#46 回収
とにかく、ハーマンはその人物に応えるべく、窓をコンコンと叩き返す。
もっとも、宇宙空間では音は伝わらない。叩いたところで聞こえるわけがないが、それでもハーマンの存在を、あちらは気付いてくれたようだ。
すると、その人物は両手を振り回しながら、何かを伝えようとしている。指で何かを差しているような仕草をする。だが、何を伝えようとしてるのかが分からない。
その指差す方を、ハーマンは見た。そこでハーマンは、彼の想像を遥かに超えたものをそこに見ることになる。
大きな灰色の、細長い物体。巨大なものが、青い地球を背景に接近してくる。
あれは明らかに人工物だ。これはどうみても、宇宙船だろう。
にしても、あまりに大きい。この船の何十倍、いや、それ以上か。ともかく、そんなものが悠々と、この小さな宇宙船に接近してくる。
ハーマンは、この状況をまったく飲み込めていない。
自分は、宇宙に出た最初の人類ではなかったのか?どうして自分以外の人間が、ここにいるのか?
そしてなぜ、これほど大きな宇宙船がこの宇宙に存在するのか?
これらの疑問を、合理的に説明できる解釈は、たった一つしかない。
彼らは、別の星から来た人間だ。つまり宇宙人だ。
信じがたいことだが、そうとしか考えられない。他の国でも、衛星を打ち上げられるロケットを保有する国は2つしかない。しかも、これほど大きなものを打ち上げられるロケットなど、聞いたことがない。
やはり、外宇宙から来たと考えるのが、妥当だろう。
それにしても、彼らは何のためにここに来たのか?私をどうするつもりなのか?ハーマンはふと考える。
ところでこの宇宙船、一体どちらが上なのか……ハーマンの宇宙船の窓から見える限りでは、細長い真四角な船体しか見えない。奇妙なことに、この灰色の宇宙船には窓が一つもない。代わりに、先端部分には大きく丸い穴が開いている。
これは多分、武器なのだろう。ブースターの噴射口にしては大き過ぎる。おそらくは大砲のようなもの、それ以外の何物にも見えない。
この灰色の宇宙船を眺めていると、その宇宙船の一部が、パカっと口を開く。その開口部が、ハーマンの宇宙船目掛けてゆっくりと近づいてくる。
もしかして、この宇宙船を取り込もうというのか?あせるハーマンだが、逃げようにもこちらは制御不能だ。もはや、為すがままである。ハーマンは、接近する大型宇宙船に開いたその四角い開口を覗き込む。
中には、何やら大きなロボットの腕のようなものが見える。それが、こちらの宇宙船目掛けて伸びてくる。ああ、やはり取り込まれるのか……何が目的かは分からないが、こちらには抵抗する術がない。
そういえば、先ほどのあの人物はどこにいったのだろうか?見渡すと、ロボットアームのそばにあの白い宇宙服の人物は浮いていた。不思議なことに、棒切れにまたがっているだけで、自在に宇宙を動き回っている。スラスターもなしに動き回れるとは、やはりこの地球の技術を遥かに超越した何かを持っている人々だ。一体、どんな技術を使っているのか?
