3.〜俺の学園生活はこんなつもりじゃなかった〜
あれから六年後、俺は高校二年になった。
俺はごくごく普通の高校二年生を演じてきた。
部活も勉強も頑張って──だが俺は友達を作れなかった。俺の母親殺しが有名になっていたからだ。それでも俺は母さんとの最後の約束を守り、学校に通っていた。
学校の授業が終わり、帰る準備を進めていた時、後ろから話し声が聞こえてきた。
「お前さ、あの噂のこともう聞いたか?」
「あの噂?」
「あぁそれがな、今この都市で神隠しがあるらしいんだ」
「神隠し?そんなのあるわけないだろ?」
「それがあるんだよ。現に今学校に来てない一年の生徒会長のサラさん、あの子も神隠しにあったって噂だぜ」
ばかばかしい。そう思いながら俺は下校するため教室を出た。
「はー? 何言ってんのお前?」
「我らの英雄が人さらい?」
「舐めてんの?」
校門付近で三人の男子生徒が、ある女子生徒一人を種にあざ笑っていた。
……なんて奴らだこいつらは。
「そこどいてくれる?」
校門を塞いでいた三人に俺は声をかける。
「あ? ってお前、人殺しじゃねーか」
三人の男子生徒は俺のことを知っているらしい。まぁそれも当然か……。
三人は俺を見てニヤニヤしながら俺の肩に手を置いた。
俺は無視して道を通ろうとしたが、その瞬間俺に向かって右ストレートがとんできた。
「なにすんだよ!」
「神隠しの犯人……お前なんだろぉ?」
「サラちゃんは元気してるかぁ?」
その後俺は一方的に暴力をうけた。俺が抵抗しないのがつまらなかったのか、三人のクラスメイトは舌打ちして帰っていった。
「あの……大丈夫?」
さっきの女子生徒が声をかけてくる。
「あぁ」
俺は全身ボロボロになっていたが心配はかけたくないのでそう答える。
「私をかばっくれたの?」
「通り道の邪魔だっただけだ」
俺はお前をかばった訳じぁない。結果二人とも助かっただけだ。
「これ、私の連絡先。助けてくれたお礼みたいなもの。受け取るだけでもいいから……」
なぜ連絡先がお礼なんだ。
「いらん。俺がどういう奴なのか聞こえてなかったのか?」
「でも、私からはあなたがいい人に見えた。だから……」
女子生徒は受け取ってと言わんばかりに俺を見つめてくる。
「わかったわかった、受け取ればいいんだろ……」
俺は彼女の気持ちに負けて連絡先を受け取った。
その後俺は女子生徒に病院に連れてこられた。
「別に大丈夫だって」
「大丈夫じゃない。酷い怪我よ! いいからついてきて!」
過保護な母さんみたいだな。
俺はそんな事を考えてると、ふと涙が出てきた。
「えっ!? そんなに病院嫌だったの?」
女子生徒は驚いた表情を見せた。
「ちっ違うんだ。これは……」
俺は咄嗟に涙を拭った。
「これは?」
女子生徒は俺に問い詰める。
「母さんのことを、思い出してたんだ……」
そういう俺に女子生徒は。
「……やっぱりあなた、良い人じゃない」
「えっ?」
「母親のことを思い出すだけで泣けるなんて、いい人以外の何物でもないわ」
そして女子生徒は俺を病院に送り届けた。
「それじゃ私、この後用事あって帰るから」
「あぁ、今日はありがとう」
俺がそういうと女子生徒はニコッと笑い、帰っていった。
次の日
昼休みの時間、俺が昼飯を食べているときだった。
ガシャー! ドンッ!
