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宇宙最速魔女は接触人(コンタクター)  作者: ディープタイピング
第2話 パートナーとの出会い
8/50

#8 阻止

ここは駆逐艦内の、食堂のあるテーブル。白いパンに、一杯の紅茶。その紅茶を手に取り、静かに飲む一人の女性。


「……はぁ、美味しいわね、この紅茶。」

「そうだね、アイリーン。」

「それにこのマフィン、フワッとしてほんのり上品な甘さが、またこの紅茶と合うわね。」

「そうなんだ。でも、僕の故郷にあるスフォッリャテッラ、あれもなかなか美味しいよ。」

「……あのね、私はあんたに話しちゃいないわよ。少しはおだまりなさいよ、この逃亡騎士!」

「あはははっ、手厳しいなアイリーン。でもその怒った顔も、なかなかいいよ。」


たった一晩で馴れ馴れしさがより一層エスカレートしたエルヴェルトに、不機嫌そうに応じるアイリーン。そのエルヴェルトはといえば、この艦内のあらゆるものが珍しくて仕方がないようだ。


「ねえ、この食堂の隣の部屋で見かけた、あの腕だけの化け物は一体、なんなの?」

「あれは、洗濯用ロボットよ。自動洗濯機で洗い終わった服やタオルを、せっせと畳んでくれるの。」

「へぇーっ、機械が畳んでくれるんだ!さすがは星の国からやってきた船だねぇ!」

「そうよね、どこかの逃亡兵よりはずーっと役に立つわよ。そんなことよりもさ、どうしてくれるのよ!あんたのせいで怪我しちゃって、結局1日、棒に振ったじゃない!」

「大丈夫だよ、1日くらいどうってことないよ。」

「大丈夫じゃないわよ!まったく、私をだれだと思ってるのよ!」


エルヴェルトの相手は、どうも調子が狂う。アイリーンはマフィンをガツガツかじりながら、この馴れ馴れしい騎士に文句を浴びせ続ける。

で、お茶の時間が終わり、アイリーンは立ち上がる。


「ねえ、アイリーン。どこに行くの?」

「決まってるじゃない、格納庫よ!」

「あのさ、まさかこれから、外に出るつもりじゃあ……」

「そうよ!どっかの逃亡兵のおかげで、昨日一日、ぱぁになっちゃったからね!すぐにでも取り戻さなきゃ!」

「いやだけど、まだ怪我が治ってないじゃないか。」

「こんなのかすり傷よ!ツバつけときゃ治るわ!」


プリプリしながら軽食を終えたアイリーンは、格納庫に向かう。昨日の分の遅れを取り戻そうと、意気揚々と向かう。

が、その格納庫内がいつになく騒がしい。


「燃料注入、急げ!ビーム砲も最終点検!」

「了解!」

「相手は実弾兵器を持っているぞ!下面にシールド板を増設!急げ!」


このバタバタした雰囲気に、アイリーンはパイロットのヤーコブ中尉に尋ねる。


「中尉、何かあったの?」

「あ、接触人(コンタクター)殿。すいません、今日は緊急事態発生のため、これから出撃するんです。」

「何よ、緊急事態って?」

「あの空港から航空機多数発進したので、その哨戒行動に出るんですよ。」

「はあ!?また誰か、逃亡でもしたの!?」


すぐ後ろにいるエルヴェルトをチラッと見ながら、アイリーンは叫ぶ。


「い、いえ、そういうのではなさそうです。全部で40機の編隊が、海上方面に向かって飛んでいるんです。」

「そうなの。でも、それのどこが緊急事態なのよ?」

「その中に、大型機が25機もいるんです。それで、これは軍事行動じゃないかってことで、出動命令が下ったんです。」


それを聞いたエルヴェルトは、ヤーコブ中尉に詰め寄る。


「ちょっと!その編隊って、どっちに向かっている!?」

「えっ!?あ、ええと、この地図でいうと……」


ヤーコブ中尉は、手に持ったタブレット端末を使い、その編隊の飛行進路を示す。


「なんてこった……やっぱり、あの計画を……」

「ちょっとあんた!もしかして、この集団飛行の目的を知ってるの!?」

「……ヴィレフェランス……」

「は?」

「海を渡った先にある、隣国のフランデ共和国の港町、ヴィレフェランスに向かっている、と思う……」

「向かってるって、どういうことよ?」

「そこは、戦艦3隻を含むフランデ共和国海軍の主力艦艇が停泊する軍港なんだ。その艦隊を、新型機で真上から襲いかかるという計画があって、それがついに実行に移されたんだと思う。」