そんなことを考えていると、ガチャッという音が響く。あのロボットが、この宇宙船を捕らえた。そしてそのまま、この宇宙船をあの開口部の奥へと引っ張りこんだ。
ガツンと音を立てて、薄暗い部屋のようなところに収まる。と同時に、ハッチが閉まり始めた。ハッチが閉じると、そこは真っ暗になる。
が、すぐに部屋には明かりが灯る。明るくなったその部屋の中には、あの棒切れにまたがった宇宙服姿の人物がいる。棒切れを片手に、部屋の奥で立っている。
あの宇宙人は、一体どんな姿をしているのだろうか?外観から見る限り、ハーマンと同じ人間のように見える。が、以前見たテレビでは、薄い灰色に肌を持ち、背は低く、大きな目を持つ不気味な姿だと言っていた。果たして、あの宇宙服の奥はどんな姿が隠れているのだろうか。
ところで、ハーマンは不思議なことに気づく。身体が重い。つまり、ここには重力がある。宇宙船はこの部屋の床に対してやや斜めに傾いているため、傾いた椅子の上に座っている感覚が襲う。
ハーマンは外を見る。しばらくすると、あの宇宙服姿の宇宙人は、ヘルメットを脱ぎ始める。まさか、空気が充満されたのか?ついに、彼の前にその姿を現す宇宙人。ハーマンは、息を飲んで見守る。
だが、ヘルメットの奥から現れた宇宙人は、まったく想定外の姿だった。
長い髪が、脱いだヘルメットからさらりとこぼれ落ちる。現れたのは、見るからに女だ。この宇宙の真っ只中で、まさか女性に会うとは考えもしなかった。その女性が、宇宙服の方に歩み寄る。そして、窓を叩いて叫ぶ。
「もう気圧が上がったわ!もう出てきてもいいわよ!」
不思議なことに、言葉が分かる。姿も言葉も、ハーマンと同じ地球人そのものだ。呆気にとられるハーマンに、外の人物はさらに窓を叩いて叫ぶ。
「ちょっと、大丈夫!?まさか、気を失ったわけじゃないわよね!」
あまりにしつこいので、ついにハーマンは動く。ベルトを外し、ハッチのロックを解除する。そして、ハッチをこじ開ける。
「ねえあんた、大丈夫?出られる?怪我してない?」
「あ、ああ、なんともない、大丈夫だ……」
「そう、良かったわ。」
その女性は、ニコッと微笑む。ハーマンも、微笑み返す。
「ついさっきね、あなた達の無線をキャッチしたんだけど、内容からして大変なことになったみたいだったから、急いで救助に来たのよ。確かにこれじゃあ、危なかったわね。」
そう言いながらその女性は、ハーマンの宇宙船の後ろを指差す。ハーマンは振り返り、自分の宇宙船を見る。
一瞬、彼はめまいを覚える。
宇宙船の後方、ブースター部分が完全に潰れている。突き上げられた噴出口が本体に食い込み、燃料配管が何本か剥き出しになっている。おまけに、耐熱パネルの多くも無残に剥がれているのが見える。あれだけの損傷を受けて、よく気密室まで被害が及ばなかったものだ。ハーマンは、自身の宇宙船の姿に恐怖を覚える。
それを見てハーマンは、この事故の原因を悟った。
三段目だ。三段目が、この宇宙船に追突したのだ。
この宇宙船を打ち上げたロケットの三段目は、固体燃料ブースターだ。当初よりこの三段目を液体燃料ロケットにするか、それとも固体燃料ロケットにするかで、議論があった。
結局、当初採用予定だった液体燃料ロケットエンジンが要求性能を満たさなかったため、推力のある固体燃料とすることで決まったのだが、その時の懸念が現実となったようだ。
その懸念とは、「残留推力」による衝突だ。
固体燃料ブースターは、燃焼終了後も僅かに推力が残る。その僅かな推力により、切り離したこの宇宙船目掛けて追突してきたのだ。
だが、残留推力だけでは説明できない気がする。なんらかの理由で、切り離し後に、想定以上の推力が加わって再加速したのではないか?そうとしか考えられない。
いずれにせよ、自分が生きていたのが奇跡だ。もしこの宇宙人の船に出会わなければ、死んでいたことは間違いない……ハーマンは、身震いがした。
