私じゃない人
「…………」
きょろきょろと辺りを見渡す。
辺り一体雑草だらけの森?林??
なんだこれ、寝ぼけていたかと首を傾げる。
気付けば両手両足に、ジャラジャラと鎖が付けられているし、服装もなんだか黒い布の様な物を被っているだけだ。
理解が追い付かない。
どれくらいそうしていたのか。
気温はそれほど寒くないし、日は高いまま。
ダメだ頭が働かないと首を振っていると「居たぞ!あそこだ!!」と声が聞こえて来て驚きで肩を躍らせる。
男の人の声だった。
家の近所の人……と言う理想を頭の中で浮かべたけれど、瞬時にそんなわけないと理解した。
ここはどこだ、私はどうしてこんなところに。
誰かが来る、男の人。
そのワードだけで恐怖に身を竦めた。
「いらっしゃったぞ、こっちだ!」
「ヒッ」
ぞろぞろと甲冑を着た男達が現れて、私は緊張した自身の身体を抱こうとしたけれど鎖が邪魔して思う様に身体が動かない。
繋がれていたんだと思い出して、足で男達を蹴る仕草をしながら「来ないで!」と叫ぶ事でようやく事態が飲み込めた。
「来ないで!!」
「ご安心下さいエルアンナ様、我々は公爵殿下のご指示により貴女を探していました。
すでに首謀者も捉えておりますので、安全ですよ」
「公爵、殿下?首謀者……?」
そんなの知らない、私は首を振って甲冑を着た男達を睨み付けた。
「変な格好をして……私が馬鹿だからなんとか出来ると思ったら大間違いなんだから!
警察に連絡を……」
連絡を、と思ったのに。
そこでまた冷静になった頭で、無いんだと思い出す。
無いってどう言う事だっけと、また思考がまとまらなくなった頃「錯乱していらっしゃるのだろう、フォルテ、頼む」と先頭の男が声を発するとそれに応じて一人の剣士が出て来て短く頷いた。
そして私の前までやって来ると「初めまして、フォルテ・アグノームと申します」と恭しく礼をとる。
「貴女様もお疲れでしょうし、ひとまず我々と共に屋敷へ。
もう貴女を拐った不届き者達も私達で確保しましたし、安心なさってください」
「……」
どう言う事だと、聞きたい。
けれど聞いても恐らく分からない。
だって言葉は分かるのに先程から私とは別の人間の話しをしているようで、別の意味で恐怖を感じるから。
「……そう言う、ことか」
「はい?」
意識する前に願った事。
逃げたい、抜け出したい、そう願った事が神様にでも叶えられているのかもしれない。
でももしかしたら、そう、もしかして……良い事、かもしれない。
私では無い私に、なれるのならば。
ずっとずっと押し付けて来た事も我慢しなくて良いのかもしれない。
だって私はわたしじゃない、この身体も、私のもので無いのならばもう、私は脱ぎ捨ててしまえば良いのかも。
こっそりと卑怯にも心の中で呟いた言葉に、私は私自身に呆れた。
そうか、私は所詮この程度の人間なのだと。