「何よそれ!まるで戦争じゃない!」

「いや、戦争だよ。今、我がドゥクス王国とフランデ共和国とは戦争中なんだ。我が王国海軍は、フランデ共和国の海軍にはほとほと手を焼いていたから、それをあの新型機、エンブロシーニ4001で空から叩こうとしてるんだ!」

「新型機って、あんたが言ってたあの大型の爆撃機のこと?」

「そうだよ、1機で800グラーヌの爆弾を搭載できる、3人乗りの四発機。あの一機で、小さな村なら全滅できるくらいの爆撃力だ。そんなものが25機も現れたら……あの港一帯が、火の海になる!」

「な、なによそれ!すぐに止めなきゃ!」


急いで哨戒機に乗り込もうとするアイリーン。それを、ヤーコブ中尉が制止する。


「いや、接触人(コンタクター)殿!ここから先は、我々、軍人の領分です!接触人(コンタクター)殿はこの艦で待機してて下さい!」

「何言ってんのよ!あのプロペラ機の中に哨戒機が飛び込んで行ったら、見たことのない航空機の出現であちらが混乱するでしょうが!その後始末は一体、誰がやると思ってんのよ!?それこそ、交渉権限のある私の出番でしょうが!」


などと言い張って、強引に乗り込んだアイリーン。そのアイリーンに続き、エルヴェルトが続けて乗り込む。


「ちょっと!逃亡兵!なんであんたがついてくるのよ!」

「何言ってんの!アイリーンがいくのに、僕がいかないわけにはいかないだろう!」

「はあ!?あんたなんかついてきたって、ただの足手まといよ!」

「だけど、あの飛行機のことを知ってるのは、僕だけだろう!?」

「そんな知識、別に要らないわよ!」

「そんなの行ってみないと分からないだろう!いいから、僕も乗せて!」


で、結局エルヴェルトも乗り込む。格納庫内の整備員は全員緊急退避し、哨戒機の発進準備が整う。


「1番機より艦橋!発進許可を!」

「艦橋より1番機!発進許可了承!直ちに出撃せよ!」


いつもの発進とは、ちょっと違う。減圧もそこそこに、強引にハッチが開けられる。そして、ロボットアームが哨戒機を突き出すと、すぐさま切り離す。

空中に放り投げられた哨戒機を巧みに操り、プロペラ機の編隊へと機種を向けるヤーコブ中尉。速力は、哨戒機の大気圏内での最高速度である時速1000キロに届いていた。


「速力1000、大編隊まで40キロ!あと2分で接触!」


すでに海上に出ている40機を、猛スピードで追う哨戒機。アイリーンがヤーコブ中尉に尋ねる。


「ねえ、もう一機の哨戒機は、どうしたの!?」

「ああ、重力子エンジンのトラブルで、発進できないそうです!」

「ええーっ!?じゃあこの一機だけで、あの大編隊を止めろっていうの!?無茶でしょう!」

「承知してますが、この空域に我々しかいない以上、どうにかするしかありません!」


駆逐艦2970号艦には、2機の哨戒機が搭載されている。が、軍事阻止行動に出ているのは、この哨戒機一機のみ。


「他の駆逐艦は、近くにいないの!?」

「現在、近隣の駆逐艦が数隻向かっているとのことですが、あと20分はかかるとのことです!」

「ああ、まったくもう!何やってんのよ!」


アイリーンが怒ったところで仕方がない。彼らは様々な空域に展開し、そこで情報収集にあたっていた。これほど緊急を要する事態が起こるなどとは、想定外だ。


「まもなく、大編隊に到達します!」


ヤーコブ中尉が叫ぶ。その直後、窓の外に無数の複葉機が見えてきた。その真横を、猛烈な速度で通り過ぎる哨戒機。


「うわっ!は、速い!」


一瞬で通り過ぎる複葉機の群れを見て、エルヴェルトは叫ぶ。そのまま哨戒機は大きく旋回し、追い越した複葉機の群れに機種を向ける。

驚いたのは、その40機の乗員達だ。突然、猛烈な速さで飛び去る謎の飛行物体が現れた。しかもそいつは、再びこっちに向かって飛んでくる。大型機からは、この謎の飛行物体に向けて機銃を撃ち始める。

