事態は急速に
会議のあった翌々日、つまりは10日。朝のテレビのニュースでマーラニアの映像とたくさんの写真が流れていた。
羽を身に着け空を飛ぶ人間、内部から爆発し崩れるビル。前に見た写真の光景。
だけじゃなかった。
そこには、それ以上の規模で崩壊した街並みが写っていた。治安維持部隊と思われる戦闘車両が民衆にむかって発砲しているが、相手は魔術使には見えない。それもそのはず、ニュースのテロップには反政府組織との戦闘が発生と書かれている。魔術なんて言葉は一切なく、騒動の中心がまるで魔術を知らない人間のようだった。
映像が切り替わり、東京の街でのインタビューになった。
街行く人々は、その国のトップの頭がおかしくなったとか、政府側が作った珍奇なプロパガンダだとか様々に憶測していた。テロップもまるで「アニメの世界」と、全く取り合ってはいなかった。
でもそれは嘘ではない。それはまるで現実の世界と小説の世界が融合したような光景だった。けれども、私は魔術使である。常に隠し続けることができてきた側の人間である。フィクションの世界が人間の世界へ来たようで、僕はそのフィクションの側である。だからこそ、私にとってはそのあまりに当たり前からかけ離れた異常に、ずっと困惑していた。
正午前、自宅の電話が鳴った。鳥肌が立つのを感じながら、決心して受話器を取ると相手は会長だった。会長はえらく焦っており、半ば強引に、ダリアへ行く準備をするように言ってきた。もう少し考えがまとまったらと思っていたが、逆らえなかった。必要なものや日程について口頭で言ってきたためメモ帳に走り書きをして、「わかりました」と言って電話を切った。
簡単な電話だったが、その電話で私はダリアへ行くことを決められた。
断ることはできなかった。親との話がまだ済んでいないと答えたが、その答えは、もうすぐ来る連絡でわかると言われた。もしかしらた、すでに連絡済みだったのかもしれない。
夕暮れ、大きめのカバン二つの中へ着るものを入れていた時に電話が鳴った。それは父からの電話だった。久しぶりに聞く声だったが、その内容は会長から連絡があって親の私たちも行くことを許可したとのことだった。あまりにあっさりと許可された。たぶん親だって会長から直々の電話でもあったら断ることはできないだろう。そう勘ぐった。
その日も学校があったが、特に話題にはなっていなかった。そもそも下宿先の寮に巨大なテレビを持ち込んでいるのは私くらいだ。今朝の朝刊には、小さな見出しとともに、怪現象と伝えられていた。
というか、そもそも魔術干渉なんて実際に起こったのだろうか?
そう巷では聞こえてくるように、誰も信じていない様子だった。
今朝の会長の焦り方、事態がここまで急速に進んでいるのを見ると、あの映像が本物だとしてもおかしくはない。けれども...
ひとまずため息をして。今後の行く末を頭で想像するが。そんなことは全く想像できる範囲を超えていた。
メモを見返しながら、会長が電話中にダリアへ行く際に付き添って欲しい一人の少女がいると言っていたこと思い出した。私と同じ境遇もいるのかと少し肩の荷が下りた。子供は僕だけじゃない。けれども、連れて行くのはなぜだろうか。
マーラニアは黒海に浮かぶ島国だ。とても不安定で貧しい国、そんな小国で起きた出来事くらいはすぐにでも鎮静されるだろうに。
とはいえ、ダリアに一人なんて意味が分からない。理由が知りたいが、今は誰にも聞ける相手がいない。不安に思い、持っていた地図帳をあけマーラニアとダリアに赤く丸を付けた。それと同時に、机にたくさん張り付けてあるシールの中のボーイング747を見る。もしかしたらこの機体に乗れるのだろうか。日本からダリアへの直行便は無い。おそらくパリかアムステルダムで乗り換えることになるだろう。さらに経由地はアンカレッジで、これは北回り線と呼ばれていて...、なんてことを考えていると、いつの間にか不安は消えていた。




