KYOTO 8/11 1968
「とにかく歩こう。道は先まであるから。」
泣き出した彼女を前に進ませようと私はそう冬月につぶやいて彼女を支え歩き出した。
しかし、そう長く体力が続くわけがなかった。座り込んだ場所から数メートルしか離れていなかったであろう。また座り込んで抱き合いながら私たちはただその場所で体力がなくなって行くのを感じるだけだった。
もう何時間もたっただろう。いつの間にか寝ていたようだ。あたりは真っ暗。しかしなんだか体が温かい。寝ている間に魔力を回復したのだろう。周りは少しの月明りを残して闇の中。目を開けた瞬間が闇なのは、やはり恐怖だった。昨日まで歩いていた道は完全にわからなくなっていた。右を見ても左を見ても闇。夜はいつも通り私たちを絶望のどん底に陥らせた。もう無理だと思った。私は寝ている冬月を抱いて泣きわめいた。
その声に反応したからか、冬月は起きた。
「赤月ちゃん。大丈夫?」
私は冬月を見た。しかし、泣くのはやめられなかった。次第に冬月も泣き始めてしまった。二人で泣きじゃくった。時折ぎゅっと抱きしめあいながら。どうにもならない、ここが最後なのかもしれないと怯えながら泣きながら、震える私の小さな手で震える彼女の小さな体をただずっとぎゅっとしていた。すると、周りで大きな光とともに爆発音がした。
「あれはなに?」
そうつぶやくが冬月は震えたままで応答はない。音は次第に止んだが、炎はそのまま空間に浮いて燃え続けている。
「赤月ちゃん、暖かい?」
「あれは冬月の魔術なの?」
「えへへ」
そう笑いながら冬月はうなずく。そこには光ができたのだ。周りを明るく照らしてくれる光だ。その光に包まれて私たちは明るく笑う。ふわっと気力が出てきたようだった。このままなら歩ける。そう思って私たちは車の後を目印に歩き出した。
「赤月ちゃん。寒くない?」
「うん、大丈夫。私の魔術はまだ使えるみたい」
「えへへ。私もとってもあったかい」
「よかった」
「ここまでいろいろなことがあったね」
「うん。冬月がいなかったらずっと泣いてた。」
「私も。赤月ちゃんがいてくれて本当によかった」
そういって彼女は笑う。すると私も笑う。
気持ちが楽になる。そうやって、ゆっくりとしゃべりながら歩いていたその時だった。
私の繋いでいた手から冬月の手の感触が離れた。
「冬月?」
私は愕然とした。周りを見渡しても、冬月はいない。とっさに下を見る。冬月の歩いていた右隣はちょうどその部分だけ、真っ暗で何もなくなっていた。
「冬月!!」
私は叫んだ。すると、暗闇の中から冬月の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。私は土に手をついて、声のする方をのぞいた。冬月の炎のおかげでギリギリ下が見えるが薄暗い。
「赤月ちゃん。助けて!」
斜面の下で小さく冬月が泣いているのが見えた。
「冬月、大丈夫!?」
「赤月ちゃん。どこにいるの?」
こちらを見ながら泣いているのが分かるが、どうやってあの場所まで行けばいいのだろう。考えても私にできることはこの場所からただ冬月のところへずり落ちることだけだった。冬月の居るところへゆっくり、土に体を押し付けながら斜面を降りた。体に巻いている布が皮膚にめり込んでとても痛かったが、無事に下まで降りれた。
「冬月、大丈夫?」
「赤月ちゃん。私、はぐれちゃったと思った」
「ここにいるよ」
そういってギュッと抱きしめる。
「冬月、もしまた私とはぐれてちゃったら、さっきみたいに思いっきり泣いて叫んでほしい。そうしたら、私が必ず見つけ出してあげるから」
泣きながらわかったと言って冬月は頷くと、絶対だよ?と言って小指を差し出した。私はその指に自分の小指を絡めて指切りをした。もう二度と君を離さない、そう誓いながら。
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最近、過去の夢を見る回数が多くなっている気がする。いや、正確に言えば夢ではなく記憶なのだが。夢を見たときには必ず中途半端なところで起きてしまう。思い出したくないわけじゃないが眠りの邪魔をされていると時々気分が悪くなる。しかし、悪い記憶じゃないはずなのにやっぱりちょっと怖いと思うのはなぜだろうか。
時計は見ていないが今はまだ深夜だろう。眠気に抗う必要はない。夢のことを忘れるように、ゆっくりと目を閉じた。




