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#10 落ちこぼれ

「どうだい、アイリーン!すごいだろう!」


えらく上機嫌なエルヴェルトが、駆逐艦の展望室でジュースを飲んでいたアイリーンの元にやってきた。その分、アイリーンの機嫌は悪い。


「へぇ、よかったわねぇ。」

「いやあ、複葉機に比べたらここの航空機って、操縦が楽だね。でもさ、いくらパイロットの経験があると言っても、これほど短期間で習得できるのは珍しいって、教官が言ってたよ。」

「あっそ。そりゃあ軍から航空機を盗んで逃亡するだけの度胸があるんだもんねぇ。人並外れてて、当然だわ。」


エルヴェルトが見せびらかしているのは、哨戒機の操縦ライセンス。ビーム兵器の使用はできないが、哨戒機を飛ばし、レーダーを駆使し、防御兵器であるバリアシステムを使うことが可能となるライセンスを取得したのだ。

駆逐艦の周辺宙域や、途中で立ち寄った戦艦内の訓練施設などで訓練を重ねた結果、ついにエルヴェルトはこの近代兵器の操縦資格を得ることとなった。意外に頑張り屋なエルヴェルトだが、今ひとつ冷たいアイリーン。


「というわけでアイリーン、今後は君のエスコートを僕がやることになったよ。」

「ああ、そうですか。それはよかったですねー。」

「つれないなぁ。連合から君専用の哨戒機も届いたんだよ。これで次の星では2人揃って、大活躍さ。」

「私がね!私が活躍ね!あんたはただ私の言う通り、その哨戒機をとばしていりゃあいいのよ!」


エルヴェルトの前では素直になれないアイリーン。だが、エルヴェルトのパイロット養成カリキュラムの申し込みや哨戒機の手配は当然、アイリーン自身が行っている。


地球(アース)875を離れて、すでに4週間以上が経った。そこから500光年離れた次の星に、アイリーンとエルヴェルトは向かっている。


「……ところで、今度の星なんだけどさ。」

「なによ。」

「昨日もらった報告書を読んでたんだけど、よく分からなくて。」

「なによ、読んだ通りじゃない。」

「いやあ、この文化レベル4というのがどうも……情報革命以降の文化を持つ星だと言ってるけど、どう言う意味?」

「ああ、早い話が、コンピューターが発明されていて、星中に通信網が張り巡らされ、膨大な情報のやり取りをしてる星ってことよ。」

「へぇ。そうなんだ。」

「それから、ラジオやテレビの電波も飛んでいて、その解析結果からどこが統一語圏が分かってるんだって。だから私達は、いきなり統一語圏に降りることになるわね。」

「そうなのか……にしても、僕のいた地球(アース)875よりもずっと進んだ星なんだね。」

「そうよ。今度の星じゃあ、あんたは動物園の猿同然だから、檻に入れられないよう気をつけなさいね。」

「ふうん、そうなんだ。」


素っ気なく応えるアイリーンだが、振り向くとすぐそばにエルヴェルトの顔がある。


「ちょ、ちょっとあんた!なにやってんのよ!顔、近過ぎ!」

「えっ?そう?」

「もももももうちょっと離れなさいよ!ほんとあんたって、デリカシーってものがないわね!」

「あははは、顔が真っ赤だよ、アイリーン。」


バカップルぶりを展望室で披露する2人。その場にいた数人の乗員は、呆れた顔でこの2人を見ている。

その展望室にある小さな窓の外には、これから立ち寄る地球(アース)の姿が見えていた。


「大気圏突入完了!目的の大陸西岸まで、あと120キロ!」


それから30分後。大気圏を突入した後の地球(アース)364遠征艦隊所属の駆逐艦1610号艦の艦橋で、アイリーンとエルヴェルト2人に、この艦の副長が報告する。


「我々はこの先の都市の手前、20キロの地点で待機する予定です。接触人(コンタクター)殿と補佐員殿は、そろそろ発進なさいますか?」

「そうね、いつもならここで発進するところだけど、パイロットがズブの素人だからね。もうちょっと節気にしてから発進するわ。」

「あははは、大丈夫だよ。これでも飛行時間は3千時間を超えてるんだから。」

「複葉機ね!複葉機の飛行時間でしょ、それは!」


副長の前でいきり立つアイリーン。妙な接触人(コンタクター)と新米パイロットのこのやりとりに、周りはドン引きだ。


