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#17 策謀

「まったく、何が姫を差し出せ、よ!なんだって助けた命を、わざわざ差し出さなきゃいけないのよ!」

「あ、アイリーンさん……あまり大声を出されては……」

「だって、むかつくじゃない!何よ、あの態度!どうせあのオンドラーク公爵っていう男が入れ知恵したんでしょうけど、それにしても頭にくるわ!」

「お気持ちはよく分かります。でも、どうするんです?」

「こうなったら、我々を見下したことを、あの男に後悔させてやるわ!なんとしてもあの暫定議長をギャフンと言わせないと、私の気が収まらないわよ!」

「そりゃあそうですけど……それならなおのこと、どうされるんですか?」

「それを今から考えるのよ!ちょっと、エルヴェルトのやつを呼んできて!みんなで作戦会議をやるわよ!」


えらく不機嫌なアイリーンは、格納庫を出て会議室へと向かう。そこに、エリシュカが現れた。


「アイリーン様、ヴァルチェッツェの共和主義者に会われたのですか?」

「そうよ。」

「で、相手はなんと?」

「姫様を渡せってさ。でないと、交渉には応じないって。」

「まさかその話、お受けになられたのでは……」

「んなわけないでしょう!けんもほろろに断ってやったわよ!」

「そうなのですか……」

「で、今からその議長の鼻を完膚なきまでにへし折ってやるために、どうするかって会議をするところなの!」

「さようですか……ならば、(わたくし)も参りましょう。」


ということで、会議室にはアイリーンにカナエ、エルヴェルトにエリシュカが集まる。


「……じゃあ、始めるわよ。今回の議題は、こともあろうに、宇宙最速の魔女であるこの私の提案を断ったあの暫定議長を後悔させてやるための作戦、題して『暫定議長の鼻をへし折ってやろう作戦』についてよ!みんなの意見を、聞かせてちょうだい!」

「アイリーン、その作戦名はもうちょっとなんとかならないのかなぁ。」

「そんなことはどうでもいいわよ!それよりも、本題よ、本題!」

「あのぉ、それならこのスマホを見せびらかしてやればいいんじゃないですか?同盟を結ぶと、こんないいものが手に入るんだって、分からせてやればいいんですよ。今なら20万曲を無料でおつけします、とか。」

「それで釣れるのは、カナエくらいのものでしょう。スマホなんていきなり見せたって、そんなものあの連中には理解できないわ!」

「そ、そうなんですかねぇ……」


案の定、低レベルな提案が続く。そこに、エリシュカが口を開く。


「アイリーン様。一つお聞きしたいのですが……」

「なによ、エリシュカ。」

「連合というところと同盟を結ぶと、どんな良いことがあるのでしょうか?」

「ああ、そうね……例えば、あなた方が食堂で口にしたあの食事が、庶民でも手に入るようになる、などかしら。他にも、便利な道具やたくさんの知識、それに多くの娯楽が手に入るわよ。」

「さようですか。ではもし、隣国のヴロツワフ王国が先に同盟を結び、それらを手に入れたとしたら、ヴァルチェッツェ共和国にいる共和主義者はどう思うでしょうか?」

「そりゃあもちろん、もっと早く同盟を締結しておけばよかったと後悔……あっ!」

「ヴァルチェッツェ共和国の周辺には、他にも10の国があります。それらの国でヴァルチェッツェ共和国よりも早く同盟締結が行われてしまったとしたら、アイリーン様の思惑通りになるのではございませんか?」

「うんうん!確かに!そりゃあいいアイデアだわ!じゃあ早速、ヴロツワフ王国にいきましょう!」

「お待ちください、アイリーン様。」

「なによ。まだ何かあるの!?」

(わたくし)も、同行させてはもらえませんか?」

「えっ?エリシュカも?別にいいけど……」

「姫様の御為(おんため)、そしてアイリーン様のために、必ずやその交渉を成功させて見せましょう。」

「は、はあ……そうなの?」


ということで、早速そのヴロツワフ王国の王都へと向かうことになった。


エリシュカの案内で、ヴロツワフ王国の王都にたどり着く。エリシュカの案内で、その中の屋敷の一つにアイリーンの哨戒機が降り立つ。

突然、中庭に降りて来たこの得体の知れない飛行物体の出現に、この屋敷では蜂の巣を突いたような大騒ぎとなる。剣や槍を持った衛兵が大勢集まってきた。さすがのアイリーンも、この騒ぎに躊躇いを隠せない。


