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#16 革命

「ちょ、ちょっと、何してんのよ!私達は、あなた達を助けたのよ!?」

「確かに、あなた方に助けられました。だが、味方とは限らない。それを見極めるまで、私はあなた方を姫様に近づけるわけには参りません!」

「姫様って……てことはこの人、王族なの!?」

「いかにも、とある国の、とある姫君。それ以上のことは、今は申し上げられません。」


この侍女、なかなか警戒心を解こうとしない。上昇する哨戒機の中、緊迫した空気が流れる。


「あ、アイリーンさん、あの、この人、刃物を向けてますよ!?」

「そりゃあ、あれだけの追手に追われてたから、殺気立つのもしょうがないでしょうね……」


アイリーンは考える。どうやったらこの2人を、信用させられるのか?


「ねえ、あなた達、我々を見て、どう思う?」

「怪しき技の数々、空を舞い、蒼い光の魔法を用いて公爵の兵を惑わした。すなわちあなた方は、魔術師か何かか!?」

「へぇ、てことはこの星には、実際に魔術師がいるの?」

「……いえ、物語で聞いたことがありますが、見るのは初めてです。そのようなものが実在するなどとは、聞いたこともありません。」

「ああ、そうなのね。じゃあここには、魔術というものは存在しないってことね……それじゃあ、私が普通じゃないってことは、理解してくれるわよね。」

「はい。」


アイリーンは、哨戒機の座席に座る。そして笑みを浮かべながら、侍女に語る。


「じゃあさ、ちょっとは私達の話、聞いてくれる?」

「伺いましょう。」

「私達はね、ずっと遠くから来たのよ。この空の果て、宇宙という場所から。」

「……宇宙……?」

「星の世界、とでも言えばいいかしら。とにかく、ここからずっと遠くの星からやってきたのよ。だからほら、この通り、空も飛べちゃうのよ。そんなことができる人達は、ここにはいないでしょう?」

「……確かに……だが、なればこそあなた方が信用できません。つまりそれは、得体の知れぬ国からやってきた人だとおっしゃるのでございましょう?ということは、姫様をさらい、何か企んでいるのではないかと。」

「あのねぇ、私達、ついさっきここに降りたばかりなのよ!姫様だってことすら知らずに助けちゃったくらいなんだから!それで一体、何を企むっていうのよ!?」


散々言葉を尽くし、侍女を説得するが、一向に折れるつもりがない。警戒心剥き出しのこの侍女に、ついにアイリーンのイライラは頂点に達する。


「あのねぇ!あんたさぁ!助けられておいて、その態度はあんまりじゃないの!?」

「と、言われても、私はただ、自身の使命を果たしているだけのこと。」

「じゃあ聞くけど、あんたの使命って何よ!?」

「命に変えても姫様を守り抜く、これが私の使命。」

「そう……じゃあさ、私達が信用できないってことで、その(やいば)でここにいる3人を刺すつもり?」

「場合によっては、そうせざるを得ませんね。」

「でも、それをやったら、あなたの使命は果たせないわよ。」

「……どういうことです?」

「窓の外を、ご覧なさい。」


アイリーンに促されて、ちらっと窓の外を見る。すでに森は小さく、かなり高い場所にいることが見て分かる。


「もしここにいる3人をその短剣で刺し殺せば、この哨戒機は制御を失い、あの森に向かって墜落するでしょうね。当然、あなたもその姫様も、その衝撃で死んでしまうわ。つまり、あなたが姫様を守りたいと思うならば、その剣を収めるしかないってことよ。」

「うっ……」

「早い話がね、降伏しろってことよ!姫様の命を奪われたくなければ、私達に従いなさい!」


すでに詰んでいたことを悟ったその侍女は、短剣を落とす。それを拾い上げるアイリーン。


「さてと……じゃあ、こっちのやるべきことを、やらせてもらおうかしらねぇ……」

「な、何卒、姫様の命だけは……私はどうなっても構いません!ですから!」


少し意地悪そうな眼差しで見つめるアイリーンに、侍女は決死の嘆願を試みる。


「私、アイリーンは、連合法規に則り、あなた方の生存権の保証、および尊厳を守ることを宣言いたします。また、接触人(コンタクター)としての権限の及ぶ限り、あなた方の権利を擁護し続けることを、ここに約束します。」

