表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

#33 妖精

「さてと、ここからは油断禁物よ。妖精が現れるから、気をつけて。」

「わ、分かったわよ。」


アイリーンに忠告すると、マイリスと共に歩き出すクラーラ。その後ろをついていくアイリーン。

見たところ何もいない。静かなものだ。本当に警戒すべき相手がいるのか?

などと考えていると、それは現れた。


「……ふふふ、ふふふ……」


奇妙な笑い声が聞こえる。アイリーンは、ふと見上げる。


森の木々の間を、羽の生えた奇妙なものが飛んでいる。それは30センチほどの大きさで、人の形をしている。

そんなものが、10、いや、20匹ほどだろうか?木々の間から次々と現れる。


「まあ、人間よ、人間。」

「本当だ、人間だわ。汚らわしい……」


随分と口の悪い妖精だ。一瞬、額がピクっとするアイリーン。

だが、ここでクラーラの忠告を思い出す。下手に動揺すれば、取り込まれると言っていた。アイリーンは、脳内で呟く。


(静かなること林の如く、静かなること林の如く……)


エリシュカの言葉を思い出し、それを心の中で唱えるアイリーン。だが、妖精らは勝手なことを言い始める。


「げぇ……火の魔導士がいるわ。」

「うわぁ、汚らわしい。」

「だけど、こっちは見たことがない人間よ。」

「本当だ、なにこれ?どうして入ってこられたのかしら?」

「さあね、わかんないけど、面白そうよ。」


なぜか、アイリーンの元にわらわらと妖精が集まってくる。そして、アイリーンの長い髪を引っ張り始める。


「うわっ!面白いわ、これ。」

「柔らかい髪、エルフよりも、触り心地いいわ。」

「見て見て!ほっぺたも柔らかいわよ!」


次々と集まる妖精達。アイリーンの髪の毛や顔をベタベタと触り出す。

心の中でエリシュカの言葉を念じながら、アイリーンはクラーラとマイリスの方を見る。不思議なことに、あの2人には妖精は群がってはいない。

マイリスは、おそらくここの住人だから、妖精にとって興味がないのだろう。だが、なぜクラーラには妖精が来ないのか?

そんなことを考えているうちに、徐々に妖精達の悪戯がエスカレートしていく。

アイリーンの手足にまで群がる。指や耳を引っ張ったり、太ももにあたりを物色する妖精まで現れた。

我慢の限界に達しかけたその時、胸元に取り付いた妖精が、こんなことを口走る。


「見てこの人間、胸が小さいわ。」


この一言で、アイリーンはついにブチ切れる。


「っさいわね!!余計なお世話よ!」


この一言で、アイリーンに取り付いていた妖精達がわっと離れる。が、すぐにアイリーンの周りを回り始めた。


「汚らわしい人間!追い出さなきゃ!」

「そうよ、追い出さなきゃ!」


無数の妖精が、アイリーンを取り囲む。そして、一斉に襲いかかる。それを振り払うアイリーン。だが、後から後から妖精が身体にしがみついてくる。


(まずい、取り込まれる!)