昨日の女子生徒が教室のドアをすごい勢いで開けて、キョロキョロと周りを見渡していた。
「あっいた!」
そう言うと女子生徒は俺の前まできて、俺を見つめてきた。
クラスメイト達はそんな女子生徒を見て動揺していた。
あのシルクが!? とでも思っているのだろう。
女子生徒はその後一言も喋らずに俺をずっと見つめ続けている。
「えっ?」
「えっ? じゃないでしょ!」
なんかよくわからないが怒ってるっぽい。
「ちょっとこっち来なさい!」
女子生徒は俺の腕を掴み取り、俺を引っ張っていった。
俺は学校の屋上まで連れていかれた。
「俺、何かした?」
とりあえず話を聞いてみようとした。
「したわよ! 普通連絡先もらったら登録するものでしょ!」
忘れてた……。なんとなく言い訳しとかないとな。
「でも、受け取るだけって……」
その言葉に女子生徒は激怒した。
「本当に受け取るだけなわけないじゃない!」
確かにそうだな……。
「早く登録して」
「今?」
「そうに決まってるでしょ!」
俺は彼女の連絡先を急いで登録した。
「『はんらんのぼす』ってお前の名前か?」
俺はスマホに登録された名前が気になったので聞いてみた。
「そんなわけないでしょ! 私はキリハ、反乱軍のボスよ。で、あなたは?」
「俺はシルクだ」
「よろしくねシルク」
やっと互いの名前を知り合ったところで、俺はとある疑問を聞いてみた。
「ところで反乱軍って何に反抗してるんだ?」
「魔王ジンよ」
「魔王ジンって英雄の?」
「そう、私見たの。魔王ジンが生徒会長のサラをさらっていくのを」
かの英雄ジンがひとさらい? そんなばかな……。
「そこで私はジンに反抗するために、反乱軍のメンバーを集めてるってわけ」
キリハが昨日絡まれていた理由がわかった気がした。おそらく英雄信者のこの国で、三人組の男子生徒に、英雄に反抗するため仲間になれ! と声をかけていたのだろう。
「それで俺を誘いに来たって訳か」
「あなたはもうメンバーよ」
いや俺いつ入るって言った。
そんな顔をしているとキリハは続けて話しだした。
「その連絡先を登録したってことは、メンバーの一員ってことなの」
そんなめちゃくちゃな。
俺は反射的にキリハの連絡先を消そうとした。
面倒な事には関わりたくないからな。
「あっそれ消したらあんたも消すから」
美少女の口から、めっちゃ怖いセリフがでてきた。
「わっわかった……」
俺は咄嗟にスマホの電源を切り、連絡先を消すのを諦めた。
その後俺はキリハに強制的に連れられて、反乱軍の基地についていった。
「見えてきたわ」
そんな事をキリハが言い出すと、学校の外に豪華な一軒家が見えてきた。
「あのでかいのが反乱軍の基地か?」
基地と思われる建物が、ものすごい大豪邸で驚いていた。
「何言ってるの、あれは校長の家よ」
なんだ違うのかよ……。
俺は心底がっかりした。
「ならどこに見えてるんだ?」
「あそこ」
キリハが指を指した方向に小さな小屋が見えた。
「あの小屋か、ちょっと小さくてボロいがなんとかやってけそうだな」
その時キリハは怒ったような暗い顔をした。
「あの小屋は私の家よ……」
えええっ?
「ごめんなさい!」
俺は即座に謝った。だけどなんで学校の中にキリハの家が? いや今はそんなことはどうでもいい。
「ほんとにごめん!」
「ふふっ冗談よ、あの小屋が私達の基地よ」
こいつ一度ぶん殴ってやろうか!?
そして俺とキリハは基地と呼ばれるボロい小屋に入った。小屋の中は少しばかりボロいだけでそれ以外には特に何もなく、どう見ても普通の小屋だった。
「皆注目して」
キリハの声に皆が静まった。
本当にボスだったのか……。
俺はこんなふざけた奴がボスで大丈夫なのかと思いつつ、皆の話を聞いた。
「彼は新入りのシルク、これから仲良くやっていってね」
そうキリハが俺のことを紹介すると、メンバーの皆も軽く自己紹介をした。
「俺は三年B組のディアス、魔法剣士だ」
「僕は一年A組のケン、上級魔道士をやってます」
「私は二年C組のカオリなの、司令塔なの。よろしくなの」
ディアスは大人のように男らしいがっしりとした体型だが、どこか優しい心があるようにみえる。
ケンは特に見た目に特徴はない。強いて言うならメガネが似合っている。
カオリは同級生とは思えない程に体が小さい。うん、本当に小さい……。
「……よろしく」
反乱軍のメンバーは俺を含めて五人しかいなかった。
てか皆、俺のことを知らないのかな……。
