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#40 一夜不夜城

正確には、それは「城」ではない。高さ230メートル、45階建ての全面ガラス張りのビルが、一夜にしてコダワラ城のど真ん中に建てられた。


「古代に、一夜にして城を建てて、士気を挫いたという逸話がございます。本来は城を攻める側の手でございますが、城攻めの軍勢相手でも、効果はございましょう。」


淡々とナツに語るエリシュカ。


「ほ、本当に城が建ったのでございますね……それにしても、なんという大きさ……」


ナツは、目の前に建てられたガラス張りのこのビルを見上げて立ち尽くす。


「すごいでしょう!宇宙港側の街建設用のビルの一つが届いたっていうから、こっちに回してもらったのよ!どうかしら、これであのモトナガとかいうおっさんも今ごろ、びっくりしてるでしょうね!」

「そ、そうでござろうが、しかし、城が建ったというだけでは……」

「何言ってんのよ!これからが本番よ!見てなさい、あのクソジジイめ!私をコケにしたこと、嫌というほど後悔させてやるわ!かっかっかっ!」


えらく上機嫌なアイリーン。ナツとこの城の兵達は、ビルの上の方を見上げる。

ビルの中ほどの18階辺りには、大きな黒い板がノダ軍本陣に向けて取り付けられている。幅66メートル、高さ28メートル。2850インチを超えるその大きな板の周りで、民間の業者が何やら調整している。


「アイリーンさん!それじゃあこれから音響のテストに入りますけど、よろしいですかぁ!?」

「いいわよ!最大音量で、ガンガンやっちゃってちょうだい!」

「はーい、それじゃあ始めまーす!」


アイリーンの返事を聞いたこのチーフらしき人物は、空中を飛ぶ民間機の上に乗った作業員に向かって手を振る。作業員が退避するや、突然このビルから大きな音が鳴り響く。

ズッチャンズッチャンズーンズーン……と、腹の底から響き渡る重低音が鳴り響く。と同時に、その黒い板には何かが映っている。

大勢の人が音楽に合わせて、何かを踊っているダンス映像だ。それを上機嫌に見つめるアイリーン。この大音量に耳を塞ぎながら、ナツはアイリーンに尋ねる。


「あ、アイリーン殿!なんでござるか、これは!?」

「ああ、これね!特大のモニターと、音響設備を持ってきてもらったのよ!凄いでしょう!」

「も、もにたぁと、おんきょう……?」


ナツはさらに多くを尋ねたいところだが、周りがうるさすぎてどうにもならない。この騒音に、城の一同がアイリーンのところに集まってくる。


「あ、アイリーン殿!なんでござるか、このやかましいものは!?」

「ああ、話は後!とにかくみんな、ここじゃうるさいから、ビルの中に入ってちょうだい!」


アイリーンがビルの出入り口に手招きする。そこで、この城にいる家臣や1000人の城兵は、ビルの中へと入る。

中に入ると、驚くほど静かだ。だが、そこには家臣や城兵達を驚かせるものがあった。

建物の中だというのに、随分と明るい。きらびやかな看板や照明、そして見たことのない店が、彼らを迎える。燕尾服に身を固めた初老の人物が、彼らに向かって叫ぶ。


「ようこそ!このコダワラ・デパートへ!」

「は?で、でぱあと?」


上機嫌に迎え入れるこの男性に、彼らはどう応えて良いものか考え込んでしまう。ここは確か、一夜で建てられた城の中。その城の中が、まさかこのようなことになっているとは、まるで想像していなかったナツ。


「とりあえず、3階分だけテナントを入れてもらったのよ!1階が食料品売り場で、2階がフードコート!3階は、エンターテイメント施設になっているわ!そこから上はまだ空っぽだから、みんなの寝床にでも使ってね!」


