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#38 再会

「……というわけで、我々はあなた方の星の人々との同盟を結ぶために、こうして遥々宇宙からやってきたというわけなのよ。」


アイリーンは、ゴウジョウ家の城主と家臣に、この宇宙での実情と彼女がここにきた目的を、持ち込んだ大型モニターを使って話す。しばらく、言葉を失うコダワラ城一同。皆が静まり返る中、城主のトキツネが口を開く。


「……一つ、尋ねたい。何ゆえその話を、滅亡寸前の我らにするのか?」

「何言ってんのよ。我々がきたからには、滅亡するわけないじゃない。」

「いや、すでに落城したも同然のこの城。我らがいうのも妙だが、そのような先の話は、外にいるまさに天下人目前のノダの方にするのが筋ではないのか?」

「いえ、我々は国の大小で交渉相手を決めることはないわ。外にいる軍勢を率いる指導者であろうと、あなた方であろうと、国として存続している限り、我々は分け隔てなく接するの。だから、絶対に滅させやしないわよ。」


この広大な宇宙では、コダワラ城どころかノダ氏の支配域ですら、大海の前の一滴ほどに過ぎないことを知った城の重鎮達。

そこに、士官が1人現れる。


接触人(コンタクター)殿!」

「何かあったの?」

「はっ!城の外にて、不穏な動きがあります!」

「何よ、その不穏な動きって?」

「上空の駆逐艦によれば、大砲らしき兵器を、この城のそばまで移動中とのこと。」

「確かに、不穏な動きね。」

「すでに哨戒機が発進、これを破壊すべく配置についております。」

「そうなの……いや、破壊は待って。」

「はっ?ですが……」

「下手にビーム兵器で攻撃を加えたら、犠牲が出るかもしれないわ。それよりも、そんなものが無力だと思わせた方が、心理的にはダメージが大きいと思わない?」

「はぁ……」

「というわけで、私の哨戒機を、発進させてちょうだい。それで、あの大砲に対処するわ。」

「特別機、でありますか?」

「そうよ。いいものがあるのよ。」


その要請に応じて、エルヴェルト操縦の哨戒機が発進する。


『特別機より接触人(コンタクター)、これより、コダワラ城に着陸する。』


アイリーン専用機が、城のど真ん中の敷地に着陸する。その脇にも3機の哨戒機が着陸し、衣料品などをこの城に持ち込んでいる。


「ああ、エルヴェルト。さっき無線で知らせた通りよ。あの連中、大砲を撃ってくるつもりだわ。」

「らしいな。だから、この機の出番ってわけだ。」

「そうよ。目にもの見せてやるわ!で、カナエは?」

「さっきから、哨戒機内でぶつぶつ言ってるよ。かなりやばいことになってるぞ。」

「いいわよ。この際だから、存分に暴れさせてやりましょう。」


この2人の会話をそばで聞いていたナツは、アイリーンに尋ねる。


「何をするつもりでござるか?」

「ああ、外の軍勢がね、この城に大砲を撃ち込もうとしているのよ。だから、それが無駄だってことを教えてやろうと思ってね。」

「教えるとは……一体、何をするのでござるか?」

「決まってるわ。大砲の弾を撃ち落とすのよ。」

「う、撃ち落とす……?」


ナツには、アイリーンが何を言っているのか分からなかった。大砲の威力は、この攻城戦の最中にナツは嫌と言うほど思い知らされている。外堀の(くるわ)をあっという間に突き崩した大砲の威力を、ナツは一度、見ている。