「では副長殿、50キロ地点で発進いたします。僕はそれまで、哨戒機で準備に入ることにします。」

「了解いたしました。格納庫にはそう伝えておきます。」


副長に発信準備を伝えると、エルヴェルトは艦橋の出入り口へと向かう。


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」

「ああ、アイリーン。まだここにいてもらってもいいよ。」

「何言ってんのよ!私だって、準備があるんだから!」

「なんだ、そんなに僕と一緒にいたいのかい?」

「そんなわけないでしょう!向かうところが、たまたま一緒なだけよ!」


この素直じゃない魔女と金髪男とのやりとりに、数人の乗員が笑いを堪えているのが分かる。それをチラッと見たアイリーンは、バツが悪そうに出入り口を出る。


「……まったく、あんたのせいであらぬ誤解を生んでるじゃないの!」

「そうなの?」

「そうよ、絶対この艦の乗員は私たちの関係を、何か勘違いしているに違いないわよ!」

「えっ!?違うの!?」

「どこの世界で、崇高な魔女と動物園の猿が愛し合うって言うのよ!考えたら分かるでしょう!?」

「いやあ、猿じゃないよ。騎士だよ。」

「剣も持たないで、何が騎士よ!まったく、この男は……」


言いかけたアイリーンに、突然、エルヴェルトは立ち止まり、通路の壁に手をドンと突き立てる。その腕に阻まれるアイリーン。

いつになく、エルヴェルトから気迫を感じる。いや、これは殺気と呼んだほうがいいか。通路の壁に寄り掛かったまま、エルヴェルトを見つめるアイリーン。彼女の心拍数が、跳ね上がる。


(あれ……まさか、怒った?)


しばしの沈黙の後、エルヴェルトは言った。


「剣なんてなくったってさ、この通り、相手を圧殺するくらい造作もないよ。」


そう言いながら、にこりと微笑むエルヴェルト。


「どこまでも僕は、アイリーンの騎士だよ。何かあっても、守ってあげるって。だから、少しは信用して欲しいなぁ。」

「は、はい!!」


急に態度の変わったアイリーンを見て、エルヴェルトは再び歩き出す。顔を真っ赤にしながら、しばらく歩き出せないアイリーン。


(くっ!なんてこと!あの男に、気迫で負けた……)


悔しそうなアイリーン。だが彼女は、黙ってエルヴェルトの後ろをついていく。

それからまもなく、エルヴェルトの哨戒機はアイリーンを乗せて発進する。


「特別機より艦橋!発進準備完了!発艦許可を!」

『艦橋より特別機!発艦許可、了承!ハッチ開ける!』


高度2万メートル上空から、いつものように哨戒機で発進する。だが、今回は専属の機体。そして、エルヴェルトが操縦をする。


「あれ、アイリーン?さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの?」

「べ、別になんでもないわよ!」

「まさかさっきのこと、怒ってるの?」

「おおお怒ってなんかいないわよ!それよりも、あんたの方が怒ってるんじゃないかって……」


2人の乗る哨戒機を、ロボットアームが掴み、ハッチの外へと突き出そうとしている。その哨戒機の中で、もじもじしながら応えるアイリーン。そのアイリーンの手を取り、突然キスをするエルヴェルト。


「ななな、何をするのよ!」

「いやあ、元気がないからさ、心配で。」

「心配だと、どうして私の手にキスなんかするのよ!」

「いや、これは我が騎士家に伝わる、元気の出る魔法なのさ。」

「魔法って……そんなわけないでしょう!あんたねぇ!」

「はははっ!ほら、元気になった!じゃあ、出るよ!」


エルヴェルトは、操縦席横のレバーを思い切り引く。ガコンという音とともに、哨戒機が切り離される。2万メートルの高度から、一気に降下するエルヴェルトの哨戒機。


高度4000で出力を上げ、水平飛行に入る哨戒機。エルヴェルトは、レーダー画面を見る。


「高度1万付近に、飛行物体およそ10。周辺には、一般人向けの飛行機が飛んでるようだ。我が哨戒機前方に、機影なし。」


これだけの数の機体が飛び交う場所であれば、当然、レーダーによる飛行管制が行なわれている。が、アイリーンの乗る哨戒機も、上空に待機する駆逐艦も、ステルス塗装が施されている。この星のレーダーでは、ほぼ捉えられない。