アイリーンの解説に、もはや何を言っているのか分からないナツ達コダワラ城一同であったが、とにかくゾロゾロと城、いや、ビルの中に入る。

デパートとはいえ、そこにあるのは食料品関連ばかり。事実上、救援物資を並べているだけだ。しかし、とても戦場のど真ん中にあるとは思えない食べ物ばかりであった。


「あ、アイリーン殿……これはなんであるか?」

「ああ、これね。これはケーキ。ショートケーキにマロンケーキ、レアチーズケーキに……」


なぜかケーキ売り場には、ナツを始め、城にいる侍女や他の家臣の姫が集まってきた。(おなご)の本能を揺さぶられる何かが、そこにあると感じたようだ。

そこにはすでにカナエとカレーがおり、ショートケーキを貪っている。


「いやあ、やはりスイーツは美味いですよ!カナエ・フード・システム開発の暁には、4096個のケーキを同時に食べられるシステムを……」

「おいしいなぁ、このケーキ!」


あまりに美味そうにケーキバイキングを堪能するこの2人……いや、一人と一匹を見て、城の女達も恐る恐るケーキに手を伸ばす。

城の兵達も、恐る恐るそのビルの中を見て回る。パンやご飯、肉や魚に野菜に穀類、それに調味料。菓子類もある。それを手に取り、2階のフードコートで食べる城兵の面々。

ビルの天辺では、民間船が着底している。そこから物資を運び込み、このビルの1階まで運び込んでいる。

次々に運び込まれる食料品。穀類のような主食系の食材から、ワインなどの酒類に至るまで、膨大な物資が移送されていた。


「なんでござろうなぁ……このわいんと申す酒とはむやちーずという食べ物の組み合わせが、妙に美味いのだが……」


朝っぱらからいきなり飲んだくれているのは、この城の当主であるトキツネだ。


「ち、父上!なんというはしたないことを……」

「よいではないか、アイリーン殿が勧めてきたのじゃよ。」

「ここは戦さ場にございますよ!?城主たる父上がそのようなことで、どうするのでございますか!?父上~!」


まったく、落城寸前の城とは思えない光景が、そこには広がっていた。家臣ら共々、ワインや焼酎を並べて宴会状態である。必死になって引き止めるナツを、アイリーンが制止する。


「いいじゃないの。ちょっとくらい羽目を外したって。」

「いや、アイリーン殿!ここはまだ戦さ場でございますぞ!当主がこのようでは……」

「いいのよ。それよりも、あんたにもね、大事な仕事があるの。」

「し、仕事!?」

「いいから、いらっしゃい!あんたこの辺りで一番の美人らしいから、都合がいいわ!」


強引にナツの腕を引いて、ビルの奥に向かうアイリーン。それを、手を振って見送る城主達。この腑抜けた城主に、ナツは不安しか感じない。

一方そのころ、外の10万の軍勢の方は、大変なことになっていた。


「おい、なんじゃ、あのやかましい城は!?」

「わ、分かりませぬ!一夜にして現れて、あのようにけたたましい音を出し始めて……」

「ええい、何をしておる!はようなんとかせぬか!大筒(おおづつ)を放ち、あれを黙らせるのだ!」

「はっ!直ちに!」


怒り狂うモトナガに、右往左往する家臣達。家臣達が走り回り、再びあの3基の大砲を引っ張り出すノダ軍。

ビル目掛けて、大砲が放たれる。だが、それを青いビームが即座に撃ち落とす。ビルの四隅には、カナエの手がけたKWS(カナエ・ウェポン・システム)が取り付けられていたのだ。

このKWSは、この城への攻撃手段に反応するよう組まれていた。鉄の塀を乗り越えるために掲げられたハシゴや、矢や大砲の弾など、ノダ軍のあらゆる仕掛けを次々に撃破していく。

その間に、外に向けられたモニターはダンス映像から別の映像に切り替えられていた。


『我々、宇宙統一連合は、この1万4千光年の宇宙にある870以上の星のうち、490ほどの星からなる連合体であり、混沌とする宇宙を平和の元に統一すべく、これらの星と……』


突然、宇宙に関する映像が流れ始める。そこには、宇宙から見たこの星の姿や、他の星の暮らし、連合や連盟のこと、そして、たくさんの駆逐艦同士の戦闘シーンなど、彼らの知らない宇宙での出来事が流されていた。


『なんと……美味でござるのう……』


時折、うっとりとした顔で、ショートケーキをお召しになるナツの姿も映される。東国一の美人と謳われたナツのこの姿に、10万もの軍勢は釘付けになる。こんな具合に、次々と異文化の映像が流される。