危険を察知したアイリーンは、スティックを取り出してまたがり、宙に浮く。すると、妖精達は叫ぶ。


「何この人間、空を飛べるの!?」

「妖精じゃないのに、生意気な!」


この一言が、かえってアイリーンを奮起させる。


「うっさい!空飛ぶだけじゃないわよ!捕まえられるものなら、捕まえてみなさいよ!」


森の木の上でわらわらと群がる妖精達を振り切るように、アイリーンは増速する。

アイリーンは、エリシュカの言葉を唱える。


「疾きこと、風の如く!」


一気に速度を上げたアイリーン。アイリーンにしがみついていた妖精の何匹かが、その勢いで吹き飛ばされる。

すでに時速200キロに達していたアイリーン。だが1匹だけ、胸元にしがみついていた。


「しっつこいわね!いい加減、離れなさいよ!」

「いや……いや……」

「いい根性してるわね!いいわ、こうなったら、是が非でも振り切ってやるわ!」


そう叫ぶと、アイリーンは上昇に転じる。速力は、すでに270キロに達している。

そして、高度2000メートルに達する。妖精が追ってこないのを見たアイリーンは、そこで停止した。


「ちょっと、あんた!いつまでつかまってんのよ!離れなさい!」


胸元にしがみついたこの1匹を掴み、剥がしにかかるアイリーン。だが、その妖精はアイリーンに嘆願する。


「やめて……ここで下されたら、死んじゃう……」

「何言ってんのよ!あんた、空飛べるでしょうが!」

「こんな高いところ、無理……」

「高々2000メートルの、どこが高いのよ!」

「妖精は地面から湧き出す魔力で飛んでるの……こんな高いところでは、飛べない……」

「何よそれ!?ほんとなの!?」


掴んだ妖精の顔を見ると、顔色が真っ青だ。羽をバタバタさせているが、確かに揚力をほとんど感じない。

それを見たアイリーンは、なんだか気の毒になる。そして、その妖精を胸に抱えて、アイリーンは一気に降下する。


「ひええええっ!」

「ちょっとくらい我慢しなさい!叫ぶと手、離すわよ!」


そして一気に森の木の上まで降下すると、木々の上で止まる。


「ほら、着いたわよ。ここなら飛べる?」

「は、はい、なんとか……」


そばには、心配そうに見る無数の妖精がいた。その群の中に、ふらふらと飛んでいくその妖精。

それを見届けたアイリーンは、地上に降りる。


「……やっぱり、こうなったわね。」


クラーラが、アイリーンに呟く。


「何よ、見透かしたように言ってくれるわね。」

「そりゃそうよ。私も2年前に、同じようなことをやったから……」


そしてクラーラは、ふと森の木を指差す。そこには、真っ黒に焼けた木の根元だけが残されていた。アイリーンは、察する。


「……だから、あんたにはあの妖精が群がらないのね。もしかして、最初に会った時に私の力を見極めるって言ってたけど、こういうことだったの?」

「そうよ。ここで妖精を振り切れないようでは、この先には進めないわ。」

「それじゃあ、振り切れなかったら、どうなってたのよ。」

「簡単よ。妖精が寄ってたかって、あの入り口に放り込まれていたわ。」


要するにあの妖精の役割とは、間違ってこの世界に入り込んだ人間を排除することだったようだ。だから妖精を手なずけなければ、この先には行けない。

アイリーンの力を知った妖精達は、距離をおく。距離を取りながらも、わらわらとついてくる。


「あの人間、怖い……」

「火の魔導士よりおっかない。エルフの矢よりも速いなんて、化け物だわ……」


だが、もはやアイリーンは黙ってはいない。


「うるさいわね!もう一回、勝負したいの!?」


それを聞いた妖精達は、アイリーンから離れる。だがしばらくすると、懲りもせずにまた集まってくる。

好奇心が旺盛なのだろう。思ったことを全部喋るから不快に思うだけで、アイリーンのことが気になって仕方がないようだ。


「……あの髪の毛、もう一回触りたいなあ……」


ある妖精が呟く。すると、アイリーンが振り向いて、キッと睨みつける。再び緊張する妖精達。


「……いいわよ、髪の毛くらいなら。」


アイリーンのこの言葉を聞いた妖精は、わっとアイリーンの髪の毛に群がる。


「うわぁ……この髪の毛、柔らかすぎ……?」

「ほんと、巣に持って帰りたい。」

「胸が小さい分、ここがふくよかなのかな?」

「でもほんと、柔らかいなあ、この髪の毛……」


勝手気ままな妖精達は、勝手なことを口走りながらも、しばらくアイリーンの髪の毛に群がっている。よほどアイリーンの髪が気に入ったらしい。


「いいの、あんた。頭に妖精がいっぱいついてるわよ?」

「いいわよ、別に。これくらいなら、気にしないわ。」


そして頭にたくさんの妖精を集めたまま、森の奥へと進むアイリーン達。そしてついに、行手に何かが見えてきた。

家だ。木の上に、家がある。そしてそこには、たくさんの人々がいる。

いや、それは人ではない。マイリスと同じエルフだ。耳の長い種族が10人ほど、歩いている。

そんなエルフを見て、ここが異なる世界なのだと認識するアイリーン。彼らのその姿に、驚きを隠せない。

だが、驚いたのはむしろ、エルフの方だ。

頭にたくさんの妖精をはべらせて歩くこの人間。おそらく、200~300年は生きているであろうエルフらも、初めて見る光景だ。

妖精らをはべらせたまま、奥にある一際大きな家に向かう。

その家の前に立つ人物が見える。


「……まったく、これまで妖精を震え上がらせた人間はいたが、まさか妖精をはべらせる人間が現れるとはな。」


いかにも、老人のエルフだ。おそらく、600歳は下らない。

その老エルフの姿を見た妖精達は、一斉にアイリーンから離れて森に帰っていく。

その老エルフを見たアイリーンは、クラーラに尋ねる。


「まさか、あのエルフが……」

「そうよ、あれがエルフの(おさ)よ。」


ついに接触人(コンタクター)は、この里の指導者に接触する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