休憩
小休憩を挟むと言った場所は、草原を抜けてすぐにある小さな村だった。
ビルの様な建物が一切無い上二階建ての建物すらない。
牧歌的な雰囲気そのまま、絵本にある様な平和な場所。
馬車から降りてすぐ、子供達が私の周りに集まって来るのをフォルテが凛とした声で散らす。
「他所の人が珍しいんでしょう、良いですよ」
「ですが……」
「子供ですし、大丈夫ですよ」
大人はみんな複雑な考え方をするから苦手とする人も居るけれど、子供は可愛くて好きだ。
そう言う意味で答えを返すと、周りの騎士達の表情の苦さが際立った。
しかしフォルテが「では、私も側に居ますので」と呟いて、言葉通り側に立つと子供達はたちまち怯えてしまう。
銀の甲冑を着て剣を腰に携えた剣士が、例え女性でなくとも怯えてしまうのは仕方ないだろう。
集まって来た子供達に意識して笑顔を向けて「こんにちは」と優しく声を掛けると、緊張していた彼等はホッと息を吐き出して返事をくれた。
「ねえねえ、王女さま」
「エルアンナよ」
「エルアンナ様?」
真っ黒な瞳は無垢で、子供達はそれぞれ異なる瞳と髪の色を持っていた。
それが珍しく、そして、綺麗で。
私は意識せずとも笑顔で居られた。
名前は私のものでは無い。
この声も、姿だって。
ならば私はわたしになりきれば良い。
「そう、エルアンナ」
「エルアンナ様!すごく綺麗な人〜、私もこんな風になれるかなぁ」
「無理だよ、ラミスはそばかすばかりだし、エルアンナ様みたいな綺麗な金色の髪じゃないもん」
「そうそう、すぐ泣くし!」
「……やっぱりだめかぁ」
しょんぼりと肩を落としてしまった女の子の三つ編みを撫でながら「大丈夫だよ」と私は声を掛けた。
「私の髪は私だけの色、貴女の髪は貴女だけの色。
ここに居るみんな、瞳の色も髪の色も違うじゃない?
それは素晴らしい事じゃないかと私は思うのだけれど、貴方はそうじゃないの?」
女の子の髪を優しく撫でながら、男の子の方へと視線を向けると「うっ」と顔を赤くして固まってしまう。
「ハンスはラミスの事が気になってるから、からかってるだけだよ」
「ちがっ、ばーか!ばーか!」
背の高い男の子に指摘され、ハンスと呼ばれた男の子は走って逃げて行ってしまった。
「好きな子ほどいじめたいと言う事?」
「うん、でも僕も大丈夫だと思うな。
ラミスはきっと素敵なお姉さんになると思うよ」
「……うん」
頬を染めた女の子を見ながら「これが三角関係なのね」と私は心の中で呟いた。
後ろを振り返ると穏やかな表情のフォルテが居て、こちらの視線に気付いたのかこほんと咳払いをする。
「エルアンナ様、お食事のご用意が出来たようです」
「ええー、エルアンナ様もう行っちゃうの?」
「そうみたい。残念だけどまたね」
よしよしとラミスと背の高い男の子の頭を撫でる。
まだ居たいのは本心だけれど、この身体は公爵殿下の娘らしい。
やはりこう言う交流は少ないのかなと疑問に思いながら子供達に手を振って、私はフォルテに呼ばれるがまま歩き出す。