結構悪い噂で有名な俺をメンバーは向かい入れてくれたので、俺はそんな事を思う。
「俺達はこれから作戦に移る。お前もこい」
ディアスの言う通りにし、俺はボロ小屋の地下の作戦司令室に移動した。
作戦内容についてはカオリが説明していた。
作戦内容は生徒会長サラの奪還だった。
「サラちゃん奪還作戦、開始なの!」
カオリの合図の後、皆が動き出した。
俺は入団初日だったが、キリハとディアスと共に出発した。
ニニホを出て少し西に行ったところに森があった。サラが捕らわれているという地下牢獄はこの森の中にあるらしい。
「時間が無い、いそぐわよ!」
キリハのかけ声に皆が応えて、全力で森を駆け抜けた。道中魔物が出現したが、皆足を止めることなく魔物を一掃していった。皆慣れているのか足がとても速かった。俺はそれに必死についていった。
そして──。
「ストップ!」
キリハの合図がかかり、俺とディアスは草の茂みに隠れた。
「ここがサラがいるっていう地下牢獄よ」
地下牢獄の入口はトンネルのようになっていて、看守らしき魔物が二匹で門番をしていた。
「ディアス、お願い!」
「了解した!」
キリハの命令の後、ディアスは直ぐに刀を持ち魔物二匹に向かって走っていった。
そしてディアスは魔物を一撃で倒した。
「さあ、いくぞ!」
地下牢獄の中には看守の魔物が大量に住みついていた。
「ここの道は俺が開く」
「わかったわ。シルク着いてきて」
キリハはただひたすらに魔物の大群に突っ込んでいった。
俺は死ぬ覚悟でキリハについていった。
「どうなってもしらねーぞー」
ディアスは詠唱を唱えていた。
「伏せて!」
俺はキリハの合図に従いとっさに伏せた。
「フレイムカッター」
ディアスの魔法が発動しディアスが持っていた刀をひとふりすると、刀から炎の斬撃がとんだ。
魔物がいっそうされ道が一瞬開けた。道の先には扉が見えた。
「さぁいけ!」
俺とキリハは道の先の扉に全力で駆け込んだ。後ろはもう魔物でいっぱいだった。
扉の向こうは奇妙なほど静かで暗い部屋だった。足音は水たまりを踏んだ時のような音がした。
「はぁはぁはぁ」
俺は地面に手をつけた。俺は今ので意外と体力を消耗していた。
「こんなんでへばってたら、この先死ぬわよ」
「すまない……」
俺は申し訳なさそうに謝る。
キリハは詠唱を唱えて始めた。
「ライトニングソード」
キリハは魔法で光る刀を作り出した。それと同時に、辺り一面がライトニングソードの光で明るくなった。
「わっあぁ!?」
俺は声を上げすぐさま体勢を立て直した。俺の手は赤く染まっていたのだ。
「これがジンのやり方よ」
キリハがそう言うと、俺は疑心暗鬼にも納得した。
これが英雄の本性……。
「きゃぁぁあ!」
部屋の奥から悲鳴が聞こえた。
俺達は悲鳴が聞こえた方向に駆けつけた。そこには、神隠しでいなくなった生徒会長のサラが気を失って倒れていた。そのすぐ傍にはデーモンキングが立っていた。
「シルク、下がってて。ここはボスの私がいい所見せてあげる」
そう言うとキリハはライトニングソードを構えた。
その声に気づいたのか、デーモンキングがこちらに振り向く。
「笑わせるな。お前みたいな小娘に、俺がやられるわけがないだろ」
あの気配、今までのとは全く違う。俺はデーモンキングを一目見ただけでわかった。
あいつは強すぎる。
「キリハ、危険だ!」
「まったく私を誰だと思ってんのよ……」
俺の忠告を無視してキリハはデーモンキングに突っ込んでいった。
そしてデーモンキングの持っているヤリとライトニングソードがぶつかり、その反動でデーモンキングとキリハは距離を開けた。
「ほぅ少しはやる様だ」
デーモンキングは上から目線だが、キリハの実力に驚いているのは確かだ。俺も内心めっちゃ驚いている。
「だがこれならどうだ!」
デーモンキングはヤリに炎を纏わせて突いた。
「あまい!」
キリハはデーモンキングのヤリを受け流した。
「奥義疾風斬り!」
キリハは一瞬でデーモンキングを斬った。
デーモンキングは一瞬何が起きたのか分からなかったのだろう。視界から一瞬で消えたキリハを探していた。
そしてデーモンキングに激痛が走る。
「なん……だと……」
「私はリリィーライトベル。最後の勇者の転生者よ!」
転生者!?
「リリィ……ライトベル……」
その時俺は前世、リリィに聖剣で刺された瞬間を思い出したのだった。
ご高覧ありがとうございまた!
感想等頂けると幸いです。
次の投稿は10月2日21時となります。




