お風呂に入ってきなさい
幸の家にはお風呂がありません
お風呂に行く日はママの自転車の後ろに
乗って出かけます
自転車で30分のところに銭湯が一軒あります
幸の同級生の男の子の家でもあります
行く時間は学校から帰るとすぐに行きます
明るい間に行くのが決まりでした
ママは幸の日焼けした体を垢擦りで
ゴシゴシすると、足首を念入りに洗ってくれました
1度だけパパと銭湯に行ったことがあります
パパがあまり家にいないので
銭湯の湯気や人の話す声や桶がカタンと鳴る音で
パパを見失いそうになります
幸はお風呂に入るとすぐに
パパを見分ける印を見つけようとしました
するとパパの背中の肩の辺りに
茶色の小さなあざがありました
それで幸はパパを見つけることができました
冬になると銭湯まで行けません
隣の家のお風呂を借ります
幸はお風呂が好きではありません
本を読んでいると突然
お風呂に入ってきなさいと言われます
そう言われると一人でしぶしぶ
隣の家のお風呂に入ります
「お風呂に入ってきなさい」
この言葉が恐怖に思えます
ある夜
お風呂に入ってきなさいという
ママの声がしたので
隣の家へ行きお風呂に入りました
次の日
隣の家のおばさんとママが何やら
笑いながら幸の方を見て言いました
「さっちゃんが真夜中にお風呂に入りにきたのよ」
言われても何の事なのかわかりません
「幸、あなた寝ぼけて夜中にお風呂に来そうよ」
夢遊病?と幸は怖くなりました
幸は本を読んで夢遊病という
難しい言葉の意味を知っていました
本を読むと、前後の話しから
何となく言葉が意味していることを
小さな子供でも理解できるようになります
自分が夜中に!
そんな幸を尻目におばさんとママは
楽しそうに笑っていました
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幸は強要されずに育ちましたが
隣の家のお風呂のことだけは
毎晩言われていたようですね
大好きなママと大嫌いな隣の家のお風呂
夢にまで現れた「お風呂入ってきなさい」なのでした




