出逢い ー ハルカ ー
ヒューー 風が吹いていた。 自分の長い黒髪が風の向きにしたがってなびく。
午前の授業が終わり、他の生徒達とすれ違いながらいつもの場所に行くために外廊下を歩いていると、ある女子生徒のポケットからハンカチが落ちた。
「あの、すみません。これ落としましたよ?」
「あ、ありがとうがざいます!」
彼女はお礼をいうと、一緒にいたもう一人の女子生徒のところに戻っていく。その時、彼女が「今の人、先輩かな?なんか落ち着いててかっこよかったね!」と言った言葉に胸が痛くなった。
この、学校は珍しく中庭がある。真ん中には大きな木があり、その木を囲むようにして校舎が建てられているので、とても変わった形をしている。そして、回りにはいくつかのベンチが設けられているので、昼休みになると生徒達が昼食をとりにここに集まるのだ。自分もいつもここで昼食をとることにしていた。日当たりがよく、三月の今でもあまり寒くない。本を読むのにも打って付けだ。今日もいつものように昼食を済ませ、本を読んでいると、どこからか視線を感じて視線のする先に目を向ける。そこには、校舎の二階から自分を見ているある男子生徒の姿があった。
男子生徒と目が合うと彼は慌てた様子ですぐに自分から目を背ける。不思議に思ったが、もうすぐ授業が始まるので教室に戻ることにした。
午後の授業が始まる。午後の授業の最初は数学だった。
「おい、今日の日直は誰だー?授業を始める前に、この間の宿題のプリント返すから配ってくれ!」
「えーめんどくさいですよー。」
「めんどくさいじゃねーよ、いいから早く配れよ!」
日直の男子生徒が、めんどくさがりながら宿題のプリントを配っていく。そこで、日直の男子生徒が、困ったような声をあげた。
「あれ?赤月さんって誰だっけ?そんな人このクラスにいた?」
「おいおい、クラスのやつのことも忘れたの…か…よ……。あれ?ほんとに誰だっ…け?」
他の男子生徒が、日直の男子生徒をばかにしようとした時、なぜか、彼もまた、わからなくなってしまう。
ガタッ 「はい、赤月は私です!」
彼女、赤月ハルカはこんな状況には慣れていた。
慣れている。いや、彼女はもう慣れを通りすぎて当たり前のことなのだ。
「あ、、そうだ、そうだ。君が赤月さんだったね、ごめん赤月さん。もう、忘れないよ」
「いえ、もう、なれているので大丈夫です。」
ハルカは心のなかで、わかっていた。彼が自分を忘れずにいることは決してないだろうと。彼だけではなく、このクラスにいる生徒、その他の人すべてが。そして、昼休みに自分を見ていたあの彼もまた等しく。
すべての授業が終わり、家につく。
「ただいま、お父さん」
「おーおかえり、ハルカ。今日の学校はどうだったかい?」
「別にいつもと同じ、いつもと同じで誰も私を覚えてないだけの、普通の日だったよ」
彼女、赤月ハルカには秘密があった。それは、一日たつとすべての人間から赤月ハルカという人間の記憶だけが消えてなくなるのだ。いや、正確には、一日たつと赤月ハルカという人間が認識されなくなる。だが、彼女はなぜ、そうなるのか、まったくわからなかった。
「そうか、、まだ、みんなハルカのことを忘れてしまうなか。でも、大丈夫だよ。ハルカ。いつか、必ずハルカを見つけてくれる人に出会うはずだから。
「無理だよ!!みんな私のことを忘れちゃうもん!いないよ。そんな人。」
「いや、大丈夫だよ。ほら、現にお父さんはハルカのことを忘れないだろ?
「それは…そうだけど…。」
一日がたつと、人から認識されなくなってしまうハルカ。しかし、一人だけ彼女のことを忘れずに認識できる人物がいた。それは、彼女の実の父親だった。
「だから、大丈夫だよ。ハルカ。まだ、諦めちゃいけない。お母さんもそういうはずだよ。」
「うん。」
本当に、お父さん以外にそんな人がいるのだろうか。自分を見つけ出してくれる、そんな人が。




