3.〜そして少女は嘆いた〜
カオリ達の言い争いはエスカレートしていく。
「わたしじゃない! 私じゃないのに……なんで皆分かってくれないのよ!」
「お前以外に誰がやったと言うんだ。俺は見たんだ。お前が俺達の故郷を燃やし、家族を焼き払ったところを」
ディアスはセリナに追い討ちをかけるように怒鳴る。ディアスに怒鳴られるとかなり怖いだろう。
「私だって、私だって……っ、誰がやったかなんてっ、わかんないですよ!」
セリナは鼻をすすり、涙をこぼしながらながら嘆く。
パシンッ!
カオリがセリナの頬を叩く。
「私は見たの! あなたが私の目の前で! 目の前で……カンナを……!」
カオリは涙目になりながら怒鳴る。おそらくカンナとはカオリの双子の妹なのだろう。
ドカンッ!
その時突然木が壊れるような音が鳴る。そして扉から聖剣を持ったシルクが現れる。
「「シルクッ!?」」
カオリとディアスが同時に音がしたドアの方を見て、俺の名を呼ぶ。
魔法で結界を張っていたはずなのに出てきたのだ。普通驚く。
そして俺はドアの傍にいるセリナをかばって立った。
「やっていい事と悪いことがあるだろ……」
俺はカオリの仕打ちに対して激怒する。
「サラのためを思って俺はこの作戦に参加した。だがカオリやディアスは仇だのなんだのって──」
「何が言いたい! 俺達の故郷を破壊したのはこいつなんだ。今だってなにをやらかすか──」
「本人が違うって言ってるだろ!」
シルクの放った言葉にはなんの根拠もない。そしてディアスの放った言葉には根拠がある。この口論はシルクが負けるだろう。だがシルクはそれを認めない。
「シルクはもっと冷静なやつだと思ってた!」
「冷静じゃないのはどっちだよ!」
そして俺達の口論は終わりが見えないなと思っていた時だった。
「先輩、捕まって!」
俺はとっさの行動で、ドアのそばに居るセリナの手を握りドアを出た。
店の傍には名前を知らない女子生徒姿があり、魔法の詠唱を唱えていた。
俺はその女子生徒を無視してセリナの手を握ったまま走った。
「インフェルノランス!」
完成した魔法が飛んでくる。
だが俺にはもう魔法は効かない。この聖剣があるかぎり。
俺は聖剣をインフェルノランスに当てる。するとインフェルノランスは一瞬で消え去る。
「えっ!?」
女子生徒は驚いているようだった。俺も今のこの状況に驚いている。
まさかこんなことになるとはな……。
俺達はそのまま遠くに走り続けた。
そして俺はセリナを連れて自分の家までやってきた。
セリナは今日、俺の家に泊まることになった。
食事は久しぶりに俺が作り、セリナには先に風呂に入ってもらっていた。
食事の準備ができると俺はセリナを呼びに行く。
「セリナ、ご飯できたぞぉおお?」
俺とセリナは同時に風呂の扉とその手前の扉を開けて鉢合わせる。
「ごめんなさい!」
そう言って俺は扉を閉めた。
その後セリナの反応はなかった。ご飯の時も……。
だがそんな俺にこっち来てと手を振った。
俺はセリナの誘いに乗りベッドの方に近づく。
おそらく先程の出来事の話だろう。
「ごめんなさい!」
「あの、えぇ!?」
俺の『ごめんなさい』とセリナの『あの』のタイミングが同じだった。
そしてセリナは驚いた。
「その、俺がノックさえすれば──」
「その話じゃないの」
えっ?
「もちろんその件は私も怒っているわ」
「ごめんなさい」
俺はごめんなさいを連呼する。
「でもそんなことより、ありがと。助けてくれて」
『そんなことではないと思うが』という気持ちは置いておこう。許してくれたんだ。
ていうか俺は本当になぜあんなことをしたのだろう。もしかしたら本当にセリナがカオリ達の南の島のオーガス村を滅ぼした犯人なのかもしれないのに。
「私ね、嫌われてるのよ」
『知ってる。見てたから』なんて言えないよな……。
「オーガス村を滅ぼしただのって言われてね。でも私、本当にそんなことしてないのよ。オーガスって村も知らないし、私にはそんな力もない」
この時俺はなんの根拠もないがセリナを信じようと思った。同情みたいなものだ。
「なのに……どうして私なのかな……私ばっかり虐められるのかな……似てるから……? そんなの認めない……! 認めるなんて、出来るわけないじゃない……」
セリナは涙目になりながら嘆いた。
「俺はセリナ先輩を信じるよ。どんなことがあっても守ってみせる」
俺の言葉を聞いたセリナは、涙を堪えきれずにポロポロと流し出す。それは守ってくれる人ができたからではないだろう。
それは『初めて自分を信じてくれた』ことによる安心感やありがたみから出る涙なのだろう。
「本当にありがとう……」
それが彼女の最後の言葉になった。
ご高覧ありがとうございます!
感想等頂けると幸いです。