1.〜前世の記憶と俺の妹〜
ここは魔王達が支配する世界。この世界では今も魔王と勇者の戦いが続いている。
そんな世界に人間の仲間をする魔王がいた。
俺は魔王ジェノバ。人間大好きな異例の魔王だ。それゆえに俺は他の魔王達に嫌われている。だがそんな事はどうでもいいほどに人間が好きだ。だから他の魔王なんて気にしていない。
俺はこれから大事件に巻き込まれるのだが、その事は今の俺には知る由もない事だ。
ある日俺達家族は狩りに出かけた。
察しはつくだろうが俺達の狩りの対象は人間だ。人間大好きな俺は、父さんに頼んで狩りを止めさせようとしていた。
「父さん! 人間はいい種族なんだよ! もう人間の町を焼き払うのはやめてよ!」
俺は父さんに俺の願いを必死に訴えかけた。
「なんだジェノバ、お前はまだわかっていないのか? なぜ俺達が人間を襲うと思う?」
「なぜ?」
俺は気になって理由を尋ねてみる。
「そんなの面白いからに決まってるだろ?」
「なっ……」
まともな理由じゃない。そんなことしていい訳がない。
「見てみろ弟のカイラもわかっていることなんだ」
弟のカイラは燃えた町をさらに炙っていた。カイラは町や人を焼き払うことに快感をおぼえていたのだ。
「あんなの人間が可哀想だ!」
「そんなのは関係ない、あいつらが人間として生まれてくるのが罪なんだ」
俺は父さんが言っている事の理不尽さに腹が立った。
そして父さんは再び町に飛んでいった。
「あんなのあんまりだ!」
俺は他の魔王が嫌いだ。理由は言うまでもなく、俺の好きな人間をおもちゃのようにするからだ。
「兄さん、俺も人間はかわいそうだと思うぜ」
弟のカイラが帰ってきた。
「ならもう──」
俺は弟が今やっている事の残酷さを教えようとした。そして人間の良さを教えようとした。
「だって人間として生まれてきちまったんだからな!」
だがカイラは既にほかの魔王達と同じ状態だった。
「俺達に遊ばれるために生まれたんだぜ? こんな滑稽なものはない」
カイラは笑いながら。
「取り消せよ!」
俺はこのときカイラが放った言葉にカチンときた。
「えっなに?おこった?ははは」
「カイラ、てめぇ!」
俺はカイラを全力でなぐった。
「いっいってぇ──なにすんだよクソ兄貴! 父さんにいいつけてやる!」
カイラは町の方にむかっていった。
俺はますますほかの魔王のことを恨んだ。
「わっ私はお兄ちゃんは悪くないと思いますよ」
そういってくれるのは妹のサクヤだけだった。
「だって人間さんはいつも平穏に暮らしているだけなんですから! それに人々は支え合って生きていく素晴らしい種族なんです。だからお兄ちゃんはいつも人間さんの味方をするんですよね?」
俺は妹のサクヤとだけは仲がよかった。サクヤは他の魔王とは違うのだ。
支え合って生きていく素晴らしい種族か。
「まぁそうだな。それに俺は人間のことが好きなんだ」
「魔王が人間を好きだなんて、やっぱりお兄ちゃんはかわっていますね」
サクヤも人のこと言えないだろ? と俺は心の中で答えた。
次の日
俺は父さんの命令を受けて大都市ニニホに向かった。妹のサクヤも一緒だった。サクヤは父さんが付けた監視役らしい。
俺達の任務は聖剣の回収だ。聖剣とはその刃で斬った魔のものを消し去る剣のことだ。人間に直接手を下していない俺達は有名な魔王ではなかったし、人間と姿形が掛け離れているわけではなかったから、聖剣の回収には適任だったらしい。
俺達は人間のことが好きだが一様魔王。道中出会った魔物たちは俺達を避けていく。
「俺達の姿ってそんなに怖いのかな……」
逃げていく魔物に対して俺はそんな事を思った。
「ここら辺の魔物は非常に弱いので人を見ると直ぐに逃げてしまう習性があるんですよ。多分私達を冒険者達だと思って怖がってるんですよ」
声に出ていたらしい。
「だからお兄ちゃんの姿は全然怖くなんかないですよ?」
サクヤはそんなことを言った俺を慰めてくれた。
でも俺一様魔王なんだけど……。
そんな事を話していると、目的地が見えてきた。
「ここがニニホか」
大都市ニニホというだけあって、街にはいたるところに綺麗な水が流れていて、家の一軒一軒が道や川のみを残してずらーっと並んでいた。
街の外の崖から見た絶景が目に焼き付いた。
ニニホのような大都市には一度行ってみたいと思ってたんだよな。
「せっかくだし観光していかないか?」
「お兄ちゃん、命令に背いたらお父さんに怒られますよ?」
サクヤは俺のことを心配してくれた。
「背いてなんかないさ。なにせ聖剣とやらの場所も、この大都市にあるって話しかないんだ。情報収集がてら──なっ? いいだろ?」
「わっ私はいいですよ。もちろん」