だが、当たらない。そもそも速度差が大きすぎる。大型機は時速100キロ程度、複葉機でも160キロ。一方の哨戒機の最大速度は1000キロ。

しかも、空中停止も可能な航空機、慣性制御のおかげで、中の乗員に構わず急減速に急旋回が可能。全長20メートルほどの機体で、護衛の複葉戦闘機を翻弄する。

が、それで撤退する気配はない。まっすぐこの先の港町、ヴィレフェランスに向かって進撃を続ける。


「くそっ!数が多過ぎる!威嚇射撃に移行します!」

「待って!こんな航空機相手にビーム砲なんて撃ったら、乱気流に飲まれて甚大な被害を与えかねないわよ!」

「しかし接触人(コンタクター)殿、どうすればいいんですか!?」

「私が出るわ!」

「は?」


アイリーンのこの大胆な提案に、ヤーコブ中尉は反対する。


「いや、ダメですって!相手は機銃を持ってるんですよ!?しかも、40機相手に、どうするつもりですか!?」

「エルヴェルト!あんた、あの中の隊長機がどれか、分かる!?」

「へ?あ、ああ、隊長機は……あれだ!胴体に青と白色の帯が描かれた大型機、あの模様が隊長機の(あかし)だ。」

「分かった、あのど真ん中にいるあの機体ね!」

「アイリーン!」

「何よ!?」

「隊長機にはおそらく、ベルナルド准将が搭乗している。我々飛行兵団の団長でもある方だ。」

「そう、分かったわ!じゃあ、そのベルナルドって人のところに、行ってくるわね!」


そう言い残すと、アイリーンはヤーコブ中尉に指示する。


「中尉!あの編隊の直上に行き、速力を200まで落として!」

「しかし、接触人(コンタクター)殿!」

「いいからやって!それから、こっちに向かってる駆逐艦に、すぐそばまで来るように言って!もしかしたら、何か指示を出すかもしれない!あとエルヴェルト、私が出たらすぐにハッチをしめてちょうだい!」


上空で大きく旋回し、40機の真上に到達する哨戒機。そこでアイリーンはハッチを開け、外に飛び出す。

空中で魔女スティックにまたがり、そのまま全速で降下するアイリーン。下から、曳航弾がビシビシ飛んでくる。が、その合間を縫って、青白帯の隊長機を目指す。

隊長機の真横に巧みに取り付き、そこで側面の扉を開ける。いきなりやってきたこの非常識な来客に、機内に緊張が走る。

一人の兵士が、アイリーンに銃を向ける。アイリーンは腰のスイッチに手をかけながら、中に向かって叫ぶ。


「ベルナルド准将は、いるかしら!?」


すると、その兵士のすぐ後ろに座る男が応える。


「わしがベルナルドだ!」


それを見て、アイリーンは扉を閉じる。


「あなたに、話があってきたの。」

「お前が、空を飛び我ら飛行兵団を惑わしたという『魔女』か!」

「そうよ、私の名はアイリーン。地球(アース)760出身の、宇宙最速の一等魔女よ!」

「アース……?宇宙……最速?」

「私達の目的は闘うことではないわ。あなた方を新たな時代にお誘いするために来たの。だから私の話、聞いてもらえないかしら?」

「いや、その必要はない。我々はまさにこれから、新たな時代の戦い方をするところだ!」


ちらっと窓の外を見ると、すでに港町が目の前まで来ていた。そこには数隻の軍船らしき船が見える。

機内では、兵士の一人が奥で何かを回している。その向こう側には、真っ黒な塊が多数。あれが街を焼き尽くすという量の爆弾か?どうやら、爆弾倉の扉を開いているようだ。


「ちょっと!まさか、爆撃するつもり!?そんなことしても無駄よ!」

「なんだと!?」

「その兵器はもうまもなく、不必要なものになるわ!」

「……どういうことだ!」

「その話しをするために、私はここまでやってきたの!直ちに爆撃を中止して、引き返してもらえないかしら!?」


けたたましいエンジン音が響き渡る中、緊張したやりとりが続く。だが、ベルナルド准将は決断する。


「いや、無駄などではない!魔女のお前にも見せてやろう、このエンブロシーニ4001の持つ破壊力を!」


ベルナルド准将は、手を振り始める。どうやら爆撃準備の合図だ。窓際で他の機に向けて、発光信号が放たれる。

それを見たアイリーンは爆撃不可避と察して、ヘッドセットのスイッチに手をかける。


「全艦、編隊の下に回り込んで!急いで!」


まさに40機は、3隻並んだ大きな船の真上に差し掛かろうとしていた。高度1000メートル、弾倉を開いた25機の大型複葉機は、まさにこの大型船を捉えようとしていた。

ベルナルド准将は、無言で手を上に挙げる。それを見た兵士の一人が、爆撃用照準器を覗き込む。どうやらこれが、爆撃開始の合図のようだ。そして、その兵士がレバーに手をかけた、その時だった。