「ちょ、ちょっと、あんたの言う通り降りて来ちゃったけど、本当に良かったの!?」

「大丈夫です。(わたくし)にお任せください。」


などとエリシュカは言うので、哨戒機のハッチを開ける。そしてアイリーンとエリシュカが、中庭に降り立つ。


「おのれ!何者か!」


不用意に降り立ったこの2人を、衛兵が囲む。するとエリシュカが叫ぶ。


「お待ちください!(わたくし)は、ヴァルチェッツェ王国が第2王女、フランチェスカ様の侍女、エリシュカと申します!」

「な、なに!?ヴァルチェッツェ王国だと!?」

「はい。私と姫様は共和主義者どもの手を逃れ、こうしてヴロツワフ王国の皇太子であられる、ヴワディスワフ殿下の元に参った次第でございます。」

「などと言われても、お前がヴァルチェッツェ王国の者かどうかも分からぬ!かようなものを殿下に会わせるわけには行かない!」

「ならばまず、こちらの執事のグスタフ殿との面会を願います。さすれば(わたくし)が、ヴァルチェッツェ王国の者と分かっていただけるはずです。」

「しょ、承知した!しばし、待たれよ!」


衛兵の一人が、急いで宮殿の中へと向かう。そして、執事風の男を引き連れて戻ってくる。


「おお!エリシュカではないか!ヴァルチェッツェ王国のことは聞き及んでおる!にしても、そなたよく無事だったな!ところで、フランチェスカ様とマグダレア様は、ご無事でいらっしゃるのか!?」

「お久しぶりでございます、グスタフ殿。残念ながら王妃様の安否は、定かではありません。ですが、おそらくは……あの宮殿より逃れたのは、(わたくし)とフランチェスカ様の2人だけにございます。」

「そ、そうか……それで、フランチェスカ様は!?」

「はい、哨戒機と申すこの乗り物を操る、星の国より参られたかの者らの元で保護されております。」

「星の国じゃと!?なんじゃ、それは!?」

「それに関し、殿下に具申したきことがございます。何卒、殿下に御目通りしたく存じます。」

「分かった。こちらへ参られよ。」


その貴族の男は、エリシュカを屋敷に招き入れようとする。それを受けてエリシュカは、アイリーンに合図する。するとアイリーンは、やや遠慮がちにエリシュカの後ろをついていく。


「ところで、エリシュカよ、この者は?」

(わたくし)とフランシェスカ様が裏切り者のオンドラーク公爵の手勢に囲まれた際、助けてくださった方でございます。」

「わ、私は接触人(コンタクター)のアイリーン。殿下にお会いしたく、やってまいりました。」

「そうか、フランシェスカ様の命の恩人であるか……ならば、殿下の元へご案内いたしますゆえ。」


普通はもっと人を疑うものだろうと思うのだが、エリシュカのおかげで、いともあっさりとヴロツワフ王国の王族と会見できることとなった。エリシュカ、恐るべしである。

そして屋敷のロビーにて、この王国の皇太子であるヴワディスワフ殿下との会見が叶う。


「私が、ヴワディスワフである。ヴァルチェッツェ王国から逃れた王女の侍女とは、そなたか?」

「はい。第2王女、フランチェスカが侍女、エリシュカと申します。本日はヴワディスワフ殿下に、急ぎお伝えせねばならない話があり、参上した次第でございます。」

「ほほう、どのような話か?」

「まずは、こちらのアイリーン様の話をお聞きください。」


と、突然アイリーンは話を振られる。大慌てで話始めるアイリーン。


「あ、ああ、私は宇宙統一連合の接触人(コンタクター)、アイリーンでございます、殿下!」

「コンタクター?なんだそれは?」

「は、はい!我々はこのヴロツワフ王国との同盟を結ぶためにですね……」


アイリーンはこの皇太子に、連合との同盟の提案をする。持ち込んだタブレットも使って、この星や宇宙の姿、宇宙の情勢、そしてこの宇宙における様々な文化などの説明を試みる。