少しサクヤが赤くなりながら答えた。サクヤも観光したかったのだろうか。
そして俺とサクヤはまた少し歩きニニホ観光を始めた。
「お兄ちゃん、あれはなんて言うんですか?」
妹のサクヤは外に出ることはあまりなく、人間の物をあまり知らなかった。
「これはアイスクリームって言って、冷たくて美味しいんだ。買ってやるよ」
「いいんですか?」
サクヤが目を輝かせている。
「あったりまえだ」
「でもそのお金って、兄さんが家で働いて稼いだお金じゃ……」
「遠慮しない遠慮しない」
アイスクリームを買ったあと、俺達は人通りの少ない場所に来ていた。俺達はこのあとも情報収集をしつつ、ニニホ観光を満喫しようとしていた。
だがその町には大地の魔王ジンがいた。この世界には俺達空に城がある空の魔王や、大地に堂々と城がある大地の魔王、海の中に城がある海の魔王がいる。大地の魔王と海の魔王は仲が悪いが、それを超えて空の魔王は仲が悪い。
「そこにいるのは人間かぶれの小鳥魔王じゃねーか」
ジンが俺を馬鹿にしたような呼び方で声をかけてきた。
「お兄ちゃん……」
サクヤは怖がっていた。
「ジン、何しに来た?」
俺達はジンと距離をとった。
「聖剣の回収に決まってんだろ?」
どうやら聖剣があるってのは本当だったらしい。
「悪いがそれは俺達が頂く! お前にだけは渡さない!」
俺とジンは昔からとても仲が悪かった。
「ほぅ威勢だけはいいようだ、だが今戦闘はやめといた方がいいぜ?」
「お前の口車に乗る気はない! アクアサーベル」
俺は魔王ジンに突っ込み首を斬ろうとした。だが俺はジンの口から恐ろしいことを聞く。
「今この街には勇者がいる」
「なっ!?」
今の勇者は若き天才とも呼ばれている少女リリィーライトベルだ。
俺はアイスサーベルを解除した。魔王にとって、やはり勇者は天敵だ。父さんも勇者にだけは絶対に会ってはいけないと言っていた。
「でももう遅いかぁ魔法使っちゃったからなぁ……まぁせいぜい頑張んなぁ」
そういうとジンは砂となって消えていった。
勇者は魔王が使った魔法の気配を察知できると、昔読んだ本に書いてあった。
「すまないサクヤ、ここから離れるぞ!」
「はっ、はいお兄ちゃん」
俺はその場から全力で逃げた。
だが勇者は走っている方向にいた。勇者の仲間は最上級魔法の詠唱を唱え始めた。
俺は逃げることを最優先し、後ろに振り返ろうとした。
だが俺の足は動かなかった。俺の足は震えていたのだ。
「サクヤ逃げろ!ここは俺がなんとかするから……」
「でも──お兄ちゃんは……」
「いいから早く!」
だがサクヤは逃げなかった。
最上級魔法の詠唱が終わりでかい炎の槍ができていた。
「サクヤ! 早く!」
「インフェルノランス」
まずい死ぬ!
たがその時、サクヤは俺の目の前にでて俺の方を見て大の字になった。サクヤは俺をかばって、インフェルノランスをまともにくらった。俺はサクヤの血をあびた。
「サッサクヤッ!」
サクヤは笑っていた。
「やっと……お兄ちゃんの……役に立てました……」
「何言ってるんだよ。サクヤは充分俺の役にたってた!」
サクヤは俺にとって唯一の心の支えだった
「いままで……たのしかったですよ……」
「そんな……別れの挨拶みたいにいうなよ……」
俺の頬には大粒の涙が流れていた。
「お兄ちゃん…………だいすき……」
そう言うとサクヤは目を閉じた。
「おいっ! サクヤ……サクヤ……」
俺は涙がとまらなかった。
「なんでだよ……なんで……」
俺は怒り狂っていた。気づけば足は普通に動いていた。
「なんでってあんたは魔王、私達は勇者。ただそれだけよ」
確かに勇者は当然の事を言っていた。
「ふざけんなよ!」
俺はただそれだけの理由ということに腹が立った。
「俺達は人間を殺したりしてないし、俺達は人間が大好きだった!」
「なっ!?」
勇者リリィは驚いた表情を浮かべていた。
「だがその人間は唯一無二の俺の妹の命を奪った。だから俺はもう、人間のことを許さない!」
そういうと俺は両手を大きく広げた。
「グラビティーアースクエイク!」
「無詠唱で大災害級魔法!?」
勇者リリィは驚いていた。
何もない空間に亀裂が入ると同時に、大地が沈み割れていく。
俺はすべての魔力を使い大都市ニニホに大地震を引き起こした。
だがそのとき勇者は聖剣で突き刺した。
「私はお前が本当のことを言っているのかわからない。だがもし今のが本当だったなら、私達はいい友達になれたのかもしれないね」
「そんなわけ……」
そして二人は大地震によって消滅した。
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