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#27 混浴

「……ああ、なんと言うことでしょう……(わたくし)としたことが、戦場で意識を失うなど……」


両手で顔を覆いながら、嘆くエリシュカ。それを見ていたアイリーンは、ニヤニヤしながらエリシュカの肩を叩く。


「あんたも人間なのよね。今回、それがよく分かったわ。」

「情けないです……騎士であるエルヴェルト殿は終始、気丈に振る舞われたというのに、王族付きの侍女ともあろう者が、なんという失態……」

「気にしなくていいわよ。侍女なんて普通、そういうものよ。それよりもほら、いくわよ。」


駆逐艦4330号艦は今、補給のために戦艦ズムウォルトという、全長4500メートルの艦の第2ドックに接舷している。交渉官に次ぐ権限を持つ接触人(コンタクター)を乗せている艦ということもあり、この戦艦の艦橋近くのドックに接舷することとなった。


カ「今回は、艦内電車に乗らずに済みますね。」

ア「そうよねぇ、街に向かうのに電車に乗らずに済むのは、ほんと楽だわ。」

エル「この間の寄港時には7駅も乗る羽目になって、次から次へと人が乗り込んできて大変だったよね。」

カ「ええ、でも私にとっては、故郷の星を思い出しますよ。満員電車に揺られてコミケに行った思い出を。」

ア「なによそれ?私のところには、電車そのものがないわよ。」

カ「ええーっ!?じゃあ、アイリーンさんの星ではみんな、どうやって移動するんですか?」

ア「自動運転のバスに、ちょっと遠くに行くには空中遊覧船かな。」

カ「ああ、そういえばアイリーンさんの星は元々、文化レベル2の星ですもんね。空飛ぶ大型船があるのに、わざわざ線路を引く必要ないですからねぇ。」

ア「ああーっ!カナエ、今、私の地球(アース)760のこと、バカにしたでしょう!」

カ「いいえ、してませんよ~っ。ただ、のどかでいい星だなぁと言ってるだけで。」

ア「ぜっったいバカにしてるわよ!なによ、魔女がいない星にいたくせに!」

エリ「アイリーン様、お静かに願います。みっともないですよ。」


戦艦に接続する通路を抜けて、艦橋の横を通る。その横に、5基のエレベーターが並んでいる。その一つに乗り込むアイリーン達。

長いエレベーターで降った先は、ホテルのロビーの前だった。ここは、戦艦ズムウォルト内のホテル。アイリーン達は一晩ここで過ごし、翌日には地球(アース)434の交渉官と接触、この先の未知惑星での交渉に関する打ち合わせを行うことになっている。

そのロビーでチェックインし、荷物を部屋に置いて再びホテルのロビーに集まる4人。そのロビーの窓から外を見る4人。


「うわぁーっ!いつ見ても、いい眺めですねぇ!」


カナエが叫ぶ。その目線の先にあるのは、高さ150メートル、400メートル四方の空間に押し込められた4階層からなる階層都市だ。

各階層に、人々が歩いているのが見える。一番下の階層には道路があり、タクシーが走り回っている。天井には太陽灯が備え付けられていて、24時間照らし続けている。

アイリーン達にとっては、今は夜の7時ごろ。だがここは、年中昼間。街の多くは商業施設であり、24時間、どこかの店が営業している。

このホテルのロビーは艦橋の真下にあり、この街を見下ろす最上階に存在する。ロビーから街を見下ろしながら、スマホで店の情報を調べるアイリーン。


「じゃあ、まずはこの店に行くわよ!」

「この店って……どこに行くんですか?」

「決まってるじゃない!食事よ!夕食を食べるのよ!」


アイリーンが3人に、スマホの画面を見せる。そこに映っているのは、ハンバーグステーキの店だった。


「ええーっ!?またハンバーグですかぁ!?」

「いいじゃない、別に。この店、この街でもとっても評判いいわよ。」

「アイリーン様。そこにはピザかサンドイッチはありますか?」

「うーん、ピザはさすがに……あれ、あるわよ。ハンバーグステーキの店なのに、ピザもやってるって。」

「では、(わたくし)はその店でよろしいです。」

「そうだな。僕もそこでいいや。」

「ええーっ!?たまにはラーメン屋とか和食の店とか、そういうところにも行きましょうよ!」

「明日、私が仕事中に行けばいいじゃない!ったく、グズグズ言ってないで行くわよ!」


この強気な女主人に引っ張られて、街へと繰り出す一行。再びエレベーターに乗り込み、第2階層まで降りる。

エレベーターを降りると、歩道を歩くたくさんの人々が見える。戦闘直後ということだけあって、補給のためこの戦艦に接舷している駆逐艦がたくさんおり、その乗員がこの街に押し寄せている。さらにここには、2万人もの住人も暮らしている。