「まあ、私達が見つけられたから良かったわね。でなきゃ、絶対に死んでたわよ、あなた。」
「……そうだろうな。これだけ破壊された船に乗っていて、生きているのが信じられない。」
と、奥の扉が開く。
「アイリーンさん、お帰りなさい。で、どうでした?」
「ああ、カナエ。見ての通りよ。ほら、宇宙船を一つ、回収してきたわよ。」
「うわぁ、すごいですね、この宇宙船!いかにも宇宙船って形のやつですよ!」
「何よ、そのいかにもな宇宙船って?」
もう1人、女性が現れた。先の女性がアイリーン、2人目はカナエというらしい。ハーマンは、この何の変哲もない2人をまじまじと見る。
「あの!」
カナエという女性が、ハーマンに話しかけてきた。ハーマンは応える。
「な、なんでしょう?」
「あの、もしかしてあなた、宇宙飛行士さんなんですか!?」
「あ、ああ……そうですよ。」
「すごいですよ、アイリーンさん!この人やっぱり、宇宙飛行士ですよ!」
「はあ!?何よその宇宙飛行士ってのは?」
「宇宙船に乗って、宇宙空間へ乗り出す人のことですよ。」
「何言ってんのよ。それじゃあ私達だって、宇宙飛行士じゃない。」
「こんな駆逐艦のような慣性制御のついた、生ぬるい宇宙船ではなくてですね、大きなロケットを使って大気圏離脱に猛烈な加速度がかかる、ガチな宇宙船に乗る飛行士のことですよ!そのためには、血の滲むような訓練を受けてですね……」
なんだかよく分からないが、この宇宙の只中で、宇宙飛行士の大変さを説く、妙な女性。なぜ彼女は、ロケットのことや宇宙飛行士のことを知っているんだ?
「そうなの?そんなに大変なんだ、宇宙飛行士って。」
「そうですよ、数千、いや数万人に1人しかなれないんですよ!それくらいすごい人なんですから!」
「へぇ、カナエのところでは、そういう宇宙飛行士がいたんだ。」
「いましたよ。もっとも、今は宇宙に出るのが当たり前で、まったく凄みが無くなってしまいましたようですけど。」
宇宙飛行士をそっちのけで、よくわからない話を続ける2人。
「ということで、早い話がこの人はすごいんですよ!多分、国家の威信やら名誉やらを背負って宇宙に飛び出したんです!そうですよね、飛行士さん!」
「あ、ああ、その通りだが……一つ聞いても、よろしいかな?」
「はい、何でしょうか!?」
「……あなた方は一体、何者なのですか?」
それを聞いたアイリーンは応える。
「ああ、私の名はアイリーン。接触人をしている魔女なのよ。」
「私はカナエ、アイリーンさんのところで補佐役として働いています!」
「こ、コンタクターに……補佐役?なんです、それは?」
「つまりね、この星の人と接触し、交渉して、我々宇宙統一連合との同盟関係締結の足がかりを築くのが役目なの。」
「あの、何ですかその宇宙統一連合というのは?」
「この宇宙には、人が住む星が880以上もあるのよ。そのうち500近い星が宇宙統一連合に属してて、残りは銀河解放連盟っていう、我々にとっては敵方の陣営に所属する星達なのよ。」
「は、はあ……」
「要するに、その連盟に負けてないよう、連合側の星を増やす為に、星を見つけてはうちの陣営に引き込んでるわけ。それで私はこの地球712の駆逐艦4330号艦に乗って、この星に来たってわけなの。」
「あ、アース……712?」
「ああ、星の呼び名よ。712番目の星だから、地球712。ちなみに私の星は760番目で、地球760。で、この星は882番目。だから、地球882と呼ばれるはずよ。」
「ああ、そうそう、私の星は地球876なんです。つい最近、連合に発見されたばかり星なんですよ。」
いきなり途方も無い話を聞かされたハーマン。彼らによれば、この宇宙には他の星にも人類がいて、すでに宇宙船による行き来が始まってるということになる。
「聞きたいことが、山ほどあるが……ところでアイリーン殿、あなたはさっき、魔女だと言っていたが?」
「ええ、そうよ。私の星にはこの宇宙で唯一、空を舞う力を持つ人々がいる星があるの。私はその星出身の、一等魔女なのよ。」