「えっ!?こんなところで出るの!?」

「そうよ!いくらステルス機だからって、あまり街に接近するのは良くないわ!」

「いや、でももうちょっと接近してから……」

「じゃあ、後のことはお願い!」


心配するエルヴェルトだが、アイリーンは無視してハッチの前に立つ。この星の文化に合わせ、スーツに身を固め、少し小さめの鞄を背負う。そして、開錠レバーに手をかけるアイリーン。

レバーを引きハッチが開く。颯爽と外に飛び出す爆速魔女。魔女が飛び出した後、哨戒機のハッチがゆっくりと閉じ始める。これは、アイリーン専用機として追加された機能だ。これなら、毎回アイリーンがわざわざ自力でハッチを閉じなくてもいい。

当のアイリーンは、降下を続ける。高度2000、目指す街まであと10キロ。真下は、海だ。すぐ向こうに、海岸線が見える。

その日の夜までに住人と接触し、支配層やこの星の風習、流行に関する情報を集める、これが今回のアイリーンの任務だ。接触人(コンタクター)としては標準的な手順なのだが、アイリーンのこれまでの2度の任務で、この最初の段階がうまくいった試しがない。


(今度こそ……)


別に情報収集は接触人(コンタクター)としての前段階の仕事であり、それがなくても実力者との接触さえ上手くいけば必ずしも必要とは言えないことなのだが、さすがに2度もイレギュラーなのは不味い。今度こそ「普通」に成功させたい……妙なこだわりが、アイリーンの心を支配している。


海上を飛行すること数分、魔女スティックにまたがるスーツ姿の魔女は、目標の街の上空にたどり着いた。

海岸を越えると、すぐそこは大都市、高いビルが立ち並び、大通りには人がたくさん歩いている。そんな街の上空を、時速100キロ程度で飛行する。

これまでは比較的小規模の街を最初の目標にしていたが、今回はいきなり大きな都市に向かうことにした。文化レベル4の星の場合は、むしろ大きな都市から手を出せと、交渉官向けの教科書にも書かれている。

ビルの谷間の人通りの少ない裏路地を見つけ、そこに降り立つアイリーン。窓のないコンクリートの絶壁に沿って降下し、地上にたどり着く。そして、あたりを見渡した。

幸い、誰にも見られなかったようだ。この時点で目立つのは避けたい。そして魔女用スティックを、持っていた筒状のケースにしまい、それを肩にかける。その時だった。


「あの、すいません。ちょっといいですか?」


後ろから、2人組の男が現れる。


「はい、なんでしょう……」


まさか、降りるところを見られたか?アイリーンは焦る。するともう一人の男が、アイリーンに詰め寄る。


「今、何か隠しましたよね?その筒の中に。申し訳ないですが、見せてもらえませんか?」


するとその男は、胸のポケットから何かを取り出し、アイリーンに見せる。

それは、手帳だ。だが、何と書いてあるか分からない。アイリーンは尋ねる。


「あの、誰なんです?」

「あー、とぼけてもらっちゃあ困りますよ。分かるでしょう、これの意味が。」


その手帳の存在を強調されるが、そう言われても、アイリーンにはなんのことだかさっぱり分からない。詰め寄る2人組に、アイリーンは、腰に付けられたバリアシステムに手をかける。

ここは、もっと治安がいいところだと思っていた。だから銃は置いてきてしまった。これが仇となったようだ。バリアと自身の飛行能力だけで、この場を切り抜けるしかない。アイリーンは考える。


「というわけで、筒の中を見せてもらえませんか?」

「は?筒の中?」


やはりこの男らは、アイリーンが着陸するところを見ていたのではあるまいか?それにしてもこいつらは、何者だ?アイリーンは警戒する。


「この辺りで最近、暴行事件があったのですよ。それで我々は警戒していたら、こんな人の少ない場所で、棒状のものをしまっているあなたを目撃したんです。だから、あまり隠すと、ろくなことはないですよ!」


