第一報
高等部の見回りが終わって事務所に戻った。木造の薄暗い事務所には他の職員が数名いるだけで、まだ叔母さんは帰っていない。こんなに遅い時間まで帰らないのは珍しい。
ふと外を覗くと雪が降っている。暖色の明かりが反射してとても綺麗だ。よく目を凝らすとうっすら影が揺れている。叔母さんだ。しばらくして、事務所に入ってきた叔母さんはかなり疲れているようだった。
「叔母さん。お帰りなさい」
数名の職員が叔母さんに声をかける。返事はない。叔母さんは無言のまま、皆と少し離れた椅子に座った。返事がないのはあまりに珍しい。その違和感は他の職員も感じているようで、とても話を始められるような空気ではなくなった。
少しすると叔母さんは深妙な声で私たちに話しかけてきた。
「私たちの働いている場所。ここがどんな場所かわかるかしらね?」
急な発言に全員がびっくりとしている。
「Neither human nor Magicerから文字をとって、ノーム、太陽教じゃ当たり前にこう差別して呼ぶわね。ただし、一部の積極的なレイシストの間ではこう呼ばれている。Entitates non humanae、つまり"人外(エノー)"よ。」
人外、それはおそらく。この孤児院にいるすべての子供たちが一度は投げかけられたことのある言葉。
彼らにだって、親がいて、兄弟がいるのに、魔力が弱いという点で捨てられた子供たち。私もここの職員たちも、その言葉が大嫌いだった。
「彼らがなぜそうやって差別されるのか。それは簡単よ。魔術を知っているのに、使えないから。単にそれだけなのよ。それなのに、魔術は高潔であるという理由で、社会の隅に追いやられる。」
「たしかに、危険なのはわかるわ。魔術干渉が起こってしまえば、この世界は崩壊してしまう。その危険因子を積もうとするのは合理的かもしれない。」
魔術干渉──それはつまり、魔術の存在が非魔術使である人間の世界へ知られてしまうことを意味する。この言葉の重さを、私は痛いほど理解している。いや、魔術使いである以上、その重大さを知らない者などいないだろう。幼い頃から魔術学校で学び、魔術の歴史を叩き込まれてきた者なら誰もが知っている話だ。魔術干渉に関する講義が、独立した科目としてカリキュラムに組み込まれているほど、それほどまでに、それは魔術の世界において重要視され危険視されている。
そして、その学びから得られる結論は、我々魔術使は絶対に非魔術使の世界に干渉してはならないということだ。言い換えれば彼らが魔術を知ることは私たちにとっての『冒涜』であるということだ。
おそらく、太陽教のほとんどの人たちがこの主張を信じてやまない。
叔母さんは続ける。
「けれど、彼らは魔術使の別なく人間なのよ。摘もうとすれば反発が起きる。だから私たちは、彼らを守る必要がある。彼らを自立させ、自らの行動でその地位を上げられるように。そのためには、月影教に従ったって構わないわ。」
そう言って、叔母さん立ち上がると、
「今日の会議はまぁそんなところよ。」
と言って、自室へと戻っていった。
V.E.: <名>ダリアの一国魔術結社。<英>Valiant Existence
一国魔術結社: <名>各国の教会が決めて、国を代表する能力を保証された魔術結社のこと。
一国魔術使: <名>各国の教会が決めて、国を代表する能力を保証された魔術使のこと。
ユランゲルの孤児:<名>マーラニアの首都ユランゲルで生活しているストリートチルドレンのこと。Orphans of Julangel