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宇宙最速魔女は接触人(コンタクター)  作者: ディープタイピング
第2話 パートナーとの出会い
7/50

#7 救助

どれくらい時間が立ったのか?アイリーンは目を覚ます。


「ん……んん~っ……」


目の前に見えるのは、岩の天井。アイリーンはおぼろげな頭をフル回転させて、直前の記憶を引っ張り出す。


「そうだ、私……確か、崖から落ちて……」


ムクっと起き上がるアイリーン。だがそこは、崖ではない。洞穴の中だ。

あたりには、誰もいない。確かエルヴェルトも一緒に落ちたはずだ。しかし、彼の姿もない。

立ち上がろうとするが、足が痛い。頭も少しズキズキする。一体、何がどうなったのか?そしてエルヴェルトはどこに行ったのか?

と、そこに人影が現れる。


「あ、気がついた!」


その声は、エルヴェルトだった。アイリーンは、急に荷物を調べ始める。カバンがない。だけど、腰についたバリアシステムと拳銃はそのままだ。いや、その前に、大事な魔女用スティックがない……


「ちょ、ちょっと、私の荷物は!?」


エルヴェルトに詰め寄るアイリーン。すると彼は、カバンと黒い棒をアイリーンに見せる。


「今、荷物を探してたんだよ。ほら、カバンとこの黒い棒。大事なものだろう?」

「え、ええ、そうよ。とっても大事な……って、ちょっと待って!あんた。私が気を失ってる間に、私に変なことしてないわよね!?」

「いや、しないって!するわけがないよ!僕は立派な伝統ある騎士家の生まれ、そのようなことは決してしないって!」

「そ、そう……ほんとかしら?」

「崖から落ちて、アイリーンさんが僕を抱きしめて空中に浮かんだんだけど、急にアイリーンさんが気を失って茂みに落ちたんだ。どうやら、途中に生えていた木の幹に頭をぶつけて、そのまま失神したみたいだね。で、落っこちた場所のすぐ脇にこの洞穴が見えたから、まずアイリーンさんをここに移して、荷物を探してたんだよ。」

「……てことはあれから、あまり時間は経ってないのね。」

「そうだよ。」

「じゃあ、日が暮れないうちに、さっさと高台を目指しましょう!」

「いや、その前に、その怪我をどうにかしないと。」


エルヴェルトが、アイリーンの左足を指差す。よく見ると、派手に擦りむいている。


「だ、大丈夫よ、これくら……いたたたっ!」

「ほら、ダメだって、無理しちゃあ!ねえ、この僕の右肩に貼ってるこれ、ないの?」

「ああ、貼り薬ね。それなら、カバンの中にあるわよ。」


すると、エルヴェルトはカバンを渡す。アイリーンは貼り薬を取り出して、左足に貼り付ける。


「貼りにくそうだね。手伝おうか?」

「いいわよ!自分でやるから!私に触らないで!」


プリプリしながら、足に貼り薬を貼り付けるアイリーン。だが、それくらいでは痛みは治るわけもなく、歩けそうにない。


「いたたた……もう、情けないわねぇ!」


苛立つアイリーンは、当たり散らすように貼り薬を貼った左足を叩く。だが、ただ痛みが増すだけで、何の解決にもならない。自ら与えた痛みに悶えるアイリーン。


「っくぅ~っ!も、もう!痛いわねぇ!どうなってんのよ!」

「そりゃ、怪我してるところを叩けば、痛いのは当たり前だろう……ねえ、アイリーンさん。」

「なによ!」

「おんぶしてあげようか。」

「はあ!?なに言ってんのよ、いやらしいわね!」

「いや、でもさ、このままじゃアイリーンさん、動けないでしょう?」

「ううっ……でもあんただって、怪我してるじゃない!」

「背中に背負うくらいなら平気だよ。さあ。」


結局アイリーンは、エルヴェルトの背中に乗る。エルヴェルトに負ぶわれたまま、崖の下の細い道を進む。エルヴェルトの背中で、急にアイリーンは弱気になる。


「うう……宇宙最速の魔女が、こんな逃亡兵に背負われないと歩けないなんて……情けない……」

「あのさ、逃亡兵と呼ばないでよ……これでも気にしてるんだからさ。」

「だ、だって私は、数隻の駆逐艦をも動かせる権限を有するほどの接触人(コンタクター)なんだよ?それが、たかが無線機の故障ごときで、こんな目に……」

「何を言ってんの。アイリーンさんは一つ、大切なことをやり遂げたじゃないか。」

「なによ、大切なことって?」

「僕の命を助けたことだよ。」

「……なによそれ?そんなの、当然じゃないのよ!」

「そうかな?僕にとっては、とても重要で、当たり前だと割り切れないことだけどなぁ。だってもし僕が死んでいたら、僕はこうやってあなたを背負って歩くことも、話すこともできなかったんだよ?」


言われてみれば、その通りだ。彼が死んだところで、アイリーンにとっては見知らぬ人が命を落としたという事実だけが残るだけだ。が、エルヴェルトにとってのこの生死の差はあまりに大きい。


「ねえ、エルヴェルト。」

「なんだい?」

「あんたさ、なんだってパイロットになったの?」

「飛行士のこと?決まってるよ。カッコいいからさ。」

「カッコいい?飛行士が?」

「つい20年ほど前に発明されたばかりの最新鋭の機械、飛行機に乗って颯爽と闘う。まさにこれこそ、現代の騎士道、僕の目指す道。だから僕は、飛行兵団に入ったんだ。」

「ふうん。そうなの。」

「本当はさ、剣士になるつもりだったんだ。だから小さい頃から、剣術を鍛えてたんだけど……」

「えっ!?あんた、剣も使えるの?」

「そりゃあもう、これでも僕は、地元の大会では負けなしだったんだよ。」

「そ、そうなんだ。でもまた、なんでパイロットに転向したの?」

「だって今の時代、剣なんて何の役にも立たないよ。機関銃が発明されて、飛行機の登場で空も自在に跳べる時代になったんだよ?そんなところで剣なんていくら振るっても、飛行機一つ落とせやしない。だから僕は最強の騎士になるために、飛行兵になることに決めたんだ。」

