5.〜魔王〜
「痛ってぇ……」
俺はなんとか無事だったが、大爆発した発電所は見るに堪えない姿になっていた。不本意なかたちではあるが作戦は成功した。
これでディアスは報われるのかな……。
そんな事を考えていた時、俺の目の前で砂が集まり渦を巻いた。そして砂は足元から人のようなものを作り出した。
「これをやったのは君かい?」
砂が集まってできた男が俺に声をかけてきた。
「お前は誰だ……」
俺は刀を構えて男を睨んだ。
「そんな怖い顔をしないでよ? 俺はこの街の英雄なんだよ?」
英雄!? てことはお前は……。
「お前が魔王ジンなのか……」
「いかにも! で、これは君がやったのかい?」
ジンと名乗る男は俺を舐めている口調で聞いてきた。
これはチャンスだ。魔王ジンをここで倒せたら、反乱軍の勝ちだ。
「俺からも質問していいか?」
話を変えるようにして俺は聞いてみた。
「質問を質問で返すとは……まぁいい──聞いてやろう」
「お前が俺の学校の生徒会長のサラを誘拐したってのは本当か?」
この英雄が本当のことを話すかはわからないが俺は聞いてみた。
俺は英雄がそんな事をするとは思えないと未だに思っている。
返答によっては、俺達がただキリハに操られていることになる。
「あいつは俺に必要な大事な駒だ」
その言葉に俺は少しだけ怒りを覚えた。
「地下牢獄に無実な人を連れ込み虐殺したこともか!」
「そんな事もあったっけ」
俺はその言葉にさらに怒る。
「で、これは君がやったのかい?」
改まって聞いてきた英雄、いや魔王ジンに向かって俺は走り出す。
「あぁそうだ!」
言いながら俺はジンに聖剣を振った。
だがジンはその攻撃を軽く避けた。
「なんだその鈍い攻撃は?」
魔王ジンは余裕な表情を見せる。
そしてジンは何もない空間から禍々しい剣を取り出して攻撃を防いだ後に俺の剣を弾いた。そして魔王ジンはさらに俺に追い討ちをかけようとした。
そこで俺はとっさにアクアサーベルを創り出し攻撃を防いだ。
「ほぅ……俺の幹部がなんなくやられるわけだ──」
ジンは状況を把握したかのように、俺と剣を交えながら喋り出す。
「だが……落ちたな魔王ジェノバ」
俺の正体が敵にバレた。しかも昔の俺のことを知っているのか? なら魔王同士仲良く交渉を……。
「いいや、人間被れの小鳥魔王。こんなとこにいたとはなっ!」
……ないなこれは。
ジンは俺を足で蹴り飛ばした。
人間かぶれの……ことり……まおう……。
激しい頭痛の後、俺は前世の全ての記憶を思い出した。
「俺は……」
全てを思い出した俺は頭を抱え込んだ。
「ん? 何やってんだ、おい!」
俺は頭を蹴られ、ボロボロの発電所の壁まで吹き飛んだ。
「俺は……」
そのまま俺は呆然とする。
壁に打ちつけられた俺にジンが足音を立てて近寄ってくる。
「俺は……」
その時聖剣は光を失い元の刀になった。
「もういい、死ね」
え?
俺は腹を禍々しい剣で刺された。その剣は俺の体を貫通し、壁にまで突き刺さっていた。
俺の視線の先には赤い血が……。
そしてだんだんと意識が朦朧とする。
「お前には失望した……」
そう言い残してジンは砂となって消えていった。
その頃、キリハとサラは話をしながらロックの解除を待っていた。
「へぇそれで飛行魔法が使えるのね」
サラは飛行魔法は転生するときの特典みたいな感じで貰えたと話した。
「サラは転生前どんな人だったの?」
サラは少し考えた後答えだす。
「私前世の記憶があまりないんです──でもでも私、綺麗な景色を覚えているんです」
サラは続けて話す。
「雲の上に浮かぶ花畑──。そこで兄とたそがれているような記憶が」
サラはどこか楽しげに夢のようなことを話し出す。
「私もそんな場所に行ってみたいわ」
キリハは夢のような話に興味をもち、頭の中で景色を浮かべる。
「なら、一緒に行きませんか? 何処にあるかはわからないですけど、きっと私達なら見つけられます!」
自信満々にサラが言い切る。
「そうね、約束よ?」
「はい!」
ドシャーン!
そんな話をしていると、遠くで大爆発が起こった。
「あっちの方って……」
「ディアスさんとシルクさんが潜入している発電所の方です!」
二人は不安な表情を浮かべていた。
「キリハ! サラ! 聞こえるか?」
通信魔法で話しかけてきたのはケンだった。
「聞こえるわ! あっちの状況は?」
「連絡は途絶えちまったが作戦成功だ。今そこのドアのロックが解除されたはずだ」
「そう、わかった。ディアスとシルクの救助はお願いね」
キリハは安心した。
「わかった。そっちは頼んだぞ!」
「誰に向かって言ってんの!」
キリハは自信満々に応えた。
「いくわよサラ!」
「はい!」
そして二人は博物館の奥に進んでいく。道中看守の魔物が襲ってきたが、キリハにとってそこら辺の看守は大したことはなかった。
二人はどんどん奥へと進んでいく。だがそこに……。
「やはりここにもネズミが侵入していたか」
どこからか声が聞こえた。それと同時に砂が集まり渦を巻いた。砂は足元から人のようなものを作り出した。
キリハとサラは砂から距離をとった。
「あなた何者?」
「ほぅ、お前も英雄の顔を知らんのか……」
英雄と名乗る男は呆れた顔をしていた。
「へぇ、わざわざ倒されに来てくれたの? 魔王ジン!」
キリハは詠唱を唱えてライトニングソードを作り上げた。
「まったく……この街の住民は野蛮だな」
魔王ジンはキリハを見下していた。
「おや? そこにいるのはサクヤか? まさか、こんな所にいたとはな」
魔王ジンはサラの方を見ていた。
キリハはどこかで聞いたことのある名前だなと思った。
「たった今、お前の兄貴にトドメを指してきたとこだよ」
魔王ジンは笑っていた。
「サラのお兄さん?」
キリハは小さな声で呟いた。
「お兄……ちゃん……」
サラは頭を抱えて倒れ込んだ。
「サラ!」
サラは倒れたまま気を失っていた。
「魔王ジン! サラに何をした!」
キリハはジンに怒鳴り込んだ。
「怖いなぁ……俺は何にもしてないのに」
ジンはにやけながら答えた。
「まぁいい君たちにはもっと遊んでもらわないとね。それで君たちが今、欲しがっているのはこれかな?」
そういうと魔王ジンは聖剣エクスカリバーを片手に持った。
「なかなかいい聖剣だよね? でも君たちには渡さないよ。俺の目的にはこれが必要なんだ」
そういうとジンは砂となって消えていった。
「目的……」
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