この調子で真昼間の間は、宇宙統一連合のプロパガンダ映像が流されていた。

その様子を、このビルの最上階から眺めているナツ。


「どうしたの?」

「いや、外の様子を眺めているのでございます。」

「あのイデヨシって人のことが、気になるんでしょう。」

「……この大勢の人の中に、あの方がいらっしゃると思うと、ここから飛び降りてすぐにでも向かいたい気持ちになりまする。」

「分かるけど、あとちょっとの我慢よ。明日にでも、あっちが根を上げてくるわ。そうなれば、ナツは堂々とイデヨシという男の元に行ける世に変わるから。」

「さようになれば、よろしいのですが……」


そうこうしているうちに、日が暮れ始める。だが、この映像と大音響は、日が暮れても止むことはない。

日が暮れると、今度は急に凄惨な映像が流れる。地を埋め尽くす、異形の者の軍勢。それは、オークやゴブリンと呼ばれる魔物の兵達。10万、20万、いや、それ以上の軍が、人間の軍に襲い掛かる。

人間の奮闘虚しく、次々に魔物に撃破される。そして魔物共の軍勢は1人残らず人間の軍を駆逐し、勝利の雄叫びをあげる……

「魔王」という、この宇宙で大人気の映画シリーズが上映され始めたのだ。この映画シリーズの冒頭は、絶望的なほど人間側が負けるという鬱展開。どん底の状況から勇者に賢者、そして剣闘士が集い、魔王の手下を次々に打ち破っていく。

そして最後に、魔王との対決。圧倒的な強さを誇る魔王に、幾度も追い詰められる勇者達。だが、仲間の手助けを借りて、辛うじて勝利を収める勇者達。

魔王を倒し、地上に光が差す。感動のエンディング、荘厳な音楽とともに流れるエンドロール。10万の兵は、この感動シーンに釘付けだ。そして映像は暗転し、映画は終わる。

いや、それで終わらない。

今度は「魔王」の第2作が始まる。再び化け物の大軍が人間側を打ち破る鬱展開から始まり、2時間ほどのストーリーが続く。

それが終わると、再び同じような映画が始まる。この「魔王」シリーズはすでに100作を超えており、いくらでも続きがある。それを一作目から順番に流しているのだ。


そんな映画が一晩中、休みなく大音量のまま、7作分も流された。

そして、その翌朝。


「頼もーう!」


大音量の中、城壁の外から声が聞こえる。それを聞いたアイリーンはスティックにまたがり、その声の主の前に降り立つ。


「何よ。」

右府(うふ)様からの書状を、お届けに参りました!」


そう言って、使者はアイリーンにその書状を手渡す。


「分かったわ、確かに受け取ったわよ。」


書状を受け取り舞い上がり、ビルに戻るアイリーン。ビルに入ってその書状を広げる。


「何よこれ、ミミズの這いずり回ったようなこんな文字、全然読めないわ……」


困惑するアイリーンだが、元々ここの文字はアイリーンには読めない。さらにその崩し文字の字体は、さらに読み取りを困難にしていた。


「この書状を、(わらわ)が読めば良いのでございますか?」

「お願い!全然読めないのよ、これ!」


アイリーンから手渡された書状を読むナツ。


「……本日、誠に良き天気にて(そうろう)。なれど、兵の安穏を妨げるが如く喧騒ゆえに、この晴天に反し、皆の心に暗雲が立ち込めており(そうろう)。なれば昨日(さくじつ)の使者を今一度受け入れたく、申し入れ(そうろう)。空を舞う姫君殿には、直ちに参られたく(そうろう)。」