その弾を落とすなど、何をするつもりなのか?ナツはアイリーンに言う。


「もしや、その哨戒機とやらに何かついておるのでござるか?」

「そうよ。見たい?」

「も、もちろんじゃ!」

「じゃあ、ナツもこれに乗って!」

「は?こ、これに乗る、じゃと?」

「そうよ。乗らなきゃ分からないわよ。」


アイリーンはナツを哨戒機に誘う。だが、得体の知れない空を飛ぶ不思議なこの乗り物に、ナツはためらう。


「さ、すぐに発進するわよ!」

「ま、待たれよ、アイリーン殿!」


ためらうナツの手を引いて、お構いなしに中に引き入れるアイリーン。狭い機内に入るナツ。


「ぐふふふ……愚かなり、地を這う10万の兵士どもよ……我がKWS (カナエ・ウェポン・システム)に抗おうとは、600年早いわ……」


ぶつぶつと怪しげな独り言を呟きながら、キーボードを叩くカナエ。そんなカナエの姿に恐怖を覚えるナツ。


「アイリーン!」


と、さらに奇妙なものが登場する。それは、人の形をしているが、小さく、しかも羽がついている。パタパタと音を立ててアイリーンの方へ飛び、髪の毛に飛び込む。


「こら、カレー!今忙しいのよ!あっち行ってて!」

「アイリーンの髪、気持ちいい!」

「まったく……しょうがないわね。」


この妖精は、アイリーンの事情などお構いなしである。己の欲望を満たせれば、それでいいらしい。そんな奇妙な妖精を見て、ナツはこの哨戒機内の異様さを悟る。

で、よく見ると、背後にメイド姿のエリシュカが控えている。そのエリシュカが口を開く。


「では、出陣でございます、アイリーン様。」

「分かってるわよ!エルヴェルト!」

「了解だ。これより、発進するぞ。」


事情が飲み込めていないナツに構わず、発進するエルヴェルト機。天守閣を越え、みるみる上昇する哨戒機。窓から見下ろすと、城とその周囲を取り囲む軍勢の様子が見える。

天守閣からでは見えなかった、ノダ軍の奥の様子までが丸見えである。3つの大砲が、10人がかりで内堀のすぐそばまで運ばれているのが見えた。

その大砲の周りに、(くい)が打ち込まれている。


「いよいよ来るわよ!カナエ!」

「はいなぁ!KWS、いつでも撃てますよ!」

「対空戦闘用意!哨戒機の高度、100まで下げる!」

神仏照覧(しんぶつしょうらん)!アイリーン様の力、思い知るがいいですわ!」

「アイリーンの髪、柔らかぁい。」


何が始まるのかはさっぱり分からないが、なにやらやばいところに来てしまったと再認識するナツ。と、その時、最初の砲声が轟く。

と、同時に、青白い光が、この哨戒機から放たれる。大砲のすぐ先で、大きな爆発が起こる。


「大砲弾、消滅!」

「続けてくるわよ!」

「大丈夫ですよ!なにせこのKWSは、4096個の超音速の目標を撃墜できるシステムですよ!高々秒速300メートル程度の大砲弾なんて、窓ガラスを這うなめくじのようなものですよ!」