「か、閣下!我が飛行兵団の真下に!」

「なんだ、どうした!?」

「は、灰色の奇妙な物体が……」


まさに爆撃進路に入ったこの40機の編隊の真下に、大きな物体が滑り込んでくる。現場にたどり着いたばかりの4隻の駆逐艦が、この爆撃隊の真下に入り込む。


「な、なんだあれは!?」


照準器を覗き込むベルナルド准将。その様子を見たアイリーンは、准将に言う。


「あれは駆逐艦よ。地球(アース)411の駆逐艦が、この真下を抑えているわ。これでもう、爆撃は無理ね。」

「何をいうか!あの空中戦艦に、こちらの爆弾をありったけぶつけるだけのこと!下の戦艦もろとも、軍艦を沈めてくれる!」

「……やめた方がいいのに……」


さっと手を振り下ろすベルナルド准将。窓際から発光信号が放たれ、同時に兵士がレバーを引く。ガタガタと音を立てながら、大量の黒い塊が落ちていく。他の機からも、次々に黒い爆弾が落ちていくのが見える。

そして、真下で大爆発が起こる。


奇妙な光景だった。空中で湧き上がる火炎と煙、そして爆風。その爆風は、この爆撃機をも揺らす。他の爆撃機も、順次爆弾を投下している。

一通り爆撃を終えて、火炎も煙も消える。その後に現れた光景を見て、機内の乗員らは愕然とする。

灰色の4隻の駆逐艦が、傷一つなく整然と空中に浮かんでいる。すでにヴィレフェランスの街の上空に差し掛かっているが、一発の爆弾も落ちてはいない。


「……どういうことだ、確かに25機全てが投下したはず……」

「だから言ったでしょう!無駄だって!」

「おのれ!」


怒り狂った准将が、アイリーンに拳銃を向ける。それを見てアイリーンは言った。


「爆弾すらもはじきかえす防御兵器を持っているというのに、私が丸腰でここにいると思うの?」

「な、なんだと!?」

「残念ながら、その拳銃を私に撃っても、無駄に終わるだけよ。そんなことよりも私の話、聞いてもらえるかしら?」


無言で銃を向けたまま、立ち尽くすベルナルド准将。アイリーンはヘッドセットで、真下の駆逐艦に指示を出す。


「駆逐艦全艦、前進し上昇!」


すると、アイリーンの声に合わせて、駆逐艦が前進する。そしてそのまま、40機の編隊の前に出る。

そして青白い4つの噴出口を持つ駆逐艦が4隻が、このたくさんの複葉機を囲む。


「全艦、左へゆっくり移動!この航空機隊を導いてあげてちょうだい!」


右側の駆逐艦が、この編隊に接近してくる。アイリーンは准将に言う。


「ほらほら、右に行かないと、あれにぶつかっちゃうわよ!」

「み、右に転進!急げ!」


大慌てで指示を出すベルナルド准将。40機が、駆逐艦に合わせて動き始める。


「おいっ!話を聞けというわりには、少し横暴ではないか!?」

「横暴!?どこが!?」

「あんな馬鹿でかい空中戦艦で囲み接近するとは、我々を落とすつもりか!」

「そんなことないわよ!これでも十分、配慮しているつもりよ!」

「なんだと!?」

「あの艦に搭載された高エネルギービーム砲なら、一隻でここにいる40機、いや、下に広がるヴィレフェランスの街もろとも、跡形もなく消し去ることができる威力を持ってるのよ!それを使わないだけでも、まだましでしょう!」


このアイリーンの一言に、機内乗員は再び黙り込む。バリバリとけたたましいエンジン音だけが、響き渡る。


「……お前、宇宙最速だと言ったな。」

「ええ、言ったわ。」

「ということはお前らは、宇宙から来たと言うのか?」

「そうよ。」

「ならば、我々をどうするつもりか!?その街ごと粉砕できる兵器とやらで我々を脅し、この地球を占領、支配するつもりなのか!?」

「そんなことしないわよ。我々の目的は、あなた方と同盟を結び、宇宙にある脅威に一緒に立ち向かいましょう、って言いにやってきたの。この宇宙にあふれる珍しい品の交易というおまけ付きでね。」

