今日から鍛錬だ!
明け方から少し時間が経って、鳥がホーホーと鳴き出した頃、飛燕は目を覚ました。
「あれ?なんで私は自分の部屋に?」
そう呟きながら飛燕は考えた。
そうだ、思い出した。系図を見た後、あんまりにも寝不足過ぎてぶっ倒れたんだ。多分。
飛燕は昨日の事を思い出した。正確には覚えていなかったが、だいたいは合っているだろう。
「それにしても、随分と早く起きたなあ。朝餉の時間までまだまだ時間があるし、、、」
体がうずうずして来た飛燕は、寝台からのそのそと出る。寝台から出た後は、動きやすい服装に着替えてから長くて黒い髪を一つに束ねた。身支度を終えた飛燕は何となく隠し持っていた木剣を手に取り、にっと笑った。
「さてと、始めるか。」
飛燕は何か決意して庭へ出た。
庭へ出た飛燕は、まず軽く準備運動をしてから木剣をブンッブンッと振り始めた。
こうして朝稽古をしたのは久しぶりだな。多分、昔の記憶をはっきりと思い出したから、隆飛だった時の習慣で目覚めたのかもしれないな。
飛燕の寝室がある宮の庭は、人から目に付かない所にあり、飛燕は心ゆくまで剣を振り続けた。一汗かいた飛燕は部屋に戻ると汗を拭いた。飛燕が座って体を休ませているとコンコンッと扉から音がした。
「公主殿下、入らせて頂きます。」
飛燕付きの女官である桂花が部屋に入って来た。部屋に入った桂花は椅子に座っている飛燕には気付かずに真っ直ぐに寝台へと向かってしまったので飛燕は声を掛けそこなっていると桂花が空の寝室を見て声を上げた。
「殿下がいないわっ、どうしましょう!」
桂花は慌てて声を上げた。
「桂花、私はここよ。お早う。」
桂花はへ、と飛燕の方を向いた。飛燕を見た桂花は動揺しながらも礼をして飛燕に挨拶をした。
「公主殿下、お早うございます。今日はお早いのですね。」
「うん、たまにはね。それよりも頼みがあるんだけど。」
「何でしょうか。」
「汗をかいたから湯浴みをしたいな。」
「は、はあ。かしこまりました。」
昨日に続いて殿下はどうしたんだろう。二日続けて、自分で起きているなんて。しかも、なんだか雰囲気が違う気がするわ。あどけなさがなくなったというか、、、
桂花は悶々と考えながらも、部下に指示して着々と飛燕の湯浴みの準備をする。そんな桂花を見て飛燕は、何か考えているな、何かまずい事をしたかなと思ったが気にしない事にした。
女官たちが用意してくれた湯で汗を流していたら、桂花が当然といえば当然の質問をして来た。
「殿下?何故汗などかいておられるのですか?私が来た時には既に着替えてらしたし。」
「うーん?怒らないでね?ちょっと剣の朝稽古をね?」
「剣!?やんちゃな方だとは思っていましたが剣ですって!?怪我をなさったらどうするおつもりです!」
桂花が思ったよりも勢いのある剣幕で心配して来たので飛燕は急いで誤魔化す。
「しゅ、趣味よ!趣味!大きくなったら将軍になりたいとか戦に出たいとかそんな事言わないわ!」
「当たり前です!そんな事、聖上や皇妃様がお許しになりませんわ!」
「で、でもね?公主たる者、護身術として武芸を習うのは悪い事では無いと思うわ!」
飛燕は必至の説得をした。桂花は怪我をしたらどうするか、殿下はただでさえ女らしくない所があるのに武芸等始めたら益々うんぬんかんぬんと主張したが飛燕が涙目で懇願を始めたので桂花はついに折れた。
「仕方がありませんね、殿下はこうと決めたら譲る方ではありませんもの。聖上と皇妃様に反対されても味方をさせていただきましょう。それに殿下は誰にも許されなかったら勝手に後宮を抜け出して、勝手に武芸に励むでしょう。そんなことになるくらいなら目の届く範囲にいてくれた方が良いですからね。」
「、、、その手があったね!!」
飛燕は桂花にきっと睨まれた。最初からそうしておけば良かったと思わなくも無かったが、そんな事を言ってしまえば桂花から落雷が落ちてくるのは明白であったため口の中にとどめた。
「桂花!朝餉の時に母上にお願いするから援護射撃よろしくね!」
桂花ははいはいと言って、飛燕の身支度の仕上げを行った。
朝餉の場に行くと、飛燕はさっそく母に武芸を嗜みたいと、色々と屁理屈を混ぜつつ頼んだ。皇妃はうんうんと頷きながら話をきいてくれた。
「私も武家の出身ですから、護身として武芸はたしなんでいます。だから貴女が武芸を習う事に反対は致しません。それにしても貴女は昨日の朝から様子がおかしかったし、書庫で眠ってしまったと聞いた時はとても心配をしたのだけれど、今朝は元気になってよかったわ。」
「ご心配をおかけしていた様で申し訳ございませんでした。」
飛燕がしょんぼりしながら言うと皇妃は貴女が元気でいてくれたらいいのですよ、と答えた。
「飛燕、この事は私から先に聖上にお伝えしておきましょう。あの方も反対はなさらないとおもいますよ?」
「本当ですか!母上!ありがとうございます!」
皇妃の許しを得た飛燕は元気に朝餉をむしゃむしゃと食べ始めた。
「貴女からは玉の揺籃の時に聖上お伝えしなさい。」
玉の揺籃とは聖上が飛燕が七歳の時から続けている、夜に飛燕が眠りにつくまでの二人の時間の事を言う。これを後宮では皇帝の揺り籠、という意味で玉の揺籃の時と呼ばれているのだ。
「わかりました!そうすることにいたします!」