この一言で、アイリーンは察した。ああ、この人達は……


「いいわ。見せるわ。」


アイリーンは、肩にかけたケースを下ろす。そして、蓋を開ける。中から、黒い魔女スティックを取り出して見せた。


「これが中身よ。ご覧になる?」

「あ、ああ……」


予想以上にあっさりと応じたアイリーンに、2人組の男は少し拍子抜けする。その黒い棒を手にする男。


「……おい、何のためにこんなもの、持ち歩いているんだ?」


もう一人が、アイリーンに質問する。


「ああ、これね。こうするためのものよ。」


応えるアイリーン。そしてスティックを受け取ると、そのスティックにまたがる。身構える2人組。

その2人組の前で、空中に浮き上がるアイリーン。高さ10メートルほどまで上昇し、この狭い路地の上をゆっくりと旋回してみせる。そして再び、2人組の前に降り立った。


「どう?これで分かっていただけたかしら?」

「えっ?あ、はい……」

「私は魔女なの。空を飛ぶために、これを持ち歩いているのよ。どこかおかしいところ、ある?」

「あ、いえ……そんなことは……」

「じゃあ、これでよろしいかしら?」

「は、はい。もう結構です。」

「お勤めご苦労様です、警官さん。」


手を振るアイリーンに、敬礼して立ち去る2人組の警官達。冷静に考えればアイリーンは、魔女というだけでそこらの不審者よりも怪しい人物。だが、この2人にとって全く想定外の出来事に、それ以上の尋問をすることなく立ち去ってしまった。アイリーンも、2人組とは逆方向に歩き始める。


警察の追及を振り切り、表通りへと出るアイリーン。ここは繁華な場所のようだ。店がいくつも並んでいる。

書かれている文字は読めないが、とにかくここは絵が多い。なんというか、見るからにアニメ画だ。それに立ち並ぶ店の前には、謎の機械がいくつも売られている。

大きめのタブレット端末ほどのサイズの画面に、なにやらボタンがたくさん取り付けられている。アイリーンにとっては、見たことがない機械。一体、何をする機械なのか?アイリーンはある店の前で、その機械を覗き込む。


「お、お客さん!おひとついかがですか!?」


そこに、売り子の女性が話しかける。アイリーンは振り向く。


「ねえ、これ、何をする機械なの?」

「ええーっ!?これ、今話題のパソコンですよ!ご覧になりますか?」

「ええ、見せてくれる?」

「はいはい!では、見ててくださいね!」


急に食いついてきたアイリーンに、上機嫌で商品の説明を始める女店員。


「このノートPCはですね、最新OSであるビルドゥズ98を搭載してまして、メモリも64メガバイト、ディスクも4ギガバイトも搭載してるんですよ!」

「……は?」

「おまけに、文書作成や表計算などのソフトがまとめられたプロダクト98も付属しており、会社のお仕事を自宅ですることもできるんです!しかも、今話題のグローバルネットにも繋げることも可能!いかがですか!すごいでしょう!」