「へぇ、逃げ出したわりには、随分と考えてるじゃない。」

「好きで逃げ出したわけじゃないって!あんな非道な兵器が使われるなんて、それこそ騎士道に反する非道な行為だろう!?あくまでも闘いは、騎士同士で正々堂々と行わないと意味がない!剣も銃も持たない民を襲うなんて、言語道断だ!」

「そうね、民を襲うのがダメだって意見だけは賛成だわ。」

「ところで、アイリーンさん?」

「なに。」

「アイリーンさんこそ、なんだって接触人(コンタクター)っていうのになろうと思ったの?」

「ああ、私ね、こう見えても宇宙最速の魔女なのよ!」

「うん……それはさっき、聞いた。で、どうしてその速い魔女さんが、遠くの星の見知らぬ住人との接触する仕事に?」

「そりゃああんた、私って魔女だから、自由自在に飛び回って、あっちこっち好きな場所に飛んで行けるでしょう?だけどこの力が役に立つ仕事って、ほとんどないのよ。せいぜい運び屋くらいしかなくてね。」

「まあ、そうだよね。僕もその能力、郵便や小包を運ぶことくらいしか思いつかないなぁ。」

「でもさ、接触人(コンタクター)なら、この自在に飛べる能力が活かせそうだって思ったのよ!だって接触人(コンタクター)って、未知の惑星に降り立ち、どこに何があるのか分からない星で誰かと接触しなきゃいけないんだよ!?地道に街の中を歩き回って、人伝てで偉い人を紹介してもらって……なんてやってたら、時間がかかってしょうがないじゃない。でも魔女だったら、その気になればお城のテラスにいる国王陛下にだって直接会いに行けるわ!そう思ったから私、一生懸命勉強して、接触人(コンタクター)になったのよ!どう、すごいでしょう!」

「あはは……いや、どれくらいすごいのかよく分からないけど、努力はしてるようだね。」

「してるようだ、とは何よ!してるわよ、ずーっと!」


そんなたわいもない会話をしながら、エルヴェルトは歩き続ける。すると、だんだんと目の前が明るくなる。

そして、開けた断崖絶壁の前へと出る。そこでエルヴェルトは、アイリーンに尋ねる。


「ここ、高台じゃないけどさ、随分と見晴らしがいいよね……もしかして、ここであのなんとかいう機械を使えない?」

「ああ、遭難信号発信器ね。確かに、ここなら行けるかも……ここで下ろしてちょうだい。」


アイリーンはエルヴェルトの背中から降りると、カバンから黒い塊を取り出す。それを地面に置き、スイッチを入れる。


「これはスイッチを入れると、電波を出し続けてくれるのよ。これだけ開けた場所ならキャッチしてくれるかも……」


そう言いながら、大きな石の上に座って待つアイリーン。その横に座るエルヴェルト。

すると10分ほどして、目の前に白い機体が現れた。


「来たわ!」


徐々に接近する哨戒機。アイリーンのいる絶壁の前を大きく旋回すると、アイリーンの前でホバリングに移行し、この崖のすぐ脇で停止する。そして、徐々に接近する。


「ちょ、ちょっとこれ、何!?プロペラもないのに、どうやって飛んでるの!?なんで空中に止まれるんだ!?」

「うるさいわねぇ!これは、こういう航空機なの!さ、ぐちゃぐちゃ言ってないで乗るわよ!」


すると哨戒機のハッチが開き、中から士官が呼びかける。


接触人(コンタクター)殿!遭難信号を受信したので急いできましたが、何があったんですか!?」

「話は後!まずはそっちに乗り込むわ!あ、それから、この人も収容して!」

「はっ!了解しました!お乗りください!」


哨戒機に乗り込むと、バタンとハッチが閉じられる。アイリーンらが中の座席に座ると、哨戒機は飛び立つ。


「はあ~っ、アイリーンって本当に宇宙からきた人なんだな。まさかこんな飛行機に出会えるなんて……」

「まあね。でもこんなの、魔女に比べたら大したことないわよ。だいたい哨戒機っていうのは、大きな重力子エンジンに頼らなきゃ飛べない乗り物なんだから。」


などと高飛車に話すアイリーンに、エルヴェルトは尋ねる。


「ところでさ、アイリーンさん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど。」

「なによ。」

「さっきふと気づいたんだけどさ、わざわざ高台なんか目指さなくても、あの森の中でアイリーンさんが遭難信号の発信器ってやつを持ったまま飛んでいれば、それでよかったんじゃないかって……」


それを聞いたアイリーンの顔が、みるみる赤くなる。


「ちょ、ちょっと!なんでそういうこと、もっと早く気づかないのよ!」

「い、いや、そんなこと言ったって……」

「そうすれば、もっと早く哨戒機を呼べたじゃないの!私も、怪我もしなくて済んだし!何ぼーっとしてんのよ、この逃亡兵!」


哨戒機内で罵声を浴びせるアイリーンに、受けるエルヴェルト。この騒がしい魔女を乗せた哨戒機は、駆逐艦へと向かう。

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[良い点] 使えないものからすれば魔法は浪漫ですよね。 [気になる点] 初期の飛行機乗りは変人扱いだったそうです。現在は制空権番長の米軍でも、当時は搭乗時はカラーと拍車の着用を義務付けられ、首回りはカ…
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