「……何よ、そうろう、そうろうって!馬鹿にされてる感じね!」

「いや、そうではござらぬ。要するに、アイリーン殿にすぐに本陣まで来て欲しいと書かれておるだけにございます。」

「そうなの?じゃあ早速、行ってくるわね。」


ナツが書状を読むと、アイリーンは手にスティックを握りしめて、外に向かう。それを、エルヴェルトが引き止める。


「おい、アイリーン!哨戒機を出すから、ちょっと待てって。」

「大丈夫よ。あちらからのお誘いなんだから、手を出してこないでしょう。」

「いや、しかしだな……」

「それよりも、あのモトナガって男を迎えられるように、ビルの中をきれいにしてちょうだい。ここに交渉官殿を呼び出して正式な交渉をするつもりだから、頼んだわよ。」

「分かった。じゃあ、今回は待ってるよ。」

「それじゃあ、パパーっと片付けて……」


アイリーンが出かけようとすると、エルヴェルトは突然、アイリーンの手を引く。


「ちょっと、何する……」


怒るアイリーンを、エルヴェルトは抱き寄せる。そしてナツの目の前で、キスをする。

この突然の出来事に、ナツは驚き、赤面する。もがくアイリーン。


「っプハー!って、いきなり何すんのよ!」

「おまじないだよ、いつもの。」

「そんなおまじない、あるわけないでしょう!なんて事してくれるのよ!」

「これで大丈夫だから、安心して行っておいで。」

「じゃあ、行ってくるわよ!まったくもう……」


顔を真っ赤にしながら、ビルを飛び出すアイリーン。手を振るエルヴェルト。


「……仲がよろしいのでございますね、エルヴェルト殿と、アイリーン殿は。」

「ああ、そうだよ。でも僕らは、出会えた事自体が奇跡なのさ。」

「そうなのでございますか?」

「アイリーンと僕の星は、800光年も離れているんだよ。普通だったら、まず出会うことのない人だった。それがどういうわけか、こうして出会えた。」

「は、はあ、それは幸運にございましたね。」

「それから見れば、君の恋人は高々1キロほど先にいるんだ。手を伸ばしたら、すぐに届きそうなところさ。そんな2人が一緒になれないわけがないだろう?」


このエルヴェルトの一言が胸に刺さるナツ。アイリーンの後ろ姿を見送りながら、ナツは城の向こうの想い人のことを考えていた。

そして、アイリーンは颯爽とスティックに乗り、本陣に降り立つ。


「……来たな、空を舞う、こんたくたあとやらよ。」

「来てやったわよ。で、なにかしら、御用とは?」

「あのやかましい音と浮世絵を、なんとかせぬか!おかげで、昨夜は眠れなかったではないか!」

「あの『魔王』シリーズは、この宇宙でも大人気の映画なんですよぉ!?それが一晩で一挙に7作も見られて……あ、あと98作あるので、半月ほどは持ちますよ!」

「たわけが!もうええわ!今すぐあれを止めるんじゃ!」

「ここから、お引きになればよろしいのではありませんか?」

「そうも行くか!天下一統を目前に引いたとあれば、わしの権威に関わること!そういうわけにはいかんのじゃよ!」


それを聞いたアイリーンは、そして、モトナガに尋ねる。


「ええと、右府(うふ)様、でしたっけ?昨日の昼に流した映像を、ご覧になりましたよね?」

「……うむ、宇宙とかいう場所、その中に浮かぶ小さく青い星の、その狭い土地を巡って争っているという、あの絵のことか。」

「そうですよ。天下を取ったところで、それはこの宇宙では大したことにございません。それよりも。」

「なんじゃ。」

「……この星の主導権を、にぎりたくはありませんか?」


ほくそ笑むアイリーンに、モトナガは思わず胸が高鳴る。だが、冷静になってアイリーンに尋ねる。


「そなたが、何を言っているのか、よく分からぬが……」

「簡単ですよ。この星にあるたくさんの国々と我々連合は、これから同盟交渉に入ります。ですが、それらの国に先んじて我々の文化、技術を手にすれば、この星でのあなた様の立場はどうなるか、お分かりでしょう?」

