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劉脈図 其のニ


飛燕は、今日の公主としての政務や公主教育を済ませ、やっとの思いで書庫までやって来た。飛燕があまりにも勢いよく書庫の扉を開けたので昼寝をしていた飛燕の歴史の師である馮太師が何事じゃと飛び起きた。


「なんじゃあ?賊でも押し入ってきたか!」


「賊ではない。馮太史、昼寝は満喫されたかしら?」


冷めた声で声を掛けられた老人は、やれやれというふうに飛燕の言葉に応えた。


「姫よ、老人をいたぶるものでは無いですぞ、ぽっくりいってしまったらどうするおつもりか。」


馮太師と他の朝廷三官は飛燕を姫と呼ぶ。皇帝である父を幼い頃から知っており、先代の皇帝の御代を支えた功臣である。朝廷の古株であるこの老人は意地悪な所はあるが飛燕を可愛がっていた。


「こんな事でぽっくり逝っていたら、貴方は今頃ここにはいないでしょうね。」


飛燕はそう皮肉ったが、これは冗談ではない。この国は劉璜が土台を作り、その息子である劉邦が骨組みを建てた。馮太師は劉邦の骨組み作りの中心人物である。官吏の登用方法に科挙を取り入れ、法を整備し、画期的な政策を行った。馮太師は国を現在に至るまで官吏として導いてきたが反面、急速に変わっていく時代についていけなかった者たちを敵に回してしまった。本人の性格もあって敵は多く沢山の刺客が彼のもとに送り込まれた。彼は歴史上でも稀なほど暗殺者を送り込まれた男である。馮太師はそれを跳ね除けていまに至るのだ。


飛燕には馮という姓の者に覚えがあった。その者は目の前にいる馮太師によく似ていた。そして、その僚友の幼い子供を抱いた事があるのを思い出した。


「まったく。あの小さな坊やがよくもまあ、、、」


ハッとした飛燕は口を閉じた。思わず口に出してしまった。何やら馮太師が疑う様な目線をこちらに向けている。


「何かいいましたかな?姫よ。」


「な、なんにも言っていないから気にすんな!」


馮太師はますます変な顔でこちらをみた。


「姫や、言葉遣いがちと乱暴ではないか?違和感はないが、、、」


しまった!と飛燕は思った。生前に知っていたやつだと昔の話し方になっちまう!はやく訂正せねば!


「今のは、その、貴方が変な事を言うからでしょう!」


「もしかしてさっきのが素ですかの?未来の劉王朝が心配でなりませんなあ。」


飛燕はむかっ腹が立って来たが、自分には目的があった事を思い出し、飛燕はぐっと堪えて馮太師に本来の目的を伝えた。


「劉脈図を見せて頂戴!」


「ほ?劉脈図ですか、貴女がそんな物に興味を示すとは珍しいですなあ。いつも私の話を聴くときは船を漕いでいるのに。」


このじじいはいちいち嫌味を言わなければ気が済まないらしい。


「いいから見せなさい!」


馮太師はしょうがないですなあと言いながら書庫の奥にある部屋へ入っていった。そこには劉脈図の他にも大切な書物が保管されている場所である。


嫌味老人がよっこらせと系図を卓の上に広げた。そこには初代の皇帝を始めとする名とする妃や子供たちの名が沢山載っていた。


「ありがとう、馮太師。では少し私を1人にしてほしいの。用を終えたらすぐに使いをやるから。」


飛燕が厄介払いをしようと馮太師に外へ行くように伝えると老人は、この様なじじいを外に追い出すなんて酷い姫じゃ、などと言いながら出て行った。


「さて、やっと一人になれたな。」


馮太師によって広げられた図を見た飛燕は、まじかよ、と思わず声を出した。劉脈図には外戚の名も三等親まではのる。そこには汀隆飛の名が記されていた。そしてその名の下を辿ると現在の皇帝の妃の元に辿り着く。現妃は隆飛の孫に当たる。つまり、父の言う通り飛燕は隆飛の孫に当たるのであった。飛燕としてはややこしさを禁じ得ない。しかし、どうしてこうなったのか。


「俺は仏教徒ではなかったから輪廻転生とか関係ないだろうしなあ。」


「うん、でも俺はこれから飛燕として生きて行くしかないから考えてもしょうがないな。」


飛燕は両手で頰をバシッと叩いて気合いを入れた。


「よし、馮太師に使いをやるか!」


飛燕に呼び戻された馮太師は学問の授業を始めた。授業が始まるとすぐに飛燕姫はぐーすか卓に突っ伏して眠り始めた。姫が授業中に居眠りを始めるのは今に始まった事ではないがこんな豪快に寝たのは初めてだ。姫は普段から真面目な弟子とは言えないが出来が悪い弟子でもなかった。むしろ年の割には良く出来ている方で居眠りしている時は既に彼女の頭に入っている授業をした時であったりする。


しかしこんなに堂々と眠られると矜持が傷つくので馮太師は飛燕を起こそうとしたが、その手は頭を撫でるに留まった。飛燕の顔があまりにも疲れた顔をしていたからだ。しかも気持ち良さそうにぐっすり眠っている。馮太師は飛燕の小さな体を書庫にある休憩用の寝台に運んで毛布を掛けた。


「やれやれ、今日の姫は様子がおかしかったな。後で聖上に教えてやるかのお。」


馮太師が姫の従者に使いをやろうとしたら何やら飛燕がむにゃむにゃと寝言を言いだした。


「とり、あ、、、ず、、、あしたからはけんのたんれんだな、、、、」


「、、、、、、、どんな夢だ、、、」



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