大勢の人々でごった返す街を歩き、お目当ての店を探し出すアイリーン。ガーリック特有の香りが、店の外まで漂ってくる。


「うわぁ、ここ、とても美味しそうな匂いがしますね。」

「だから言ったでしょう、ここがいいって。私の目に、狂いはないわ。」

「そうかな。この間の店はいまいちだったような……」

「な、なによ!たまにはハズレの店に行ってみないと、いいお店のありがたみが薄れるでしょうが!」


この騒がしい4人組は、店の奥に通される。大きめのテーブルに陣取る接触人(コンタクター)一行は、早速注文をする。


「じゃあ、私はこの粗挽きハンバーグステーキの400グラムね!」

「私は、和風おろしハンバーグの400グラムで。」

「僕はこの、ジャーマンステーキの400グラムかな。」

(わたくし)は、ジャーマンビーフ & フィリーチーズピザのLサイズで。」


しばらくして、届いた料理をガツガツと食べ始めるこの4人。


「なによエルヴェルト、あんたのそのステーキ、硬そうな肉ねぇ。」

「何を言うんだいアイリーン、そこがいいんじゃないか。」

「いやあ、和風ハンバーグがあってよかったですね。おいしいですよ、これ。」

「城壁のように高いピザの耳、そのすぐ内側に重厚なチーズ、そして中央部には重要拠点であるひき肉。そのチーズの下には、野菜と干し肉を忍ばせているとは……なんという不意打ち、どこまで防御戦術的なピザなのですか、これは……」


会話なのか、独り言なのかわからないが、とにかくぶつぶつとうるさい4人の食事が続く。

さて、食事を終えて街に出る。ホテルの方に向かって歩き出すアイリーン達。


「アイリーンさん、このまま帰るんですか?」

「そうよ。だってカナエ、今、私達の時間は夜の9時よ。」

「それはそうですけど、もうちょっといてもいいんじゃないですか?」

「うーん、そう言われてもねぇ。別に寄りたいところなんて……」


などと話していると、目の前に大きな店が現れた。

店というより、そこは何かの施設のようなたたずまい。アイリーンは、スマホでその店をチェックする。


「……ここ、個室浴場だってさ。」

「個室浴場!?てことは、お風呂があるんですか、ここ!?」

「そうみたいね。ただ、ここは大浴場ではなく、個室風呂がたくさんある浴場だって。星間物質を使った温泉に、岩盤浴やサウナまであるってさ。」

「うわぁ、入りたいです、お風呂!いつもホテル内の小さなお風呂や、駆逐艦内の殺風景な共同浴場しか使ってないですから、そういう変わったお風呂に入りたいです!」

「そうねぇ。どうせこのまま帰っても、お風呂には入るわけだし……」


ということで、ここで風呂に入ることに決めたアイリーン。カウンターに行き、4人は個室浴場の一つに通される。

そこには、5人程度まで入れる湯船に、岩盤浴、1人用サウナ、そして水風呂。個室と呼ぶには、随分と至れり尽くせりな浴場である。

ただ、星間物質入り温泉と書かれているが、要するに小惑星から採取した鉱物を使った温泉だった。「星間物質」と呼ぶのはいささか大げさすぎる気もするが、アイリーン達はそんな細かいことは気にしない。