「そういえばアイリーンさん。アイリーンさんって、宇宙空間でも進めるんですね。」
「そうよ。普通の一等魔女は、無重力状態では推進力を得られないんだけど、私は特別らしくって、どういうわけか進めちゃうのよ。速度はあんまり出ないけどね。」
「そ、そうなんですか!?やっぱり、最速魔女は違いますね!」
「でしょう!?地球760にいる魔女260万人、そのうち50万人いるとされる一等魔女の頂点に、私はいるのよ!」
「ええと……アイリーン殿、魔女とは一体……」
なぜか急にアイリーンの自慢話を聞かされる羽目になるハーマン。だが、この男はまるで状況が飲み込めていない。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね。あなた、何というの?」
「ああ、私の名はハーマン。階級は少佐。イスタリア共和国の空軍パイロットで、宇宙飛行士をしている。」
「うわぁ!パイロットですよ!やっぱり宇宙飛行士といえば、パイロットから選ばれるんですね!」
「何よ、パイロットっていったっていろいろいるでしょう!?中にはろくでもないやつだって……」
その時、再び奥の扉が開く。今度は男が入ってきた。
「やあ、アイリーン。遭難した宇宙船を無事回収したって聞いたけど。」
エルヴェルトだ。アイリーンは小声で呟く。
「噂をすれば来たわね、ロクでもないパイロットが……」
そんなアイリーンなどお構いなしに、エルヴェルトはやってくる。
「お手柄だな、アイリーン。さすがは宇宙最速魔女だな。」
ところがアイリーンは応えない。ムスッとした顔で、エルヴェルトと目を合わせようとしない。
「……あれ、アイリーンさんとエルヴェルトさん、何かあったんですか?」
尋ねるカナエにも、アイリーンは沈黙する。エルヴェルトが応える。
「ああ、アイリーンのやつ、やきもち焼いてるんだよ。さっき僕が、この艦の女性士官と仲良く話してたのを見てから、機嫌が悪いんだよ。」
それを聞いたアイリーンは、吹っ切れたように叫ぶ。
「そんなことないわよ!誰があんたにやきもちなんか……」
だが、振り向いたアイリーンを、エルヴェルトはすかさず抱き寄せる。
「悪かったよ、アイリーン。でも僕が好きなのは、アイリーンただ1人さ。」
「いや、ちょっとエルヴェルト!あんた……」
カナエや宇宙飛行士がいることなどお構いなしに、エルヴェルトはアイリーンを抱き寄せ、その唇を奪いにかかる。この無神経で強引な男に、アイリーンはいいように扱われる。
「……って!あ、あんたねえ!ちょっとは場をわきまえなさいよ!」
「はっはっはっ!いいじゃないか、別に僕らは関係を隠しているわけじゃないし。見せつけたって、僕は平気だなあ。」
さっきまで威勢のよかったこの接触人は、真っ赤な顔であの闊達な男の横で突っ立っている。
「ところで、こちらの方が、あの宇宙船の?」
「……そうよ。ハーマンさんっていう方なの。」
「そうか、じゃあ、挨拶しないといけないな。僕はエルヴェルト。地球875出身のパイロットで、アイリーンの専属機を担当してるんだ。よろしく。」
「あ、ああ、よろしく。」
腕を出すエルヴェルトに、ハーマンも手を出す。ガッチリと握手をする2人。
「……さて、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないから、艦内に入るわよ。」
「あ、ちょっと、アイリーンさん!」
「何よ、カナエ。」
「この人が無事だってことを、この星の人に知らせないとダメじゃないですか?」
「そりゃあそうだけど、そんなこと、艦橋の通信機でやればいいんじゃない?」
「いやあ、それがダメなんですよ。ここの通信機はアナログ無線の受信はできるんですが、送信はできないんです。」
「何よそれ?じゃあ、連絡取れないじゃない!」
「ですから、この宇宙船の無線機を使います。」