「……なるほどな。つまりそなたは、我らとその宇宙統一連合と申す組織との同盟締結のために、参ったというのだな?」

「はい、その通りでございます、殿下。」

「だが、なぜヴァルチェッツェではなく、このような小国であるヴロツワフなのか?私がいうのも変な話だが、普通に考えれば大国との同盟関係を得る方が、ずっとそなたらにとって利が大きいのではないのか?」

「そ、それは……」


まさかここで、ヴァルチェッツェの方に先に行って断られました、などというわけにはいかない。変に勘繰られてしまう。返答に困ったアイリーン、だがそこでエリシュカが口を開く。


「いえ、だからこそヴァルチェッツェではなく、ヴロツワフ王国なのでございます、殿下。」

「なぜだ、エリシュカよ。」


いきなり割り込んできたエリシュカ。さすがのアイリーンも、エリシュカがなんと応えるのか、想像もつかない。だが、エリシュカはしゃあしゃあと話し始める。


「自らの思想実現のために罪なき国王陛下を倒し、力無き王女と侍女を数十の手勢でなぶり殺そうとしたヴァルチェッツェの共和主義者どもは、彼らにとっては決して信用できる者ではございません。ゆえに、このヴロツワフ王国こそ同盟するべき国と考えてやってきたのでございます。」

「ふむ。なるほど。聞くとこによれば、確かに奴らの行いは、あまりに野蛮で非礼で、しかも残酷ではあるそうだからな。」

「野蛮なだけであれば良いのですが、問題はその先にございます。」

「どういうことだ?」

「彼らは、ヴァルチェッツェ王国の宮殿を襲い、王族打倒を果たした。つまり共和主義者どもは自らの理想を果たすために、王政そのものを潰したのです。それが何を意味するのか、殿下はお分かりでございますか?」

「いや、分からぬが……」

「つまり早晩、このヴロツワフ王国にも、彼らが攻めてくるということにございます。」

「な、なんだと!?」

「彼らの目的は、王政の根絶。いくら国王陛下を倒したと言っても、この大陸では最大の国家であるヴァルチェッツェは、その兵の数もヴロツワフ王国の何十倍もございます。ゆえに、今度はヴロツワフ王国を滅ぼさんと攻めてくるのは道理でございましょう。」

「た、確かに、それは十分に考えられるな……だが、なればこそどうやってあの国と対峙せよと申すか?」

「なればこその、宇宙統一連合との同盟にございます、殿下。」

「……それは、どういうことだ?」

「彼らは我々とは比べ物にならないほどの武力を持っております。本気を出せば、ヴァルチェッツェなど一瞬にして灰にできるほどの力を持っております。また彼らは空を飛び、その日のうちに他国へと向かうこともできるのです。となれば、彼らを介し、ヴァルチェッツェ周辺にある諸王国に殿下の名で連携を呼び掛ければ、一夜にしてヴァルチェッツェを包囲することも叶いましょう。」

「……そうであるな。ここに及んでは、他王国とてヴァルチェッツェの共和主義者どもに脅威を感じておることであろう。分かった。私の名で書簡を出そう!それを持って、諸王国に同盟を呼びかけることとする!」

「ははっ!その役目、このエリシュカが承ります!」


そしてその日のうちに、ヴロツワフ王国と宇宙統一連合との間に暫定同盟を締結し終え、さらにそのまま哨戒機で周辺の14か国を周り、ヴワディスワフ殿下の名の書簡を用いて王国同士の連携が呼びかけられた。


こうしてアイリーンは一夜のうちに、14か国との間に同盟を締結することとなってしまった。

エリシュカ、恐るべしである。

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