「同盟……だと!?」

「そのためには、この地球(アース)に住む人々がひとつにまとまってくれないと困るのよ。だから、殺し合いを阻止しにきたというわけ。お分かりかしら?」


アイリーンの話は、彼らにとって飛躍した話だ。今ひとつ飲み込めないが、あの大きな宇宙船を軽々と操る連中に立ち向かったところで、敵うはずもない。そう察した准将は、アイリーンに尋ねる。


「ところで、お前は一体、何者だ!?なんのためにここにきた!?」

「私は宇宙統一連合公認の接触人(コンタクター)、アイリーンよ。あなた方との同盟交渉を始めるために派遣された者よ!」


それを聞いたベルナルド准将は、拳銃を下ろした。


それからしばらくして、40機の編隊は空港にたどり着く。その手前で駆逐艦は離れ、40機は順次、空港へと着陸する。アイリーンと准将を乗せた大型機も滑走路に降り立ち、接地の瞬間、大きな機体がガクンと揺れる。

その横に、次々と複葉機が降り立つ。滑走路に降りては、脇の格納庫へと向かう多数の機体。

ベルナルド准将とアイリーンが、この空港に降りる。空港の端の大きな建屋から、ベルナルド准将を出迎えるために数人の兵士が現れた。


「閣下!無事のお帰り、お疲れ様です!……ところで、こちらの方は?」

「ああ、来客だ。丁重にお迎えせよ。」

「……はっ!」


出撃時にはいるはずのない女性が降りてきたことを不可解に思いながらも、准将の指示通りアイリーンを迎える。そこに、白い哨戒機も降りてきた。

だが、哨戒機は滑走路に向かわず、アイリーンのいる滑走路の端に寄せる。そしてホバリングし、空中に停止する。それを見て周囲の兵士らは大慌てで武器を持ち、駆け寄る。


「待て!攻撃するな!」

「しかし閣下……」

「とにかく、攻撃はするな!中の乗員にもだ!客人として迎えよ!」

「はっ!」


ベルナルド准将の命令に、皆、銃を下ろす。その兵士の真っ只中に、哨戒機は着陸する。

降り立った哨戒機のハッチが開く。最初に降りてきたのは、エルヴェルトだった。

一瞬、周囲の兵士が目を疑う。墜落して死んだとされるエルヴェルトが、目の前にいる。

だが、彼は逃亡兵だ。しかも、貴重な戦闘機を奪い、破壊してしまった。彼らの基準では当然、重罪だ。兵士達の銃は、エルヴェルトへと向けられる。


「待って!」


と、そこへアイリーンが叫ぶ。


「彼は私の、接触人(コンタクター)の助言者よ!決して撃ったり捕まえたりしてはダメよ!」


そう言いながらアイリーンは、エルヴェルトのところへと駆け寄る。


「やあ、アイリーン、無事だったか!」

「無事だったかじゃないわよ!あんたが真っ先に殺されるところだったわよ!何考えてるの!」

「いや、そんなことは分かってるよ。だけどさ……」

「だけど、なによ!」

「僕がここにいたら、この先の交渉って奴がこじれるだろう?だからやっぱり、ちゃんとけじめをつけなきゃと思って……」

「ば、馬鹿!何言ってんのよ!あんたが捕まって殺されるようなことがあったら、そっちの方が大問題よ!」


アイリーンは叫びながら、エルヴェルトの腕を引っ張る。


「せっかく助けた命を、こんなところで失わせたりしないわよ!我々、宇宙統一連合の政府および軍は、全力であんたを守るからね!分かった!?」

「あ、ああ……分かった。」

「分かったら、さっさとついてくる!あんたは今、私の助言者なんだからね!」

「はいはい。」

「『はい』は一回!」


妙にこの気の強い不可思議な女性と親しげなエルヴェルトを見て、兵士達は驚く。彼の機体が墜落してわずか2日。この短い間に一体、何があったのか?飛行服を着た人物が一人、エルヴェルトに近づく。


「なあ、エルヴェルトよ。一体この人は、誰なんだ?何があった?」

「彼女は、宇宙人であり、魔女だ。僕は彼女に、助けられた。それだけだ。」


分かったような分からない答えを残して、エルヴェルトはその飛行士に手を振って、アイリーンの後を追う。アイリーンは2人の兵士に導かれて、建屋の中に入っていった。

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