしたフォルテは「どうぞフォルテとお呼び捨て下さい」と綺麗な瞳をこちらに向ける。
やはり地位とか面倒な事がありそうで「フォルテ」と私はなるべく優しく問い掛けてみた。
「皆さんは一緒に食べないの?」
「……この時間のお食事はエルアンナ様のみですが……」
「そうですか……」
私の言葉に、フォルテは困った様に眉を下げる。
周りに居た彼女達もが不安そうな表情だ。
どうするのが正解なのかが分からなくて、私は取り敢えずにっこりと笑みを向けて「ありがとう」と返す。
「私、別に外で食べても大丈夫よ。
こんなに豪華なお食事私一人の為に作ってくれたの?」
「エルアンナ様は、我が国にとっても宝玉であらせられますので。
良きものを食べ、良き時に銘じてくだされば」
真剣なフォルテの表情が少し怖くて、私はぞわりと内側を逆撫られる感覚を知る。
しかしそれでも。
「じゃあ今これから、貴女は私に遠慮しないでください」
「遠慮……と申しますと……?」
「私変わるの、わがままに生きたい。
貴女達が嫌だと言っても私は聞かないわ。
私も貴女達と同じような生活がしたい」
腕を組んでふんっと鼻を鳴らすと、フォルテはますます困ったように眉を下げた。
「私は貴女達とご飯が食べたい。
1人での食事なんて味気ないもの。
それがだめなら何かお菓子を持って来てみんなで食べましょう?」
「……それが、エルアンナ様のわがまま、ですか?」
フォルテの言葉に大きく頷いて「そうよ」と答える。
戸惑ったフォルテの周りでは、いきなりの事についていけないのか他3人の女性らがオロオロとしている。
「やっぱり、ダメかしら」
わがままが過ぎただろうか。
今までずっと1人のご飯だったから、誰かと食べたいと言う気持ちを言葉に出してみたのだけれど……と肩を落として居ると「エルアンナ様、クッキーはお好きですか?」と側に控えていた女性がおずおずと申し出る。
「クッキー?」
「この村は小さいのですが、小麦の生産が主流でして……贅沢品などとは程遠い物ですけれど」
「くるみを混ぜたり、きのみで出来たジャムを掛けるともっと美味しいんです!」
「お貴族様にお出しする品物とは言えないかもしれないのですけれど……」
もじもじとこちらを見る女性達の声に、私は「嬉しい」と笑顔を返した。
「ねえ、フォルテ、良いよね?」
ぐるぐると考えを巡らせていたフォルテは、眉根を寄せて頷くのだった。