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今日から鍛錬だ!其の三

久しぶりの投稿です。

 まだ日が昇りめた頃、自室で飛燕は大きな欠伸をしていた。早朝にも関わらず、すでに髪を結い、寝衣から軽装に着替えている。床をトントンと蹴りつけて準備運動をし、どこからか出した木剣を持って庭へ出る。庭へ出た飛燕は心なしか晴れやかだった。多分、父に剣稽古をする許可がもらえたからだろう。許可が出なくても飛燕は剣稽古を止める事はないだろうけど、こそこそやるのはやっぱり罪悪感があるから、許可がもらえて良かった。

 しかし、と飛燕は思う。一人で木剣をブンブン振るだけではなんとも張り合いがない。


 「やはり、一人じゃつまらんな、、、」


 思わず独り言が漏れてしまった。そして心中では、「師を付けてもらった所で一から始めるのはな、、、」と続けた。八つの飛燕が出来る事は、体力作りの為に地道な修行だけである。

 それにしても、と木剣をブンブン振りながら飛燕は思ってしまった。昔の事を思い出してしまうと今の生活は何ともつまらない、と。別に大きな戦が起こって欲しいわけではない。今戦が起こったところで飛燕が戦に出してもらえるわけでもないしそもそも戦は嫌いだ。ただ、隆飛だった時は戦ばかりで辛い事も沢山あったが退屈する事がなかった。当時は英陵に連れまわされて国に関わる事以外でも厄介ごとに首を突っ込んでいたし、、、隆飛はそもそも庶民の出だから城下を散策するのが好きだった。

 もんもんとそんな事を考えていると、女官の桂花の声が聞こえてくる。あんなに早く起きたのに、もうそんな時間か。


 「おはようございます。殿下そろそろ朝餉のお時間です。準備をいたしませんと。」


 「おはよう、桂花。今日はいつもより早いんじゃない?」


 「聖上から朝稽古の事は承っております、湯を準備させていただきました。汗を流したいでしょう。」


 やれやれという風に桂花は言った。この公主付きの女官はとても優秀で世が世ならとっくの昔にお手付きがあったはずだ。父は、母が後宮に嫁いできた時に他の妃たちを後宮から追い出してしまったので、今後宮にいる女官たちは皆、皇帝家の使用人なのである。


 「そっか、ありがとう。相変わらず気が利くね。」


 「有難いお言葉でございます。」


 飛燕の言葉に応じた桂花は、飛燕の湯あみの準備を始めた。桂花が用意してくれた湯には、香りの良い可愛らしい花が浮かんでいた。

 湯あみを終えた飛燕は、女官たちを伴って朝餉に向かう。母が待つ部屋からはいい匂いが漂ってくる。朝早くから稽古をしていた飛燕は、早く朝餉にたどり着きたいので早歩きになっていた。


 「お早うございます、母上!今日はいつもより朝餉が美味しそうですね!」


 「お早う、飛燕は今日も元気ね。朝餉は沢山あるから、好きなだけお食べなさいね。」


 「そうですね!では、遠慮なく!」


 発した言葉の通り、飛燕はもしゃもしゃと朝餉を食べ始めた。まずはお腹を慣らすためにスープを飲み、春雨と胡瓜を酢で和えた物を食べ、卵入りのお粥に口を付けた。他にも辛めのたれがかかった冷たい豆腐等、机の上にある料理全てに口を付け、最後は果物まで美味しく頂いた。

 その様子を見て、皇妃や女官たちはあっけにとられていた。飛燕が食後に出されたお茶をすすっていると、皇妃が微笑みながら飛燕に声を掛ける。


 「今日は随分と沢山食べるのねえ。その様子だと、朝から頑張ってお稽古してきたのね?」


 「はい!とても充実した時間を過ごしました。」


 「聖上が武術のお稽古を許してくれてよかったわねえ。」


 「母上が事前に聖上に言っておいてくれたおかげです。本当に有難う、お母さま!」


 「私は対した事はしていないわよ。貴女がとても嬉しそうでよかったわ。」


 皇妃はふふっと笑った。娘がこんなに嬉しそうにしている事は珍しい。飛燕は昔から普通の姫が喜ぶ様な事ではしゃいだりはしなかった。皇帝からの贈り物の服や装飾品等も喜んではいた様だが、はしゃいで喜んだりはしなかったし、楽や詩も嗜む様にという風で、あまり楽しそうではなかった。なので、飛燕が真剣に頼んできた事が剣の稽古の許しだった時は驚いたけれど、皇妃は安心もした。娘が心からの楽しみを見つけられたのだから。


 「そういえば飛燕、今日は老師たちは用事があるから貴女の午後の予定は無くなってしまったの。だから、午後は好きな事をしなさい。よかったらお昼ご飯を一緒に食べましょうね。」


 「母上とお昼を一緒に食べられるなんてあまりないから嬉しいです!」


 飛燕の母である皇妃は、後宮の長であり、管理人である。重い責務を負い、人々の上に立つ孤独な皇帝が、唯一休める居場所を皇妃自ら守り、管理しているのである。その仕事は多岐に渡るので、皇妃は昼間に娘といられる時間は少ないのだ。だから飛燕は皇妃の言葉が嬉しかった。それに、午後のお稽古がない事も。

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