そんな細かいことよりも、もっと重大なことにアイリーンは気づく。


「はっ!ちょっと待って!何か、おかしくない!?」

「ええ、おかしいですよ、アイリーンさん!」


脱衣所で、アイリーンとカナエが叫ぶ。


「どうしたんだい、アイリーン。」

「どうしたもこうしたもないわよ!なんでここに、あんたがいるのよ!」

「だって、4人でお風呂に入るっていうから……」

「いや、どうして女3人に、男が1人いるのよ!」

「そうですよ!なんだってエルヴェルトさん、ここにいるんですか!」

「いやあ、そんなこと言われても……大浴場ならともかく、こんな小さな浴場なら、別に混浴はいいんじゃないのか?」


そういえば、エルヴェルトがいた星では、まだこの辺りの風紀が曖昧な星だった。だからエルヴェルトは、なんの迷いもなくアイリーン達についてきた。

さらにもう一人、エルヴェルトに加勢するものがいる。


「風呂場を男女で分けるなど、そっちの方がおかしくはありませんか?」

「はあ!?ちょっとエリシュカ、あんた何言ってんのよ!」

「我が王国にあった民衆浴場は、皆、男女混浴でございました。むしろ、駆逐艦の共同浴場が分かれていることに、(わたくし)は違和感を覚えますが。」


さらに遅れた文化からやってきた人物が、話をややこしくする。


「いや、だけどさ……」

「この際は、エルヴェルト殿を追い出す方が不公平というものです。我々は4人、固い結束の上で団結した接触人(コンタクター)集団。風呂ごときで、なにをためらうことなどございましょうか?」


食べ物の嗜好も、文化的概念も大きく異なるこの4人に固い結束などとよく言うわ、とアイリーンは思う。だが、確かにエルヴェルトだけを外すのは不公平だ。渋々同意するアイリーン。


と言うわけで、なぜか女3人に男1人が、同じ浴槽に入る。


エル「いやあ、温泉というだけあって、いい香りがするなぁ!」

ア「……あんたさぁ、ちょっと黙っててくれない?」

エル「どうして?」

ア「いや、なんていうかさ、いくら同意したとはいえ、やっぱり男女が同じお風呂にいるのって、ちょっとね……」

エル「そうかい?でもホテルじゃ、いつも一緒にお風呂に入ってるじゃないか。」

ア「ば、バカ!そういうことは、こんなところで言わない!何考えてるのよ!」

カ「アイリーンさん、今さら隠しても無駄ですよ~。私とエリシュカさんが、知らないとでも思っているんですか?」

ア「うう……そうよね……まあ、ここにはこの4人しかいないわけだし。」

エリ「とある武将が申されたそうです。1本の矢はたやすく折れるが、3本束ねれば、易々とは折れない。ゆえに、団結せよ、と。ましてや我々は4人。決して折れることのない、鉄の結束で結ばれたこの4人ならば、いかなる困難にも耐えられることでございましょう。」


あまり鉄の結束を感じられないこの4人は、白く濁ったお湯から漂う香りに包まれながら、風呂を満喫する。


「ところで、アイリーンさん。」

「なによ。」

「アイリーンさんの胸って、やっぱり小さいですよねぇ。」


カナエのこの一言が、アイリーンにぐさりと刺さる。


「ちょ、ちょっと!あんた何言い出すのよ!別に小さくったっていいでしょう!」

「いやあ、これで満足してるんですかねぇ、エルヴェルトさんは。」

「ああ、僕は満足しているよ。むしろ僕は、これくらい小ぶりの方が好きだなぁ。」

「へぇ、そうなんですか……」


カナエは、アイリーンよりは一回り大きめなサイズ。そんなカナエが、エリシュカの後ろに回り込む。


「ところでエルヴェルトさん、知ってましたか?」

「何をだい?」

「実はエリシュカさんですね……お胸のサイズが、大きいんですよ!」


と、突然カナエは、エリシュカを抱き上げる。お湯の中に隠れていた、上半身前面部があらわになる。


「あはは、本当だ。アイリーンのは可愛いけど、エリシュカのは顔に似合わず、とても大胆だなあ。」


そんなエリシュカを笑顔で見るエルヴェルト。


「ななななにをするんですか!?」

「うーん、やっぱりこの3人の中では、あなたが最大級だよねぇ、エリシュカさん。」

「ちょ、ちょっと、離して下さい、カナエ殿!」

「さっきの艦隊戦といい、この狼狽ぶりといい、エリシュカさんも、もっとご自分を出さないといけませんよぉ~。」

「いや、このようなものは、殿方の前で大っぴらに見せびらかすようなものではございません!ちょっと、離して下さい!」


じゃばじゃばと暴れるエリシュカに、呆れ顔で眺めるアイリーン、それを微笑ましい顔で見守るエルヴェルト。

その後4人は岩盤浴にサウナを楽しみ、浴場の売店で買ったイチゴミルクを飲み干し、つやっつやな頬でホテルへと戻るのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女性三人と混浴とは、なんというご褒美。エルさん 裏山! カナエ「私達の胸をみたんだからエルヴェルトさんのも拝見っ!さぁ、スタンダッ!…プ」 エリ「くっ、…カナエさん笑っちゃ、…駄目よ」…
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