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宇宙最速魔女は接触人(コンタクター)  作者: ディープタイピング
第2話 パートナーとの出会い
9/50

#9 パートナー

「……つまり、我々は同盟を受け入れる代わりに、地上における全ての戦闘を停止せよ、と、そう言うのだな?」

「その通りです、閣下。」

「しかし、信じられないな……1万隻の駆逐艦とは……」

「いずれあなた方にとっても、あの船はごく当たり前の存在となりますよ。ですが、その1万隻の駆逐艦を維持するためには100万人の乗員と、60万人の後方支援要員、そしてその数倍の民間のバックアップが必要となります。それがどれほど大変なことか、兵を預かる閣下ならおわかりのはずです。」

「うむ……」

「とても一国では維持できるものではありませんわ。ですから、同じ星で戦争などしている場合ではないのですよ。」


アイリーンの説明したこの宇宙の話を、まだ十分に飲み込めたとは言い難いベルナルド准将であったが、アイリーンの説明と、彼らのとった行動との一貫性を見出すことができた彼は、ひとまずは安心する。


「それにしても、信じられないことだが、滑走路が不要な飛行機が存在するとはな……いや、宇宙の人々は皆、アイリーン殿のように自在に飛ぶことができるのか?」

「いいえ、この能力は私の故郷である地球(アース)760に住む、ごく一部の女性のみ。残念ながらこの宇宙でも、人間だけを飛ばす技術はまだ確立できておりません。」

「そうか、それで『魔女』と。」

「私の星では、私のように空を舞う魔女は『一等魔女』と呼ばれております、閣下。」

「だがそれにしても、あなたは我々とほとんど変わらない。言葉すら同じだ。申し訳ないが、本当に宇宙人なのか?」

「この宇宙最大の謎の一つなのですよ、閣下。私の星も25年前に、同じように宇宙から来た人々を受け入れた歴史があります。それに……」

「それに?」

「私は、地球(アース)760出身の魔女を母とし、地球(アース)401出身の父を持つ、星間結婚の夫婦の子供でもあるのですよ。そんなことが可能なほど、宇宙に住む人類はどの星でも同じなのですよ。」


それを聞いて、兵士の一部がざわつく。彼らにとっての宇宙人とは、自分達とは別質の何かと思っていた節がある。しかし、今ここでベルナルド准将と話すアイリーンは、魔女であることを除けば、同じ人間だと言うのだ。彼らの世界観が、大きく変わる。


「だが、とてもじゃないが今の話、にわかには受け入れがたいな。」

「そうですか?」

「それはそうだろう。宇宙からやってきた人物が、我々と変わらない人間、しかもとてつもない軍事力を持ちながら、我々に対等外交を申し入れている。そのまま中央政府に報告しても、とても信じてもらえないだろうな。」

「でしょうね。ですが、我々の持つあの航空機と駆逐艦を見れば、政府の方々といえど、信じざるを得ないでしょう。」

「……まさか、あの巨大戦艦で首都に乗り込むと言うのか?」

「ええ、いずれは。ですがまず、その事前準備が必要です。そのまま乗り込めば、大都市ほど大きな混乱を招きかねません。我々も、あなた方を脅すことが目的ではありませんから。」

「分かった。できるだけのことはやってみよう。」


ベルナルド准将はアイリーンに応える。そして、横に座るエルヴェルトを見る。


「……で、エルヴェルト中尉、貴官のことだが……」

「はい、閣下。」

「貴官は我々の最新鋭の戦闘機を奪い、逃亡した。しかもその戦闘機は墜落、炎上したと聞いている。国家に与えた損害の大きさ、そして軍規に照らせば、これは重罪である。どう考えても、軍法会議で死罪は免れまい。」

「その通りでございます、閣下。」


エルヴェルトが応えると、ベルナルド准将は突然、拳銃を取り出し、そして銃口をエルヴェルトに向けた。


「ちょ、ちょっと……」


制止しようとするアイリーン。だが、ベルナルド准将は、躊躇いもなく引き金を引いた。

バンッという乾いた銃声が響く。一瞬、この部屋の空気が凍る。


「……現時刻をもって、大罪人エルヴェルト中尉は死んだ。それで良いな、エルヴェルト殿。」

「……は、はい、閣下。」


銃弾は、エルヴェルトのすぐ右脇を逸れた。いや、敢えて外したというところだろう。壁には、銃弾が当たった穴が空いている。


「というわけで、彼はすでにこの世にいないことになった。アイリーン殿、申し訳ないが、このまま彼を引き取ってはもらえぬか?」

「は?」

「この司令部に入る直前のやりとりを見る限り、あなたとの相性も良さそうだ。悪くない話だと思うのだが。」

「はぁ~!?」


突然、准将からこの男を押し付けられたアイリーン。彼女は席を立ち、反論する。


「かかか閣下!私は接触人(コンタクター)であり、あくまでもあなた方の星と地球(アース)411との間を取りもっているだけの者で、今回の事前交渉が終わったら、別の星に行かねばならないのですよ!」

「こやつは飛行機を飛ばすことができる。おまけに、剣術もたしなんでいる。わりと裕福な騎士家に育ったおかげで、それなりの学校にも通い知識も判断力も十分備わってる。付添人としては、悪くないと思うが。」

「いや、こう言ってはなんですが、ここから逃亡しちゃったやつですよ!?そんなやつを、どう信用せよと!?」

「逃げられないよう、良い仕事を与えれば良いのではないか?アイリーン殿。」


妙に明るくアイリーンに微笑みかけ、まるで他人事で話すベルナルド准将。そんな准将に、真っ赤な顔でいきり立つアイリーン。


「というわけで、よろしく頼むよ、アイリーン。」

「ば、バカ!誰があんたを受け入れるなんて言ったのよ!」

「いや、閣下もこうおっしゃってるわけだし。」

「私はまだ何も言ってないわよ!だいたいねぇ!あんた、家族の顔は見たくないわけ!?」

「そりゃあ見たいけど、ここを飛び出した時にもう覚悟は決めてたし。」

「だけど、もうちょっとくらい抵抗しなさいよ!この大罪人!」

「ところで接触人(コンタクター)殿、僕はこの先、何をすればいいですか?」

「知らないわ!こっちが聞きたいわよ!」


さっきの銃声よりも騒がしくなったこの部屋の中で、事実上、エルヴェルトのアイリーンへの「引き渡し」が決定した。


そして、その1週間後。


アイリーンはピエモネーデ王国と、隣国のフランデ共和国との政府高官と接触し、停戦合意と同盟締結への事前交渉を行う。そしてその後のことを、地球(アース)411の交渉官へと引き継いだ。

そして、この地球(アース)875と命名されたばかりのこの星を離れる。新たなパートナーを連れて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲良く喧嘩して相性いいじゃないか。…リア充め、ブラックホールに吸い込まれちまえ(涙) エル「奥様は魔女」 アイリーン「誰が奥さまかー!」 准将「やっぱり仲いいじゃないか( ´∀`)」
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