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#21 尋問

「幸い、骨には異常がないようじゃな。一晩もすれば、自力で歩けるようになるじゃろうて。」


診療所の医師がラルフに告げる。お礼を言って、診療所を出る。

外には、あの4人が立っていた。


「どうだった?」

「ああ、大した傷ではないそうです。明日には、杖なしで歩けるだろう、と。」

「そうよねぇ、やっぱり大したことなかったじゃない!銃で撃たれたくらいで気絶した誰かさんとは、大違いね!」

「はははは、アイリーンは相変わず手厳しいなぁ。」


ラルフそっちのけで、エルヴェルトに罵声を浴びせるアイリーン。


「まあまあ、アイリーンさん。そういうことはお二人の時にやってくださいよ。ところでラルフさん。」

「なんでしょう?」

「お食事、行きませんか?」


にこやかに微笑むカナエに、言いようのない不安感を覚えるラルフ。食事の後に、何をするつもりだろうか。いや、食事と称して、何をされるのだろう?せっかく生き残った自分だが、果たしてここから生きて帰ることができるのだろうか?そんな考えばかりが、脳裏をよぎる。


「そうよね、もうお昼だし、何か食べましょう。」

「賛成だ。じゃあ僕はまた、照り焼きチキンにするかな。」

「私は、カレーライスがいいですね。」

「では(わたくし)は、サンドイッチで。」

「あんたらねぇ、なんだってそんなジャンクな食事ばかりするのよ!」

「そういうアイリーンだって、またピザだろう?」

「いいのよ、ピザは!ピザは野菜なんだから!」

「で、ラルフさんは、何が食べたいです?」


急に話を振られたラルフだが、そもそもここの食べ物を知らない。


「ええと、自分はいつも蒸したジャガイモのスープに乾パン、運が良ければソーセージか干し肉がつく程度です。」

「何よそれ?イモばっかり食べてるの?」

「戦場ですからね、仕方ありません。」

「まったく、よくそんなので我慢できるわね!いいわ、こっちの軍隊の食事ってやつを見せてあげる!ついてらっしゃい!」


なぜか急に仕切り始めたアイリーンの後をついていく、3人の補佐と二等兵。診療所のある最上階からエレベーターで8階に降り、食堂へと向かう。

その途中には、洗濯室がある。そこで動く腕だけの無機質な洗濯用ロボットを、ラルフは目にする。ここが宇宙人の乗り物の中であることを、自覚せざるを得ない。


「ほら、ついたわよ。ラルフさん、何を食べるの?」


食堂の入り口に立つ。そこにあるのは、大きな看板。不思議なことにその看板は、手の動きに合わせて絵が動く。


「この中から、食べたいものを選ぶのよ。」

「あの、選ぶって……」

「こうすればいいの。ちょっと見ててちょうだい。」


アイリーンは、さーっとその画面をめくり始める。大量のチーズにベーコンやバジルの載ったピザの絵が出てくると、アイリーンはその絵にポンと触れる。


「これであとは、トレイを持ってカウンターに向かうの。すると食事が出てくるってわけ。」

「は、はあ……」

「簡単でしょ?じゃあ、好きなの選んで。」


ラルフは恐る恐るその看板に手を触れる。手を振るたびに、画面がチラチラとめくれる。そしてラルフは、ある料理に目が止まった。

切り分けられたアルテンソーセージに、フランクフルトソーセージとフライドポテトが載せられたその料理の写真。思わずラルフは、それをタッチする。


「あら、ソーセージがいいの?」

「美味しいですよねぇ、ソーセージ。私もソーセージにしようかなぁ。」

(わたくし)は初心貫徹で、サンドイッチを。」

「じゃあ僕は、たまには照り焼きハンバーグにするかな。」

「なによ、エルヴェルト!結局、照り焼きじゃない!」


賑やかな4人とともに、トレイを持って奥のカウンターで並ぶ二等兵。


「ところで、ここの料理は誰が作っているのでしょうか?」

「ああ、ほら、奥を見てごらんなさい。」


アイリーンに促されて、カウンターから奥を覗くラルフ。そこには、先ほどの洗濯用ロボットと同様の、腕だけの調理ロボットが2体、動いていた。


「最初見たときは驚きましたよねぇ。まさかロボットが料理しているだなんて。」

「気味が悪いけどさ、あれのおかげで僕らはいつでも料理が食べられるんだと思うと、慣れちゃうよね。」

(わたくし)はまだ慣れませんね。むしろ、敵意すら感じます。侍女のプライドにかけても、あのロボットには負けまいと。」

「調理くらい任せればいいわよ。人間じゃなきゃできない仕事だって、たくさんあるんだから。」


などと話しているうちに、食事が出てくる。温かい食事。戦場では、およそ感じることのない、温かみのある料理だ。それを持ち、5人はテーブルにつく。そしてラルフは、そのソーセージ料理を口にする。