「……は?」

「つまり、姫様もあんたも、全力で助けるって言ってんのよ!これが私の仕事よ!分かった!?」

「いや、しかし……」

「何を驚いてんのよ!別に宇宙じゃ、これが当たり前なの!」

「そ、そうなのでございますか?」

「てことで、これから私達の船に向かうわ。そこにしばらく()もって、今後どうするか考えましょう。」


それを聞いた侍女は、その場にへたり込んでしまう。


「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」

「い、いえ、申し訳ありません。急に力が、抜けてしまって……」

「え、エリシュカ、あなた少し、休んだ方が……」

「何をおっしゃいますか、姫様……姫様こそ、お休みにならないと……」


と言いながら、その場で気を失うように寝てしまうエリシュカ。それを見たアイリーンは、姫に尋ねる。


「エリシュカというのね、彼女。」

「は、はい……この者が私を鼓舞し、かばい、なんとかここまで逃げ延びてきたのです。」

「そう。いろいろと聞きたいことはあるけど、まずはあなたも休んだ方がいいわ。」

「は、はい。」


この言葉に、緊張感の抜けたその姫君も、侍女とともに眠りについてしまった……


◇◇◇◇◇


それから、どれくらいの時間が経ったのか?

侍女のエリシュカが、目を覚ます。


目の前には、見たことのない天井、見たことのない灯り、そして、真っ白なベッド。そばにはチカチカと光を発する、これまた見たことのない怪しげな物が並ぶ。

そしてすぐ横のベッドには、姫様が寝ている。二人とも水色の服を着せられており、カーテンに仕切られたこの狭い部屋の中で寝かされていた。


「こ、ここは一体……」


ぼんやりとした頭で、エリシュカは思い出す。そういえば確か、オンドラーク公爵に追い詰められ、その後に空を飛ぶ怪しげな乗り物に乗せられた後に、あのアイリーンという怪しげな技を使う女に説得されて……


「あ、気がつきましたか?」


と、そこに現れたのは、カナエだった。


「あ、あなたは確か、アイリーンと申す魔女のそばにいた……」

「はい、私、接触人(コンタクター)補佐を務めている、カナエと言います。」

「ではカナエ殿、ここは一体……」

「ああ、信じられないでしょうが、ここは空の上に浮かぶ駆逐艦という船の中なのです。」


エリシュカにとっては、意味のわからない言葉のオンパレードだ。


「いや、カナエ殿、船が空に浮かぶなどあり得ない話をされても……何を言っておられるのか?」

「だから、そのあり得ないところに今、侍女さんと姫様はいるんですよ。」

「と、言われても一体、何のことなのか?」


と、そこに、騒がしい2人が近づいてくる。


「……ったく、何考えてるのよ。」

「いいじゃないか。この通り助かったんだから。」

「ばっかじゃないの!?どこの世界で、本物の兵士、本物の剣を持った相手に、戦艦の街の土産物屋で買った剣と鎧で立ち向かう馬鹿がいるのよ!」

「あはは、どうだった?あれ、よく似合ってたでしょう!?」

「あのねぇ……あんたの使ったプラスチック製の剣を見たけど、何よあれ!相手の剣で切り刻まれて、ささくれてたわよ!あんなおもちゃでガチで闘うなんて、何を考えてるのよ!一つ間違えれば、あんたが斬られてたかもしれないのよ!?」

