小さな日常
夕食を終えた子供たちはみな宿舎へ戻っていった。私は孤児院の中でも言う事を聞かないやんちゃ坊主で有名なアッジェと二人で装飾品の入ったダンボールを倉庫へ片づけに行っていた。新年も新年、昨年までの事務作業を昨日までしていたのにも関わらず、その次の日に、さらに叔母さんがいない中の、パーティーで、私は少し疲れていた。すでに装飾品は上回生により片付けられ、廊下のあちこちに置かれている。置いてあるダンボールをアッジェと一緒に抱えると、アッジェが「なんたって、こんなことをしなくちゃならないんだ。」と言わんばかりの顔で、こちらを見て来た。
「あのね、アッジェ。別にそんな顔するくらいなら帰ってもいいのよ」
アッジェの顔は変わらない。
「なんで、ねぇーちゃんよりおもてぇー荷物運ばなきゃいけないんだよぉ」
アッジェは大きなダンボールを一つとその上にもう一つ小さなダンボールを抱えている。仕方ないと思いながら、持っていた段ボールを片手に持ち、空いた手で上に積んであった荷物を持ってやった。アッジェの顔があからさまに笑顔になる。アッジェは確かには10歳の『子供』だが、孤児院の中では大きい方。しっかり力になってもらわないと、ただでさえ人手不足のここでは困ってしまう。
「あんたも、男でしょ。少しは女の子に楽させてやりたいとか思わないの?」
「ねぇーちゃんだって、あいつに魔術かけて貰ってんだろ。」
彼の指が私を指差す。いや片手で運べるのかよと心の中でツッコミを入れながら、直前に出会ったリンシアに念動力でかけてもらったダンボールを見る。
「へぇー?。いつから分かってたのかしら?」
わざとらしく訝しむ。
「ふん。ねぇーちゃんだけズルい。そういえばこの前、リンシアが庭にタイムカプセルとか言って空き箱を埋めてたぞ!」
「ふーん。まぁそれくらいはいいわよ。誰だって、将来の自分を夢見ることだってあるじゃない」
「なんだよそれ。ぜんぜんおこんねぇーじゃん」
こいつ、リンシアを怒らせるためにわざとバラしたな。
すると急に後ろから声がした。
「なぁーに、アッジェ。あんた、私をはめようとしてるのかしら?」
腰に手をあて、勝気な少女といった感じで佇む姿、リンシアだ。
全て知っていたかのようなグッドタイミング。アッジェは露骨に顔をしかめた。
「リンシア、いたなら言えよ。人の会話を盗み聞きするなんて、悪い奴のすることだぞ」
「そんな声で話してたら、聞きたくなくても入ってくるわ」
アッジェは自分の顔に手を当てると、わかりやすくガッカリしていた。二人ともなんだか、まだまだ無邪気な子供という感じだ。というか実際に子供だけれど。
けれども、どことなく彼らの会話の中には、これ以上超えるとダメな線引きがあるような気がしていた。どことなく大人っぽさというか、子供なりに気を使っている、手加減が分かっているかのようなそんな会話だ。本当にそうだとしたらかなり大人びていると思うが、しかし、それは彼らに限った話ではなく、ここの孤児院の子供たちはみんな実年齢より大人っぽいと感じる。
「リンシア、心配しないで。怒ったりしないから。それにアッジェ、あなたは告げ口が下手ねー。するなら、もっと周到にしないと」
笑いながらアッジェに言うと、リンシアは、顔を膨らませた様子で、知らないわと言って行ってしまった。それを見てアッジェは運ぶのを手伝わないのかと怒っている。荷物の重さが変わらないのを見る限り、リンシアも本気で怒ってはいないらしい。
そういえば、タイムカプセルの話、リンシアはどんなことを紙に書いたのだろうか。彼女の夢はどんなものなんだろうか。いいや、彼女だけじゃない、この施設の子供たちはどんな夢を持っているのだろうか。考えていると少し心配になってきた。
この施設はダリアでも珍しくとても機能のそろった孤児院とは呼べないくらい豪華な場所だ。どれもこれも、エーテル叔母さんのおかげであるが。それでも、いつかは彼らも施設を抜ける日が来る。
アッジェ: 14才少年。
リンシア: 14才の少女。