なんということか。故郷の味そのものではないが、懐かしい風味がする。ラルフの脳裏には、故郷の街の光景が浮かんでいる。

ラルフはこの戦場に来る前は、大工の見習いだった。

ちょうど仕事に慣れた頃だった。戦争が始まり、20歳の若者は皆、召集された。

戦場に旅立つ前に、彼の恋人の作ったソーセージ料理を口にした。この料理はまさに、その時の味を彷彿とさせる。

だが、ここは戦場だ。しかし自分はまだ生きている。早く戦争が終結して、故郷に帰りたい……

などと考えるラルフに、アイリーンが口を開く。


「さてと……食事しながらだけど、ラルフさん、ちょっといいかしら?」

「は、はい、なんでしょうか?」

「これから、あなたを尋問するわ。ちゃんと答えてちょうだいね。」

「じ、尋問……?」


突然、アイリーンがラルフに詰め寄る。そして、ピザを一切れ食べながら、アイリーンは尋ねる。


「さてと。じゃあまずは、ここの戦場のことね。ここで戦っているのは、どういう国なのよ?」

「え、ええ、一方が自分の所属するザクセン帝国で、もう一方はそれに敵対するフランソワーヌ王国と言います。かれこれ1年以上、両者はここで戦っているのです。」

「ふーん、ザクセン帝国に、フランソワーヌ王国……ね。でも、なんだってこんなところで戦争してるのよ?」

「はい、それが……自分にもよく分からなくてですね。」

「はあ!?まさか、理由もなく戦ってるの!?」

「いえ、そうではありません。事の発端は、ザクセン帝国の皇太子が突然、殺されたことなのです。」

「……なんで皇太子が殺されると、戦争になるのよ。」

「その皇太子を撃ったとされるのが、隣国のフランソワーヌ王国の手のものだったというのです。それで帝国は、フランソワーヌ王国に宣戦を布告して……」

「それじゃあ、まさかその報復のために戦争を?」

「はい。帝国としても、懲罰的措置として王国に打撃を与え、講和に持ち込むつもりだったようです。が、その動きに、フランソワーヌ王国の同盟国であるイリジウム王国が同調してですね。」

「なによそれ、戦線が拡大しちゃったっていうわけ?」

「それだけじゃないです。今度はザクセン帝国に同調したフェラーリン共和国も、フランソワーヌ王国に宣戦を布告してですね……いつのまにか、気づけば8カ国を巻き込む大戦へと発展してしまったのです。」

「……うーん、なんてことよ。困ったわね。まさかそんなに大きな戦争だったなんて。」

「ただ、ここレヴァクーゼン平原は、その中でも最大の激戦地です。この向こうには、フランソワーヌ王国の王都パレスがあります。この西部前線を突破すれば、我が帝国の勝利は間違いないと言われているんです。それで自分はここで1年以上、戦い続けているんです。」

「なるほど、じゃあつまり、この場所の戦闘さえなんとかすれば、もしかしたら戦争も終わるかもしれないって事?」

「いや、さすがにそこまでは……ですが、多大な影響を与えるのは、間違い無いと思います。」

「ふうん、分かったわ。」


アイリーンはピザを食べながら、何やら思考し始める。すると今度は、カナエが口を開く。


「ねえ、ラルフさん。今度は私が尋問しても、よろしいですか?」

「は、はい。どうぞ。」


どうしてこう立て続けに尋問されなくてはならないのか。少しラルフはうんざりしながら、カナエの質問を待つ。


「ラルフさんって、彼女、います?」

「えっ?彼女?」


まったく思いがけない質問に、一瞬戸惑うラルフ。


「……ええ、実は故郷に、結婚を誓った者がおります。」

「ええーっ!?ほんとですかぁ!?」

「はい、実はこのソーセージ料理も、よく彼女が作ってくれたんですよ。だから思わずこれを見て、食べたくなって……ですが、すでに1年以上離れ離れに暮らしてます。今は時々、手紙でやり取りするだけなんですよ。」

「いやあ、ロマンがある話ですねぇ!恋人のために、前線で戦う男ラルフ!健気に待つその恋人!アニメ化したら大ウケですよ!」

「んなわけないでしょう!あんたねぇ、ここでどれだけの人が死んでると思ってんの!それこそ、故郷で待つ恋人に会えずに死んじゃった人だってたくさんいるのよ!だいたい、昨日まで格納庫で怪しげな工作してたあんたに、ロマンだとかそんなこと、言われたかぁないわよ!」

「いやあ、楽しいですよ、工作。実はですね、哨戒機にちょっと細工したんですよ。」

「はあ~!?あんた、何勝手に人の機体に、怪しいことやってくれてるのよ!」

「いや、絶対に役立ちますって!私が保証します!」


急にラルフそっちのけで喧嘩を始めるアイリーンとカナエ。


「いやあ、アイリーンは元気だなぁ。怒ってる時が、一番輝いてるよねぇ。」

「それにしてもこのサンドイッチという料理は、よく考えられてますね……書物を読みながらでも食事ができる。まさしく、理想の食事です、これは。」


そんな2人を微笑ましく眺めるエルヴェルトと、タブレットで兵法書を読みふけるマイペースな侍女のエリシュカ。そんな光景を見て、ラルフは少し不安になる。


こいつらは、正気じゃない、と。

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