この娘が、何を言っているのかわからないアイリーン。その店員に尋ねる。


「ねえ……つまりこれは、何をする機械なの?」

「ええとですね……つまりその……」

「さっきから見てれば、何その小さなネズミみたいなのは!?こういうのは、画面を触って操作するもんじゃないの!?」

「いや、確かに、タッチパネルというものもございますが、普通はこのマウスを使ってですね……」

「それになによ、このたくさんのボタンは!何がどのボタンだか、さっぱりわからないじゃない!」

「いや、これはその、キーボードと言いまして、文字を打ち込むために必要なもので……」

「はぁ!?文字を打つのに、こんなにたくさんのボタンを使うの!?普通は頭で考えた文字をパパッと変換してくれるんじゃないの!?」

「いや、そんな機械、聞いたことないですって!」


店頭で始まったこの店員とアイリーンの言い合いに、奥にいた店長らしき人物が現れる。


「ああ、申し訳ありません!うちの店員がなにか失礼なことを致しましたか!?」

「いや、これが何をする機械なのか、いくら聞いてもさっぱり分からないのよ!もう、何なのよこれ!売る気あるの!?」

「すみません!私が説明いたしますから……」


ということで、店長がアイリーンに必死に説明をする。


「……というわけでして、今やこの社会の職場革命をもたらすと言われるほどの機械なのでございますよ。」

「ふーん、でもバッテリーが3時間しか持たないって、どういうことよ。こんなに大きいのに……」

「ま、まあ、それは今後、徐々に良くなっていくと言われてます。とにかくですね、これは文書や会計処理もできて、しかも情報収集も可能な最先端な機械なのですよ。」


それを聞いてアイリーンは思う。早い話が、スマホと同じ機械だ。だが彼女の持つスマホは、バッテリーが1週間はもち、脳内入力が可能で、記憶容量はほぼ無限大。この星のコンピューターよりも、400年以上も進んでいる。そんなものと比べるのは、さすがに酷というものだ。


「ああ、悪かったわね、お騒がせして。」

「い、いえ、分かっていただければよろしいのです。店員にも、しっかり教育いたしますから。」

「でも私が騒いじゃったおかげで、ちょっと客足が遠のいちゃったんじゃないの?なんだか、さっきからみんな、この店避けてるように見えるわよ。」

「ええ、気になさらずともいいですよ。すぐに戻りますから。」

「仕方ないわね!じゃあ、お詫びにちょっとだけ、売るのを手伝ってあげるわ!」

「えっ?いや、そんなことは……」

「大丈夫よ!今の店長さんの説明で大体分かったから、このノートPCってやつのこと!ちょっと借りるわよ!」


そういうとアイリーンは、店頭から一台のノートPCを持ち上げる。そして、背中から魔女スティックを取り出した。そしてスティックにまたがり、大声で叫ぶ。


「さて!みなさーん!ご覧くださーい!」


繁華街のど真ん中で、大声を張り上げるアイリーン。道ゆく人々が何事かと、一斉にアイリーンの方に振り向く。


「先日発売したばかりの最新ノートPCが、とってもお買い得!なんと、従来の倍の速さ!つまり、倍の速さでお仕事ができちゃうという優れもの!それでいて、お値段据え置き!」


適当な営業トークを繰り広げるアイリーン。だが彼女は、そのノートPCを片手で抱えながらスティックにまたがり、そのまま宙に浮かびだす。


「それでいてこの軽さ!魔女でも苦にならない、まるで天使の羽のようなこのノートPC!これが今なら、たったの30万イェン!」


アイリーンはそのノートPCを抱えたまま、店の前をふわりと飛び始める。この未だかつて見たことのない不思議な光景に、大勢の人々が殺到する。

調子に乗って、車道の上まで飛び始めたアイリーン。すぐ下を走る車が、空を舞うこの奇妙な魔女に目を奪われ停まり、大渋滞が起こる。

当然、店には客が殺到する。ノートPCよりも、あの魔女への問い合わせが殺到する。だが、店長もその店員も、アイリーンのことなど知ろうはずもない。てんやわんやで、対応に追われる。

だが、アイリーンが地上すれすれを飛びながら、ノートPCを購入したお客と握手をするという勝手イベントを始めてしまったため、今度はノートPCを買い求める客が殺到し始めた。


店内全てのノートPCが売れたのは、夕方過ぎ。それを見届けてアイリーンは、空へと帰っていった……




「あー……さすがに昨日はやり過ぎたわね……ちょっと今日は普通に、控えめに……」


翌日、同じ場所に現れたアイリーン。ビルの上を、速力100キロで飛ぶ。

昨日は結局、あのパソコンとかいう機械の情報しか得られなかったアイリーンは、それ以外の情報を求めて、再びこの街に戻ってきた。

ビルの上を颯爽と飛ぶアイリーン。だが、あるビルの屋上に突っ立っている人物に目がとまる。


その人物は、まさにビルの断崖絶壁に立っていた。それを見たアイリーンは、嫌な予感を感じる。


(ちょっとあの人、まさか、飛び降りようとしている……?)


それを見たアイリーンは向きを変える。そしてまさに飛び降りようとしていたその人物に向かって叫ぶ。


「何やってんのよ!あんた、死ぬつもり!?」


だが、その人物の顔を見て、ハッとした。

その人物は昨日、アイリーンが食ってかかっていた、あの店員だったのだ。

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