「そうかそうか、アイリーン。僕のこと、そんなに心配してくれるんだ。」

「だ、誰があんたなんか心配するっていうのよ!あんた斬られちゃったら、誰が哨戒機を飛ばすのよ!」


診療室の前で大声で騒ぐのは、誰がどう聞いてもアイリーンとエルヴェルトのコンビだ。


「あ、アイリーンさん、ちょっと、まだ姫様が寝ていらっしゃるんですよ。静かにしてください。」

「ああ、そうだったわ。ってことはカナエ、あの侍女の方は目を覚ましたってこと?」

「ええ、つい先ほど。」

「そう。で、話せそう?」

「ええと、それは……」


カナエにエリシュカのことを確認するアイリーンだが、そのアイリーンの言葉を聞き、応えるエリシュカ。


(わたくし)ならば、問題ありません。助けていただいた身ですし、何か話すことがございますなら。」

「そう、じゃあ、ちょっと話を伺うわ。」


エリシュカのベッドの横に座るアイリーン。ちらっと、隣のベッドに眠る姫君の様子を見つつ、エリシュカに尋ねる。


「改めて自己紹介するわ。私は接触人(コンタクター)のアイリーン。あなたは……エリシュカと言ったわね。」

「はい、(わたくし)の名はエリシュカ。ヴァルチェッツェ王国の第2王女、フランチェスカ様の侍女でございいます。」

「てことは、あそこで眠っている姫様の名前は、フランチェスカというのね。」

「さようです、アイリーン様。」

「で、なんだってあの中年男の一団に追われてたの?今ひとつ事情が飲み込めなかったんだけど。」

「はい……実は、我が王国で、民が蜂起しまして。」

「蜂起?」

「国王陛下を倒し、あの国を民衆が収める共和制の国にするんだとかで、昨夜、宮殿の周りに民が押し寄せてきたのでございます。」

「なによそれ、革命じゃない!で、あなた方はその宮殿から逃げてきた、と。」

「はい。当初は宮殿に立てこもり、民の勢いが収まるのを待っておりました。が、ある貴族の裏切りにより、宮殿の門が開かれ、宮殿内に暴徒と化した民衆が押し寄せてきたのでございます……」