などと話しているうちに、2発目がくる。空中でドーンと何かが破裂する。


「いいねいいね!我がシステムに隙なし!」

「油断しないで!3発目がくるわよ!」


アイリーンがカナエに叫んでまもなく、3発目がくる。だがそれも、なすすべもなくあっという間に撃墜される。


「……まさか、あの大砲の弾を撃ち落としておるのでござろうか!?」

「そうよ。決まってるじゃない。」

「いや……大筒(おおづつ)の弾を落とすなど、あり得ぬことではないか!?」

「そんなことないですよ!この哨戒機の全能力を使えば、あんな弾、いとも簡単に落とせますよ!」


ナツがアイリーンらに尋ねている間にも、次々に発射される大砲弾。だが、それらはいずれも城の手前で撃墜されてしまう。

そんなことが、30分ほど続く。ついに持ち込んだ弾が尽きたようで、大砲の攻撃が止む。


「さてと、ようやく止んだわね。それじゃあ、行ってきますか。」

「行くって、どこにゆくつもりでござろうか?」

「決まってるじゃない、あのノダとかいう武将のところよ。」


アイリーンは立ち上がり、魔女スティックを握り締めてハッチに向かおうとする。そのアイリーンの手を、エルヴェルトが掴む。


「ちょっと!なにすんのよ!」

「アイリーンは、ここに座るんだ。」

「聞いてたでしょう!?今からあの軍勢の本陣に行くのよ!」

「分かっている。このまま、この機で向かうから、アイリーンは残れ。」

「いやよ!私は魔女よ!颯爽と飛んで現れれば、あの連中も……」


意地でも出ようとするアイリーンの腕を、エルヴェルトは引っ張る。


「ちょ……!」

「こんな軍勢の真上を魔女一人飛ぶなんて、心配だろう!いいから、その武将のところまで飛ばさせろ!」

「大丈夫よ!私は宇宙最速の魔女よ!」

「僕が心配だと言ってるんだ!アイリーンが飛び出すたびに、僕はいつもハラハラしながら見てるんだぞ!」


いつになく強引なエルヴェルトに、助手席に戻るアイリーン。


「しょ、しょうがないわね……今度だけは、あんたに任せたわよ……」

「では、任されます。接触人(コンタクター)殿。」


哨戒機は前進する。10万の軍勢の後方、大きな陣幕が見える。その陣幕目掛けて、哨戒機が飛ぶ。

驚く兵士達を押し除けつつ、本陣らしきその場所の横に強行着陸する哨戒機。周囲の兵士達が、一斉に槍を向けて威嚇する。


「随分と警戒されてるわね。」

「そりゃあそうだろう。こっちの大砲の弾を叩き落としたんだからな。」

「うわぁ……や、槍持ってますよ……」

「何を驚いているのですか、カナエ殿。ここは戦場ですよ、当たり前でしょう。」

「さてと、じゃあ今度こそ本当に行ってくるわよ。みんな、ここで待っててね。」

「僕もついて行きたいけどな。」

「ダメよ!あんたは何かあったら、すぐにこの機を発進させるのよ!」

「分かってるよ。だけど、心配だなぁ……」


さすがにエルヴェルトは、アイリーンと自身の役割をわきまえている。ここでエルヴェルトが出れば、エルヴェルト自身に何かあったときに、カナエやエリシュカらを守れない。

アイリーン自身は、何かありそうなら自力で飛んで逃げられる。何よりも、アイリーンは接触人(コンタクター)だ。これ以上は、エルヴェルトには引き止められない。


「じゃあ、何かあったら連絡するね!」


アイリーンはハッチに手を触れる。開けようとしたその時、引き止められるアイリーン。


「待たれよ!」


叫んだのは、ナツだった。


「何よ!」

(わらわ)も参る。」

「はあ!?何言ってんのよ、危ないわよ!そんなことさせるために連れてきたんじゃないし!」

「この戦さ、我らゴウジョウ家とノダの戦いである。その当事者が行かぬとあっては、命を落とした多くの兵に申し訳ない。」

「いや、そんなの考えなくてもいいわよ、だから……」

(おなご)でも活躍できると申したのは、アイリーン殿ではないか!(わらわ)では、役に立たぬと申すのか!?」


それを聞いたアイリーンは一瞬、言葉を詰まらせる。そして、ナツに応えた。


「……分かったわ。でも、もしかしたら生きて帰れないかもしれないのよ?」

「アイリーン殿がいなければ、すでに(わらわ)の身は、あの城門の前で尽きておりまする。」

「そう、じゃあ行くわ。カナエ!」

「はいなぁ!」

「2人じゃバリアシステムが使えないから、KWSを対人兵器モードに切り替えてちょうだい!」

「了解であります!アイリーンさんを襲う輩は、木っ端微塵にしてご覧に……」

「武器だけね!武器だけにしてね、そういうのは!」


カナエに守りを託した後、アイリーンはハッチを開ける。外の兵が一斉に、槍を突き出す。


「私の名はアイリーン!宇宙統一連合から来た接触人(コンタクター)!ここの偉い人に面会を望むわ!誰か、取り次いでくれないかしら!?」


槍を構えたまま、兵達は微動だにしない。降りてきたのは女2人、一人は変わった服装だが、もう一人は着物姿の姫君。いずれも、丸腰である。どう対処すればいいのか、兵達は計りかねている。


「ちょっと!使者との面会も拒むって言うの!?」


と、そこでアイリーンが叫ぶ。基本的に、兵士というものは態度の大きな人間に従うよう教育されているものである。このアイリーンの言葉に、兵の一人が反応する。


「い、いえ、決してそのようなことは……」

「だったら、それなりの人を連れてきなさい!」

「はっ!直ちに!」

「それからあなた達!使者に対する礼儀ってものはないの!?ノダの大将は、礼儀知らずな田舎侍ってわけ!?」


このアイリーンの恫喝に、兵士達は槍を引き、整列する。


「……よろしい。」


アイリーンのこの一言に、なぜか安堵する兵達。そこに、いかにも豪華な鎧兜をした人物が現れる。


「我は、右府(うふ)様が家臣、ハシナ・イデヨシと申す者!そなたらは、ゴウジョウ家の使いであるか!?」


それを聞いて、アイリーンはナツに尋ねる。


「なによ、ウフって?変な名前ね。」


ナツに尋ねるアイリーンだが、ナツは固まって応えない。イデヨシをじっと見つめたまま、言葉も発せずただ立ち尽くしている。

その静寂を打ち破ったのは、イデヨシの方だった。


「も、もしや、ナツ殿ではござらぬか!?」


それを聞いたナツは応える。


「2年ぶりにございます、イデヨシ様。」


敵味方に分かれているこの2人が、思わぬ再会を果たしたようだ。

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