「使うって……でも、ハッチ閉じちゃったし、この宇宙船の無線機じゃ地上まで電波を飛ばせないんじゃない?」
「格納庫内に、この駆逐艦のアンテナ端子があるんですよ。そこにこの宇宙船のアンテナを繋いでバイパスしてやれば、通信できるはずです。」
「はあ、そうなんだ、そんなものがあるんだ。」
「国家を代表する宇宙飛行士ですよ?その飛行士の無事を早く伝えてあげられれば、アイリーンさんが接触する際に何かと都合がいいと思うんですけどねぇ。」
「ああ、なるほど、そうよね。考えたら、大気圏に入る前にこの星の人と接触できちゃったわけだし、この機会を活かすべきよね。」
「じゃあ、そうと決まれば、早速つなぎましょう!」
そう言うとカナエは、格納庫の奥にある配電盤に向かう。そして、ずるずると長い線を引っ張ってきた。
「ハーマンさん!この宇宙船のアンテナって、これですかぁ!?」
カナエは、宇宙船の天辺にあるパラボナアンテナを指差す。
「はい、そうですよ。」
「それじゃあ、ささっとつなぎますね!」
そう言ってカナエは、まるでワラジ虫のように宇宙船の外壁を這うようによじ登る。そして、アンテナにたどり着くや、ゴソゴソといじり始める。
「ちょっとカナエ!大丈夫なの!?」
「アイリーンさん、私を誰だと思ってるんですか!?『格納庫の腐女』と呼ばれた私にかかればその程度のこと、妖精の羽をちぎるがごとく造作もないこと!3分で片付けてやりますよ!ぐふふふっ……」
すっかりマニアモードに入ってしまったカナエ。その様子を、不安げに見守るアイリーン。
「……できました!ハーマンさん、これで無線が使えるはずですよ!」
「そ、そうか、ありがとう!」
カナエが叫ぶと、ハーマンは宇宙船内に戻る。そして、無線のスイッチを入れた。
「こちらマールス、カナリーズ、応答せよ。」
すると、やや雑音混じりながらも、地上から応答があった。
『こちらカナリーズ。やれやれ、やっと応答したか……マールス、状況を報告せよ。』
「現在、マールスは地球712と呼ばれる星から来た宇宙人の船に収容されている。そこで、接触人と呼ばれる人物と接触。これより、その宇宙船内に入り、状況確認を行う。詳細は追って知らせる。」
『……あ、アース712?宇宙船?……いや、了解した。こちらは待機している。』
相手は、何を言っているのか分からないだろう。だが、ハーマンが無事であるということはとりあえず伝わった。地上との連絡を終えて、無線機を切る。外に出ようとすると、カナエが目を輝かせて覗き込んでいる。
「うわぁ!計器類がいっぱい!なんですか、この無骨で麗しい機械達は!?」
「……ああ、宇宙船だからな。高度計に気圧、電圧、そのほか、諸々の機器が装備されている。」
「さっきからチカチカ光ってるこれは、なんなのです!?」
「これは燃料系の警告ランプだ。後部がこれだけやられたからな。燃料タンクが凹んでいるから、それを警告しているんだよ。……にしてもだ、カナエ殿、こんなものがそんなに面白いか?」
「そりゃあ面白いですよ!宇宙船といえば、女の子が一度は夢見るものですよ!?それを目の当たりにすれば、興奮するのが当然です!」
「……あまり、女が興味を抱くものとは思えないのだが、あなたの星ではそうなのか?」
この丸っこい顔をした奇妙な女子に絡まれて、ハーマンは戸惑っている。
宇宙開発競争で、もう一つの大国に先んじて有人飛行を達成すべく、宇宙飛行士選抜と訓練に人生をかけてきたハーマンが、この宇宙の片隅で、丸っこい機械好きのこの奇妙な女と今、会話している。つい1時間前までは、予想もしていなかった事態だ。
「カナエ!そろそろ艦内に戻るわよ!話があるんなら、中で話しなさい!」
「はーい、アイリーンさん、今行きまーす!」
カナエは宇宙船のハッチから離れる。そして、ハーマンに手を差し伸べる。その手をとり、宇宙船を降りるハーマン。
銀色の宇宙服に身を包んだこの星最初の宇宙飛行士は、駆逐艦の中へと足を踏み入れる。