「その貴族というのが、さっきの中年男ってわけね。」

「彼の者の名は、オンドラーク公爵。陛下の信頼を得て、宰相まで務めたという男が、まさかあの場で裏切るなどとは……」

「ま、そういうもんよ、世の中なんて。落ち目の時は、何をやってもダメね。逃げて正解だったわ。」

「我らとて、逃亡は至難の技でした。地下道を通り、荷馬車に乗って王都を抜け出し、夜更けに馬が動かなくなってからは、姫様と私の2人だけで夜道をさまよい……」

「てことは、他の王族は?」

「分かりません……が、おそらくは……」


運良く逃げ延びたのは、この姫様とその侍女だけのようだ。アイリーンは察する。


「で、あなた達、逃げ延びてどうするつもりだったのよ。」

「隣国のヴロツワフ王国に落ち延びようと考えておりました。」

「何よ、その国、本当に大丈夫なの?」

「ヴロツワフ王国は、王妃様の故郷にございます。事情を話し、姫様を保護していただき、あわよくば捲土重来を図ろうかと考えておりました。」

「うーん、そうだったの。じゃあ、その国に姫様の保護を求めればいいわけね。」

「はい、叶うならば。」

「といっても、私達もまだ、ここに着いたばかりなのよ。これからこの星の国との折衝を始めるところなの。すぐには無理ね。」

「はあ……さようでございますか。」

「まあ、心配しなくてもいいわよ!ここは高度2万メートルの空の上!いくらあの中年男が頑張ったって、ここには攻めては来られないわ!」

「は、はあ……空の上、ですか……」


空の上と言われても、少し機関音が響くこと以外は、地上と変わらない。いや、この部屋には窓がないため、ここがどういうところなのかを知りようがない。


「う、ううーん……」


と、そこで隣のベッドに寝ていた姫様が、目を覚ます。しばらく天井を眺め、おぼろげな頭で自身の状況を思い出しているようだった。


「はっ!え、エリシュカは!?」

「ここにおります、フランシェスカ様。」


それを見たフランシェスカは、ベッドを降り、エリシュカに抱きつく。


「ああ!エリシュカ!生きているのですね!」

「はい、フランシェスカ様。我々はまだ、生きておりますよ。」

「よかった……一時はどうなることかと……ところで、ここは?」

「よく分かりません。なんでも、空の上だとか。」

「は?空の上?」

(わたくし)にも信じられません。」


2人はあの馬を生き延びられたことを喜び、抱き合う。


「思ったより、元気そうね!」

「あ、はい、魔女さん。」

「私の名は、アイリーンよ。で、こっちはカナエ。そしてその向こうにいる男が、エルヴェルトよ。」

「あの、カナエと申します!」

「僕は、エルヴェルト。これでも騎士なんだ。」

「えっ!?騎士!?そういえばあの時、剣をふるい助けてくださったのは……」

「ああ、それが僕だよ。」

「な、なんという頼もしいお方……(わたくし)は、とても感銘いたしました!」

「ああ、でもこの男、おもちゃの剣で飛び出したのよね!ほんと、よく死ななかったわね。」

「あはは、じゃあ今度は、ちゃんとした剣を買わないと。」

「銃があるでしょうが、銃が!わざわざそんな重たいもの持って戦う必要なんてないでしょう!」


フランシェスカ姫の前だというのに、お構いなしにエルヴェルトを罵るアイリーン。


「……ええと、こんな男は置いておき……フランシェスカさんと、エリシュカさん。」

「は、はい。」

「食事、しましょうか。」

「は?」

「聞けば、昨日の夜からずっと逃亡してたんでしょう?お腹すいてるんじゃない?」

「はい、確かに。ですが……」

「何を遠慮しているのよ。食事してから、ここが空の上だってことを見せてあげるわ。あとは、我々のこともちゃんと話すわね。」

「は、はぁ……」

「姫様も知りたいんでしょう?空飛ぶ乗り物で現れた、我々のことを。でも、ここじゃちょっと無理よね。話せば長いし、まずは腹ごしらえからよ。」


そういってアイリーンは、フランシェスカとエリシュカを伴い、食堂へと向かう。その後、駆逐艦の艦橋、および会議室で、この宇宙の話を語ることとなった。


◇◇◇◇◇


その3日後。


アイリーンは、ヴァルチェッツェ王国、いや、今はヴァルチェッツェ共和国と名を改めた国の首都に降り立った。

革命直後で、政府基盤がまだ確立されていない状況のため、その中枢への接触が思いの外、早く叶ったのだ。そこでアイリーンは、その政府の暫定議長と名乗る人物との面会を果たす。


「議長殿、私は宇宙統一連合の接触人(コンタクター)、アイリーンと申します。面会をお許しいただき、ありがとうございます。」

「ああ、君が空の向こうから来たという人物なのかい?」

「はい、その通りでございます。」

「うむ……」


このまま、交渉はスムーズに進むかと思っていた。だが、この議長はアイリーンに、こんなことを切り出す。


「ということは、かつてこの国を治め、そして混乱に陥れた王族の一人、フランシェスカ王女をかくまっている連中ということなのか?」

「はい、確かにフランシェスカ殿は、我々の元におりますが……」

「ならば、その姫をお引き渡し願いたい。」

「えっ!?ですが、どうなさるおつもりで?」

「この国は今、王族の支配から解放されて、人々の手による新たなる政治を行おうとしているところだ。なれば、王族の生き残りにその罪を問い、裁きを下さねばならないのです。」

「……つまり、あの方を、処刑されるということですね?」

「王族を根絶やしにし、共和制を確固たるものにする。それが、我ら共和主義者の拠って立つところなのですよ。この要求に応じられぬとあれば、我々はあなた方との交渉に、応じる訳にはいかない。」


これは長丁場になる……この時アイリーンは、そう予感する。

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