トーストと純バターの香り
ママのお友だちの家が何件か近所にありました
その中の一軒の家にママと一緒に行った時のことです
何だか外国の家に来たように思います
おばさんは、分厚い食パンに純バターを
塗るときれいな模様のお皿で出してくれました
トーストの焦げ目と純バターの香り
決して広くない庭ですが
本で読んだ秘密の花園のようです
おじさんが庭にいるのを見かけましたが
背が高くて外国の人のように見えました
息子が二人いましたが
どちらも幸よりずっと年上でした
おばさんが息子の名前を呼びます「ジョージ、ジョージ」
それは、まるで外国の家に迷いこんだようでした
五年生になった頃
回りの空気が動き始めたような
巻き込まれるような感覚がしていました
パパの動きが変わってきたのです
サラリーマンで殆ど家にいないはずのパパを
ちょこちょこ見かけるようになります
ヤクルト配達も一年生から続けていますし
学校も田舎の風景もこれといって
変わったことはありません
夏休みも伯父さんの家で過ごし
何も変わっていないはずです
幸は何かを感じていましたが
これから起こる出来事が
幸の家族に大きな変化をもたらすことに
なろうとは思ってもいませんでした
幸 小学校五年生
秋が近づく夏の終わりです
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少し焼きめがついたパンにたっぷり塗られた純バター
お寿司食べたいと幸が言った時
パパは食卓に出ていた白菜の漬物に
ご飯を巻いて「はいお寿司だよ」と差し出しました
そのお寿司の匂いは、田舎の香りそのものでした
そんな生活の中で口に広がったトーストとバターの
香りは幸が初めて出会った香りだと言っても
過言ではなかったのです