「……なるほど、それが主導権を握らぬか、という言葉の意味か……」


昨日の昼間に流された映像で、おおよその事情を飲み込んでいたモトナガは、アイリーンのこの言葉にのった。

それを見届けたアイリーンは、あの大音量を止めさせて、モトナガとの話し合いに応じる。


「……では、あのコダワラ城のビルにて、交渉官殿とお待ちしております、右府(うふ)様。」

「うむ。相分かった。ところでアイリーン殿よ。」

「なんでしょうか、右府(うふ)様。」

「……あの魔王という映画の続きを、いずれわしに見せてはくれぬか?」

「ええ、なんなら最新作までお渡しいたしますよ、右府(うふ)様。」


この総大将は、天下、いやこの大宇宙のベストセラー映画であるあのシリーズに、すっかり虜になったようだ。それを聞いたアイリーンは、悠々と城に戻っていく。

で、その後はビルの中にて、交渉官を交えた同盟交渉が行われる。もちろん、このモトナガに、ビルの中に運び込まれた様々な食材を堪能させながら。


そしてついに交渉は成立し、10万の兵は撤退を開始する。

コダワラ城は、かろうじて守られた。一夜で建てられた、230メートルのあのビルを抱えながら。


◇◇◇◇◇


それから、2週間が経った。

ここは大広間。大勢の武将が祝い装束を身にまとい、金屏風の飾られた中央の舞台の周りでワイングラスを片手に談笑している。

そこには、トキツネとその家臣、およびモトナガとその重鎮達が集まっていた。つい2週間前まで、槍を交わした間柄が、一同に介する。

その金屏風の前には、ひと組の男女が座っている。

黒袴織に身を包んだ男性と、その横には白無垢をまとい、角隠しを被った女性が鎮座する。

そこに、カクテルドレス姿のアイリーンが現れた。


「いやあ、とってもお似合いよ、イデヨシさんとナツ!」

「お褒めいただき、誠にありがたく……」

「そんな堅苦しい言葉はいいわよ!それよりもどう、この式場は!?」

「広くて、真新しくて、誠に良い場所にございます。しかし、我らごときにかような場所を……」

「いいわよいいわよ!交渉官殿だってOKを出したんだから!」

「それにしてもアイリーン殿、信じられませぬ。ここが宇宙の只中にあるということが……」


ナツは呟くようにアイリーンに応える。そう、ここは小惑星帯(アステロイドベルト)に展開する戦艦の中にある、ホテルの宴会場の一つ。死地を超えて再会し、結ばれることになったナツとイデヨシのために、アイリーンが提案した式場だ。


「あ、そろそろ始まるわね。それじゃあ、後ろで見てるから!」


手を振って、会場の奥に向かうアイリーン。そこに、神職が現れ、この会場の真ん中に設置された神棚(かみだな)に向かう。そこに、イデヨシとナツも向かう。


「掛けまくも(かしこ)きコダワラの大神(おおかみ)、東照の日向(ひむかい)の橋の……」


式が始まり、神職が祝詞(のりと)を唱え始める。それを、厳かに聞きいる会場の人々。

やがて、巫女が(さかずき)神酒(みき)を注ぎ、イデヨシとナツは三三九度を交わす。その様子を見る、エルヴェルトとアイリーン。


「……何だかよく分かんないけど、えらく荘厳でいいわね、こういうのも。」

「ああそうだな。」


アイリーンに応えるエルヴェルト。


「なあ、アイリーン。」

「なによ。」

「僕らもそろそろ、結婚しようか?」

「……あんたねぇ、この雰囲気にかこつけて、この私をたぶらかそうっていうの?」

「なんなら僕は、このままあの2人の後ろに乱入して、そのまま式を上げてもらいたいくらいだよ。どうだいアイリーン、2人であそこに行かないかい?」

「あんたねぇ!」


思わず叫ぶアイリーンを、一同が注目する。それを見たエリシュカが、アイリーンのそばにやってくる。


「アイリーン様、声が大きすぎでございます。もうちょっとお静かにお願いいたします。」

「わ、分かってるわよ。エルヴェルトのやつが変なことを言うから……」


顔を真っ赤にして言い訳するアイリーン。その間も、一時は敵味方であったこの2人の結婚の儀は、滞りなく行われる。

こうして、この宇宙の片隅で、ひと組の夫婦が誕生したのだった。

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[良い点] 第六天魔王が映画『魔王』にはまったでござる(´^ω^) [気になる点] エルヴェルトさん、機動な戦士風に戦場でキスはヤベーよ! エル「お袋の形見なんだ。宇宙(そら)で失くしたら大変だ。預か…
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